「ブロードキャスト!」
その晴れやかな声に、オレ以外の機体も驚き振り向く。声の主の青い機体はとろけるような笑顔で、共有スペースの反対側からこちらに手を振っていた。
前触れのない呼びかけ。
やや気障なところがあるトラックスなので、こうあからさまだと、みんなも気がつく。衆人環視の中、オレは小さく手を振り返した。
そんなオレに満足したらしく、トラックスは颯爽と歩き去った――後には、オレと、困惑した様子の周囲の機体だけが残った。
「……今のって?」
フリーズしていたオレに、ちょうど音楽の話題で話していたマイスターが、笑いながら肩をすくめる。
トラックスの乱入で不思議な感じになった雰囲気の中、ストレートに聞いてくる。それがありがたくもあるが、あまりに直球すぎて戸惑う。周囲を見なくとも、他の機体が声を潜めて聞き耳を立てている空気をひしひしと感じる状態なら、なおさらに。
「えーっと……『好き好き光線』?」
オレはトラックスの独特な語彙を、そのまま引用する。しかし、マイスターはすぐにそれの意味するところを察したらしい。恋愛的な好意の文脈であると分かったらしい瞬間、あからさまに面白がった様子になった。
「ああ、なるほどね。なら今のは、私への牽制だったのかな?」
そんな興味津々といったマイスターに対して、オレは答えに窮する。
急に今のような熱烈なアタックをするようになったトラックスの意図なんて、オレが知りたいくらいだ。期待されているようなことは、まだ何もない。
「いやまさか……でも、よく分かんないというか」
「分かんない?」
「どうしていいのか、とか。トラックスは何を考えてるのか、とか」
トラックスはあの夜の後から、トラックスの言うところの『好き好き光線』を隠しもせずにいつでも放つようになった。
あの時は冗談めかして誤魔化していたのに。しかし、じゃあ何かあるかと言うと、好意的な言葉や態度がよりストレートに出てくるだけ。身体的な接触はない。おそらくそこは流石に線を引いて、オレに選択肢をくれているんだろう。
とはいえ、トラックスの好意はあまりに早急すぎて。そして、頻度が高すぎて。自分のことながら、オレ側のことを深く考える暇もない。
「とにかく困ってる、っていう感じ、というか」
オレの言葉に、マイスターは急に好奇心を引っ込め、バイザーの下の口元に何とも言えない微笑みを浮かべた。
「……じゃあ、トラックスは前途多難だな」
オレはこういう時にどう反応していいか分からず、困り果てた。何なんだ、その笑い方は。そう突っ込むことすらできない。
トラックスの乱入で、何をどこまで話していたのかも忘れてしまった。興味津々な周囲の視線から逃げるように、オレは共有スペース退散した。
『まあ、つまり、君は俺にとってこの宇宙で一体だけ、ってことさ』
歩きながら、トラックスに言われた、こっ恥ずかしいセリフを思い出して、ひとり赤面する。なんという殺し文句だろう。ラジオの音楽に紛れ込ませるように、トラックスが呟いた言葉。もしこのオレっちが聞き逃したとでも思っているのなら、通信兵の聴覚センサーを舐めすぎだ。
オレにはっきりと伝えるのではなく、漏れ出たように聞こえた言葉。だからこそ余計に嬉しかった。好きだとか好ましく思うとか、そういう好意の言葉が今までになかったわけじゃない。オレはそれを友情の範囲だと思っていた。けれど、あの夜のあのセリフは、あの時のオレにとっては意味がありすぎる言葉だった。あの夜、オレが色々と話しだす前から、オレが欲しかった言葉をトラックスの言葉でもらいすぎていた。
『オレっちも好きだなあ……えーと、この曲』
だからあの時、ついラジオから流れていたラブソングに委ねるように、トラックスの好意に応えるような言葉が口を突いて出た。
が、その言葉を発するに至った衝動や、オレ自身の考えを、オレはまだ消化できていない。じっくり考えたいのに。相手に猛アタックをされて、どう反応するべきかで処理落ちしかけている。
そもそもあんな語彙をトラックスがどこから仕入れてきたのか? そういうボキャブラリーチップでもあるのか? 他の誰かに言ったり言われたりしたことがあるんだろうか? そう思うと面白くない気もするが、とにかく、混乱しっぱなしだ。
流されているのか? 流されたままでいいのか? 応えるべきなのか? こういう状況なら、次は?
