どんな顔をして合えばいいんだろう。
少し前にアーウィンと交わした会話を思い出す。一度は、死んだ身となった自分だ。央魔の血で生き返ってしまった、とはいえ…あの夜からずっと眠り続けていた何も知らない彼女が驚くのは確実であろう。「善処」のしようがない。ドアの前でなんとか考えてはみるのだが。意を決して部屋に入る。
昼間だというのに仄暗い部屋の中でレナが起き上がる――体を起こした彼女の目は赤かった。
しかし、こちらを認識した途端、そのふわり灯った赤色が澄んだ琥珀色に変わった。一瞬の、見間違いかとも思いたかった。アーウィンの語ったレナの融合の仕方から、自分の中に湧き出た仮説が現実のものと分かり、嬉しくはあるのに苦々しい。ねぇちゃんには笑顔で会おうと思っていたのに。
「……フレディ?」
驚異に見開かれたその大きな瞳にみるみるうちに涙が浮かぶ。その涙はフレディが見てきたレナの涙の中で、一番綺麗だった。困惑に、恐怖に、悲しみに、いつも歪んでいた赤い唇からは白い歯がこぼれ見える。彼女の笑い顔もうれし泣きも初めてのものだった。その分だけに、彼女の弱く脆い雰囲気に付き足された影がひっそりと寄り添って痛ましく感じる。
ぐっと溢れ出しそうな感情を深くに押し止めて、僕は笑顔を作った。
「ねぇちゃん」
よく頑張ったね。
ベッドの端に座ると、白い腕が延びてきて僕の頬に触れる。少し冷たい。その手をそのままに、僕たちの間に起こってしまった『奇跡』について話した。肌に触れている指先が僕の熱を吸い取ってじんわり温かくなっていく。央魔になっても考えることが苦手なのか、それとも血を流しすぎて消耗しているからか。ちゃんと聞いているようで、彼女の表情がよく分からないと語っていた。
「ああ、あのアーウィンってやつも生きてるよ」
そう、と安堵したように彼女は笑った。
「でも……良かった。入ってきたフレディを見たとき、幽霊かと思ったもの」
冥使をオバケと呼ぶ彼女らしい発想に自然と目元が細まる。そんなねぇちゃんは”村”に馴染めるだろうか。央魔となった者は、”村”に行かなくてはならない。祓い手たちの監視と制約のもとで、保護されなくてはならない。”村”に行くことで、いくら生きる権利が、人間的人格が勝った央魔がヒトと共に生きる権利があっても。彼女の特殊性を思うと、少し煩わしかった自分の立場がものを言うのが皮肉だった。
彼女は、そんな僕の心情を知ることもなく気だるそうにしている。まだ体力が戻っていないのだ。
「ねぇちゃん、眠いの?」
「ん……」
もう一度寝なよ、と床についた彼女の髪を撫でてやる。くすぐったそうにしていたのは最初のうちだけで、すぐに死んだように眠りに落ちた。
「おやすみ、レナ」
僕はにっこりと微笑みかけ、静かに部屋を出た。