バスは俺とねぇちゃんとアーウィンを乗せて、ゆっくりと走り出す。バスの中には次期大老師となるオーゼンナートの第七子と特殊な融合を果たした央魔、守り手ではないのに央魔になるまえからその央魔側に付き従う冥使。何の変哲のない車内が異空間であることを誰が気づくであろうか。
知識の間にあった禁書を回収したナップザックを足元に、ちらりと二人の様子を観察する。
アーウィンは木の箱を大事そうに抱え、無表情で窓の外を眺めている。というより視線を投げかけているだけなのか。
隣に座ったねぇちゃんは、バスに乗ってからというもの、そわそわと落ち着きが無くなった。あの友達のチョーカーを不安そうに握りしめ、バスの中から見えるものや感覚に触れるものにびくびくと驚いている。
どうしたの、と声をかけようと思ったが彼女の今までの境遇を思うと、全てが新鮮なのだろう。少し頬が紅潮している。好奇心の強い本来の性格に押されて、あの夜から時折垣間見える冷徹さが溶けて無くなったようだった。
「レナ、次で降りますよ」
不意にアーウィンがこちらを振り返り、俺がかけようとしていた言葉を先に抜き取った。その声にはっとしたレナは、また憂いを含んだ表情に戻った。