理解が追いつかない。
だって、オレ、こういうの初めてだから!
「でさ、付き合ったら何すんの? 何が変わるの? 付き合ってみてダメだったらどうすんの?」
頭を抱えながら初めての混乱と困惑を吐き出す。と、相談相手のラウルは大笑いした。
サイバトロン基地では、相談なんか誰にも出来ない。いくら相談しやすい司令官やプロール、ラチェットあたりにだって、恋の話なんて恥ずかしすぎる。巻き込んでしまったマイスターにも、改めて、なんて話しにくい。その時は良くても、次の会話の時にどう顔を合わせて話せばいいのか想像もつかないからだ。
なので、困りきったオレは、サイバトロン以外の誰か――トラックスと共通の友達にすがることにした。若いラウルとは趣味や感覚が近い感じがするし、トラックスのことをよく知っている。
「……笑わないでよ。困ってるんだから。何もかもが急展開でさ」
「ああ、ごめんごめん。いやあ、おいらはもしかして、とは思ってけどさ」
「ええっ、トラックスのこと、前から気づいたってこと?」
まあね、とラウルはそう言って笑う。
「だって、どう見たって……まあ、だいぶ熱のこもった視線だったというか。とは言え、トラックスって繊細だろ? まさか開き直ると、ああいう感じになるとはね」
オレは驚き仰け反った。ラウルは相談相手として適任だったらしい。
サイバトロンの皆はトラックスがオレを……なんて、トラックスがああなるまで誰も気づいていなかった。と思う。おそらく、たぶん。
それともオレだけが気づいていなかったのか?
しかしながら、改めて他の目から見たトラックスの好意というのを言葉にされるのは、気恥ずかしい。
「俺は嬉しいよ。何百万年だって生きる宇宙人のあんたらでも、その辺りは人間のティーンなんかとそんなに変わらないんだって思えてね」
「あのねえ、君。これでもオレっちは、あの中だと若い方なの。だから困ってるんだよ。経験ないのはみんな知ってるから、面白がってくるし」
そう、実際に若いのだ。古参の連中が言うセイバートロンの古き良き時代なんて知りようがない。ごくまれに、誰かと誰かはあの頃に付き合っていたとかいないとかを耳にすることもある。基本的にはその手のことは大っぴらには言わない。それでも、明るい話にはみんなすぐに飛びついて祝福するし、何十万年何百万年も昔のことをよく覚えている。
それが、オレにはとても怖い。一回でも付き合ったりなんかしたら、それこそうっかり別れてしまったら。それがオレたちの中で、永遠になってしまう。
その話をすると、ラウルは考え込み、頭をかいた。
「おたくら、銀河の果てから地球にまで来てるってのに、なんつう狭い世間で生きてるんだよ」
「オレたちは、比較的長命だからね。だから困ってるのさ」
オレはため息をつく。と、ラウルは腕を組み、うんうんと頷いた。
「……なるほどね。でも、付き合わなかったら、今の関係が続くとも限らないだろ? 長い人生なら、心変わりだってする。なら、付き合っちゃった方が後悔がないぜ?」
ラウルの言葉に、オレは固まってしまった。
「だから、さっさと――」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ。なんで付き合う前提なのさ」
混乱したオレを置き去りにしそうなラウルに、待ったをかける。オレをじっと見た後、ラウルは何とも言えない微笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「悪い気は、してないんだろ?」
あっけらかん、とラウルがそう言う。
「だってさ。おたく、どう見てもトラックスのことを好きだからよ。さっきから困った困った言ってるけど、鏡見てみなって。困ってる奴の表情じゃないんだから」
「えっ?」
思わず、ラウルに隠すようにさっと顔を手で覆う。顔が、熱い。
「そんな顔されちゃ、トラックスもいけるって思うのも仕方ないってもんさ。だから、距離詰めてきてるんだろうし」
