後処理(ジャガ音)

『大丈夫か?』

急にブレインの中に振ってきた馴染みのある声。

『サウンドウェーブ』

俺は嵐のような時間がやっと終わったのが分かった。
少しずつシャットダウンしていた知覚を起動させていく。聴覚センサーの近くで、ふすふすとこもった排気音が聞こえる。少しの間、聞いてなかったいつもの呼吸音。混乱していた思考が、感情が、落ち着いていくのが分かる。

『逃げた奴なら、コンドルが追っていった。お前が気にする必要はない』

その音の主を呼ぼうとするが、声が出ない。まだ完全に機体のシステムが戻らないらしい。手ひどく抱かれたため、どこか不調らしい。

『酷いことをするやつはいっぱいいるんだな』

そうだな。でも、結局生きているだけマシなのだと分かった。この場末で今までこういった事態に合わなかったのが奇跡なだけだったのだろう。
いや、ジャガーたちに会うまでは、俺は他にとって、ただの狂った機体でしかなく、こういうことをされる対象にもなっていなかったのだから、ある意味では『改善』された結果なのだ。気狂いを抱こうという物好きも居ただろうが、そいつが近づくより、俺が逃げ出す方が早かったはずだ。
俺にかけられた白濁したオイルを舐め取りながら、ジャガーがぽつりこぼした。

『サウンドウェーブは、同種に抱かれた事はなかったのか』

ない。と言葉にしなくても、なんとなく分かるだろう。無理やり開かされたその場所が酷く痛む。そこからあふれ出すのが吐き出されたものだけでなく、俺の循環オイルも混じっているはずだ。たしか、初めてのときは、オイルが漏れるはずだった。

『こういう接続というのは、どの種族でも生殖の意味があるのか?』

そうだ。
覗き込まれたオプティックを動かし、返事をする。それでなんとなくは分かったらしい。それ以上はもう聞いてこない。
ジャガーの舌が装甲とこすれ、ざりざりとした音の感覚が早くなった。
ああ、早く掻き出した方がいいのだろうが、体重をかけて押さえつけられたときに間接が外れたらしく、いかんせん動けない。右手も通常なら曲がらない方向へねじれている。
それが分かるらしく、ジャガーも彼のやり方で掻き出すことに決めたらしい。足に彼の鼻先が触れる。

『望まないものは得ない方がいい。痛いだろうが、俺が掻き出してやる。どの種族にしろ、こういうのは早い方がいいのだろう?』

そうだな。
捩れた足の間にジャガーは鼻先を突っ込み、ざらざらとした彼の舌がそろそろと『そこ』に入って来たのがわかった。
――――痛い。
ナカが完全に歪んで、どこかの回路に触れてしまっているらしい。羞恥と痛みに声を上げはしたいが、発声回路は依然と作用しない。
俺が反応できないからか、ジャガーの舌は奥へ奥へと滑り込んだ。質量のあるそれが入ると、ごぼっと音がたち、ナカから漏れ出て行くのが分かる。

『すまない、痛かったか?』

いい。孕むよりはましだ。

『すぐ終わらせる』

水音が早まる。その様子を見下ろしながら、まさか親しい友である彼にこのような処理をさせることになるとはと、やっとあの機体に対する怒りが沸いてきた。しかも、コンドルがその処理に追っかけていった。確実に『もう会うことはない』だろうが、まさか俺にこの友人と擬似の接続をさせることになったあの機体は許せない。
というのも、回路と言うのは不思議なもので、だんだんと刺激に順応してきたのだ。それとも、行為者がジャガーだからか。痛みはだんだんと消えうせ、代わりにゆっくりと変な感覚をブレインに送り込んでくるようになった。
もし、声が出るなら、大きく喘ぎ始めていたかもしれない。
友人の舌で――
その感覚が、俺にこの行為を意識させ、動揺させ始めていた。
すでに、奥にまだ残っているオイル以外の液体は、俺の分泌液だろう。もう、舌の届く範囲で掻きだせるところはすでにないはずだ。
だから、このジャガーが今掻き出しているのは……

『サウンドウェーブ、もう、これ以上は掻き出せそうに無い』

そうか。

『もし、お前が気にしないなら、方法は無くはないが、どうする?』

オ前の、生殖オイルで、殺精スルト言ウコトカ?
声に出しはしないが、ジャガーの意図を汲み上げる。が、もちろん、声に出さないからジャガーには伝わらない。しかし、わずかにあご先を縦に振るだけでジャガーは察したようだった。