He Left for There to Investigate

ねぇちゃんが重ねるように取った手をぎゅっと握る。心細い、のかもしれない。ねぇちゃんは変わることがまだ苦手なままだ。変わることを極端に嫌がる。もし誰かがねぇちゃんの世界を変えるようなことがあったら、それがねぇちゃんの世界の構成員であっても容赦なく――アーシュラをその性格を計算に読み違えていた。 大人しい色の差す琥珀の瞳に、激しいものを垣間見る。

「フレディ、気をつけてね」
「どこかに行くのか?」

口を開きかけた俺に、上から平淡な声が被さった。何時の間に。質問を俺に投げかけた割にアーウィンの視線はねぇちゃんだけに注がれている。俺はねぇちゃんの手をゆっくりとほどいた。

「まぁ、今回の単独行動で動いたことへの罰みたいなモンで今度は面倒なことに護衛付き」

間違っていないし嘘でもない。素直にその質問に答える。他に関心を持たない冥使だから俺がこんな事を言ったところで関係ないのだが、この冥使は分からないことだらけなのだ。”村”について深くを知っている理由。レナを特別視する理由。あの時、窓枠で目を赤く灯らせてからアーウィンはこちらに話をしようともしない。それでも、知らないし教えてくれないのならば調べれば良い。
未だ心配そうにこちらを見ているねぇちゃんに俺は手を振り、俺は部屋を出た。

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フレディは夜のうちに、すでに”村”から出発したらしい。朝起きてまだベッドの中でぐすぐすとしている時、そうアーウィンに教えられた。

「今日は何をするの?」

アーウィンに尋ねる。私はあの家で暮らしていた時、体調が少し良い朝はいつもそう尋ねることで始めていた。
アーウィンは私の教育係だ。学校で教わる科目以上にラテン語や古い言葉、各国語を習った。まだ話すことや書くことは苦手だけれど辞書さえあれば、拾い読みくらいは出来る自信がある。
アーウィンとの授業は厳しいものだったから、特に初めのうちなんかは、終わると頭をごちゃごちゃと誰かの手でかき混ぜられたように混乱した。
リズとマシューにその授業の話をした時には、リズは「何でも出来るのね。もとは何をしていたのかしら」とアーウィンに感心し、マシューは「うげぇっ学校以外でそんなに勉強するなんて」とボヤいていた。
私はお母さんやアーウィンが言っていた通り、アーウィンは色んな国に住んだことがあったことを、各国語の勉強は元気になった時に国々を仕事で飛び回るお母さんとずっと一緒にいられるようにするためだと答えた。2人はそれで納得したようだったが…思えば、これもフレディが言う私がリズやマシューと同じように疑問を持つべき点の1つだったのかもしれない。
アーウィンは私の言葉に少し驚いた顔をしたものの、少し穏やかな声でいつものように返してくれた。

「そうですね。今日は――」