「そんな顔って……」
「それに自分の言ってることを考えてみろよ。普通は、さ。興味ない相手に言い寄られたら。そもそも付き合ったらどうなるか、別れたらどうするんだ、なんて考えないんだよ」
「…………」
「トラックスは腹括ったんだろ? じゃあ次は、ブロードキャスト。あんたの番さ」
「困ったなあ……」
思わず漏らした言葉に、口を押さえる。口癖になりつつあるその言葉は、オレにさっきまでの会話を思い出させた。
オレの顔が、なんだって言うんだよ。
口元に当てた手からは、まだ熱を感じた。ラウルの指摘があんまりにあんまりだったから、基地に戻っても落ち着いていられない。ただし、今はほとんどがパトロールへ出払っていて、人員がほとんど居ないのが救いだ。それでも更に人気のないスペースへ逃げ込んでいる。誰か探しにでも来ない限り、オレの今の表情を見られることはない。
オレって、トラックスのこと、付き合いたいって意味で好きなのか? いや、いい奴だよ。優しいし。軽薄なポーズはしてるけど、ちゃんと自分の考えを持っている。
……ラウルのあの笑い方。きっと、同じように笑っていたマイスターも同じことを思っていたに違いない。オレは困ったと言いながら、デレデレした表情を周りに見せていたらしい。
オレはため息をついた。
「――どうしたんだ? ため息なんかついて」
「!」
突然かけられた声に、オレは飛び上がるほど驚いた。振り返ると、あのとろけるような顔で笑うトラックスと目が合った。あまりに思い詰めていたからだろう。足音にすら気づけなかった。
今一番会いたくなかった機体の登場に、オレは取り乱す。
探しに来なきゃ、か。そりゃあオレを探す機体なんて、トラックスくらいのもんでしょうよ!
『そんな顔されちゃ、トラックスもいけるって思うのも仕方ないぜ』
途端、ラウルのからかいの言葉がブレインを過ぎる。体中の循環液が逆流したかのような衝撃を感じた。
オレ、トラックスにもそういう表情してたんだ!
無意識に無視していた事実に、オレは俯き、咄嗟にトラックスから顔を隠した。
「どうかした?」
完全に俯き固まったオレの顔を、トラックスが覗き込んでくる。
近い。顔を見られる。
今までに感じたことのないレベルの羞恥が、ブレインを埋め尽くす。衝動的に、オレは自分に寄せられた好意を、困惑のまま力いっぱい跳ね除けた。
「おっと」
突然機体を押し返したせいで、トラックスは少しよろけながら後ずさった。距離が少しでも開いたことに少しほっとする。
しかし、オレの手が当たったところ――トラックスのボンネットを見たオレは更に動転した。
胸元の目立つ部分、コバルトブルーのつやの中に、銀色の線が生々しく走っていた。
「あ、ご、ごめん。傷が……」
自分の手元を見ると、指先に青い塗料がついている。
とんでもないことを。
いくら小さな傷でも、トラックスが何よりも大切にしている車体だ。オレはことの重大さがよくわかっていた。トラックスは傷に視線を落とし、悲しげに俯く。しかし、その視線がオレに戻った時、それだけではなかったことにオレはすぐに気がついた。
こちらを見つめる青いオプティックが仄暗く瞬く。
「……迷惑、だったかな?」
傷も酷いことだが、それよりもなお悪い。明確な拒否。オレの保身の行動は、トラックスの心を傷つけたらしい。
しかし、その質問にうまく答えられるようなボキャブラリーチップがオレにはない。
「ご、ごめ――」
そこまで言いかけて、このタイミングでの謝罪は、ただの肯定でしかないことだと悟る。しかし否定したとしても、今している行動は全てトラックスを拒否したことの証左でしかない。
「…………」
「急に、悪かったな。出直すよ」
何も言えなくなったオレが黙っていると、トラックスは悲しげに微笑み、踵を返そうとした。出直すとは言っているが、きっと、次はない。
今の関係が続くどころか、付き合う前に、関係が破綻していくのが直感的に分かった。
『トラックスは腹括ったんだろ? じゃあ次はブロードキャスト。あんたの番さ』
ラウルの言葉がブレインで反芻する。瞬間、オレは反射的にその腕を掴んだ。
「うわっ!」
オレに背中を向けつつあったトラックスが、驚いた声をあげてその場に止まる。
「……ごめん。でも、――」
しかし、相変わらず、言葉が出てこない。いつもはおしゃべりだとかラジオ局のようだとか言われるくせに、肝心なことを相手に伝えられない。目線を合わせることも出来ず、壊れたスピーカーのように押し黙ってしまい、オレは自分が何をしたいのかを必死に解き明かそうとしていた。
今、トラックスを引き止めた意味。
指摘の後にずっと抱いていた疑問が、明らかになっていく。しかし、その自覚はまだ言葉にするには未熟で、繋いだ手をただただ見つめるしか出来ない。
「……えーっと? これは、迷惑じゃないって解釈してもいいのか?」
無言のままで時間が過ぎていく中、気まずそうな声で、トラックスがオレの代わりに言葉を繋げてくる。視線を上げると、少し嬉しそうな、しかし困ったトラックスの表情が見えた。
ああ、オレってこういう表情をしてたのかな。
そう思った瞬間、オレは思わず――
「うん」
そう答えてしまった。トラックスがこちらをまっすぐ見てくる。その視線から逃げ出したくなる自分をオレは必死に抑えた。スパークは爆発しそうだし、ブレインはショート寸前だ。でも――
言え! 言え! 今、言うしかない。
真正面から見つめ合いながら、オレは必死にずっとメモリに溜め込んでいた感情を絞り出した。
「……うん。多分、そうだと思う……分かんない、けど」
あまりに稚拙な言い方に、自分でも辟易とする。
恥ずかしいが、一度口に出すと、オレは溢れる伝えたいことを止められなくなった。
「そうだよ。でも、迷惑には迷惑で間違いなくて。どうしたらいいのか、迷ってるし……嬉しくて、困ってる。オレ、こういうの今までなかったから。それに、もし付き合ったらいつか別れるわけだし。だって、何百万年も付き合うとかって聞いたことないし」
堰を切ったように、言葉が出てきて止まらない。
オレは気まずくて、もうトラックスの顔さえまともに見られない。どんどん下がっていく視線とは対照的に、オレの一方的なおしゃべりは加速していく。
「っていうか、付き合う前から、別れるとか言うのも意味分かんないんだけど。ああ、もう……なんかうまく言えないし。結局、こういうのに全然慣れてないわけ。言葉でも態度でも、ブレーキがかかる。それなのに、トラックスは優しくて。それが嬉しくて――」
そこまで一気に捲し立て、オレは結局、同じところに戻ってきてしまった。
「……迷惑で、困る」
ああ、ついにやってしまった。
無駄なループと否定にしか聞こえない言葉に、一気に自己嫌悪でブレインがいっぱいになる。スパークはもう散り散りで、トラックスの前で立っているのがやっとなくらいだ。
呆れられただろうな。カッコつけるつもりはなかったけど、もう少しまともに話せたらよかったのに。
先ほどからずっと黙っているトラックスの表情が見られない。が、沈黙の後、トラックスは不意にオレの名前を呼んだ。
「ブロードキャスト」
晴れやかな声に、驚き顔を上げる。
オレの言葉の何が嬉しかったのだろう。トラックスは少し気取った咳払いをした後、例のとろけるような笑顔をオレに向けた。
「君を混乱させてしまったことを、謝りたい。君のペースも忘れて、踏み込みすぎて、ごめん」
「……いや、悪いのはどう考えてもオレでしょ。トラックスは悪くないよ」
そう言いながら、オレはずっと自分がトラックスの腕を掴んでいたことを思い出し、慌てて手放した。
オレが視線を逸らすと、トラックスは少し笑ったようだった。
「それで、その困惑は、待っていればおさまるかい?」
「……うん、たぶん?」
長考の末、オレが頷くと、トラックスは明るく言う。
「じゃあ待つよ。急に距離を詰めすぎたけど……元々、ずっと待つつもりだったんだ。君は若いからね。いろんな世界を見て回って、『結局、トラックスより格好いいやつはいない』と最後に言ってくれればいい、ってね」
そこまで考えてくれていたのか、と言う気持ちで嬉しくなる。しかし、同時に、そこまで考えていたなら、何でそうしなかったのかとも思ってしまう。しかし、どちらにせよ、理由はオレでしかないのかもしれない。
「君に近づけたのが嬉しかったから、自分を抑えられなかったのさ。年甲斐もなくね」
答え合わせのように、トラックスはそう言う。トラックスは何かに夢中になるとそればかりになる傾向はある。人間と関わり始めた頃は、何かと言うと基地の外に出たがったりしていた。しかしあの執着が自分に向いていたとなると、何だか余計に恥ずかしい。
なら、あの周りを気にしないで声をかけてくる態度も納得はできる。
マイスターにはあの声掛けは牽制だったのか、なんて聞かれたけど。そう考えると、意図すらしてなかったかもしれない。
「……マイスターが、トラックスは前途多難だって言ってた」
思うと、あの言葉はオレが煮え切らないことを見通していたのかもしれない。そう思うと、そこまで見透かされていたことに悔しさがないわけじゃない。
「そうかい? 正直、さっきの言葉が君から聞けただけで、かなり報われた感じがするけどね。だいぶ、俺に気持ちが傾いてきてくれてはいるんだろう?」
「…………」
傾きどころか、真っ逆さまに落ちている最中だよ。
そう伝えはしたいものの、まだ初めての感情の濁流に飲まれているオレのスパークでは当分無理そうに感じる。
トラックスの美学は、正直全ては理解しきれてない。だからこそ、オレは不思議に思ってしまうのだ。
「どうして、待ってくれるのさ? そんなにオレが――オレでいいの?」
今や平然と傷消しのクリームを塗っているトラックスについ尋ねる。トラックスは何ともない様子で、あの夜の言葉を繰り返した。
「前に言ったかもしれないけど、君は僕にとって、宇宙でたった一体だからさ」
……そういうことをさらっと言うのが、本当に、本当に、困るんだけどなあ。
だって、オレがはっきりしない限りはずっと待ってくれる。ずっとこういうことを言ってくるってことでしょ?
今は、あの夜のように音楽もかかっていない。今、オレが言葉にしてしまったら、真っ直ぐにトラックスにも伝わってしまう。それでも、オレはそれがどんなに迷惑なのか。どうしてオレが困るのか。はっきりと伝えることにした。
「まあ、そこまで待たせる気はないんだけどさ。だって、先に覚悟を決められちゃうとさ」
突然切り出したオレに、トラックスは意図を汲みかねた様子だ。それでも、どんなに拙くても、さっきのカミングアウトよりはマシだろう。少なくとも、トラックスはちゃんと聞いてくれるはずだ。
「迷惑だとか困るとか言ったけどさ。別に、結局のところが決まってないわけじゃないんだ。だから、つまり、オレも――」
ぐだぐだの言葉を、リズムも譜面もめちゃくちゃなアドリブで垂れ流す。まるで混線したラジオみたいだと思いながら、言うべきことを、言う。オレが言葉を重ねるたびに、どんどんトラックスが嬉しそうになっていく。
それがすごく恥ずかしいものの、相手が嬉しそうのが、嬉しい。
「――だから、オレも、好きだよ。まだ慣れてないけど、面倒くさがらずに、付き合ってくれる?」
オレが言葉を言い終わるや否や、トラックスはクリームを放り投げてオレに抱きついてきた。
「もちろんだよ!」
見たことがないほど喜んでいるトラックスに、オレは正直ときめいてしまった。そして、ぎゅうぎゅうと圧迫される感圧センサーからの反応と共に、だんだんと嬉しさと実感が増してくる。
と言うか、そんなに機体を合わせられたら、またトラックスのボディに傷を作ってしまう。それなのに、それを全然気にしていないトラックスに気づいた時、ブレインサーキットを焼き焦がすような想いが溢れてきた。
なるほど。進んだら、それはそれで違う『迷惑』が増えるのか。
照れながらも、オレはそれを甘んじて受け取った。