結局、朝ごはんの後はぎりぎりまでゆっくりしてしまった。
参謀レベルでありながら遅刻しないかとやきもきとしている気配を感じ取り、作業場上空に近づいた俺はコックピットの中のカセットプレイヤーに声をかけた。
「もう着きますよ」
すると少しは安心したのか、威圧感が少し下がる。
「相変ワラズ、お前タチは速いナ」
サウンドウェーブが呟くようにそう言った。
自慢のジェットを評価され得意になるが、「お前たち」という言葉に引っかかる。
そう言えば、何回かスタースクリームのやつがこいつを乗せていた気がする。でも俺はサウンドウェーブを乗せるのは初めてだ。
「……あんたさえ良けりゃ、いつでもアシになってやりますよ」
「覚えてオク」
これは覚えておかないやつだろう。
いつもはすぐトランスフォームしながら着地するが、今日はサウンドウェーブがいる。ビークルのまま臨時基地に降り立ち、コックピットを開ける。サウンドウェーブはすぐさまロボットモードに代わり、フレンジーたちをイジェクトした。
俺もロボットモードに戻る。
――その途端、基地内がざわついた。
普通にしていたやつらが一斉にこちらを見ている。
ん、なんかやらかしたか?
「なんだ、今日は赤飯を配った方がいいのか?」
妙な距離感を感じていると、サウンドウェーブの代わりに先週末からこっちに来ていたレーザーウェーブが珍しくふざけた様子で話しかけてきた。
防衛参謀もこんなしゃべり方するのか。
「ドウイウ意味だ?」
が、サウンドウェーブが不愉快そうにそういうと、呆れたようなため息をついてみせた。
「……そこらへんの奴らをブレインスキャンしてみろ」
数秒の沈黙の後、今度はサウンドウェーブが呆れたような声を上げる。
「ソンナコトが起こる筈もナイだろう。オ前も意外と勘ぐりヤスイのか。一人で呆ケテいるのが常駐化スルと、要らない詮索が増エルらしいな」
こいつ、防衛参謀にもこういう話し方するのか。
サウンドウェーブのキツい言い方に驚くが、レーザーウェーブも負けてはいなかった。
「セイバートロンの基地は人員が簡単に変わらないからな。お前もあっちに1デカサイクルもいれば、ゴシップが何よりの楽しみになる。良かったら、交代するぞ?」
「俺ヨリ優秀だと示せれば、1デカサイクルくらいは考えナイことはない。俺ノ居ない時に異常はナイだろうナ?」
皮肉の言い合いをしながら、二機は何事も無かったように引継ぎの話をし始める。
この間には逆立ちしても入れねえだろうなあ。別に入れないからといって、寂しいだとか悔しいという感じはしないが、ここに関しては俺がどうこう出来る感じがない。
その場から静かに去ろうとすると、いつもつるんでいる奴らやその他の機体が固まっていて、こちらに小さく手招きしているのに気がついた。何だと近づくと、腕を取られてその輪の中に引っ張り込まれる。
「おい、サンダークラッカー!あれどういうことだよ?」
「は?」
「お前、さっき情報参謀乗っけてきただろうーが!」
「ああ、あれね」
あいつんちで寝オチしたから――――
そう言いかけた途端、周りの奴らが嘆くような声をあげた。さっと掴まれていた腕が離されて一歩引かれる。よく見れば、泣いている奴もいる。
なんだこの異常空間は。
「……で、お前らはどっちがどっちなんだ?」
そのうちの一機が、搾り出すように聞いてくる。周りの奴らは食い入るように聞いてくる。が、中には聴覚センサーを抑えている奴もいる。
「どっちがどっちってどういうことだよ?」
「は、そりゃあ、あの陰険参謀と、……ッたかってきいてんだよ」
「は? 今なんて――」
ブレインの解析が終わった瞬間、すべてが吹っ飛ぶ。
……ヒューズがぶちきれたかと思った。
「そんなわけねえだろうが! あいつが風邪引いたから、カセットロンの飯の世話してただけだよ!」
全ての機能が一時停止した後、発声した音声はアホみたいにでかかった。
その慌てようから、周りは余計に騒がしくなる。
「初めはみんなそういうんだよ!」
「あんな親密そうな空気感出してて、何も無かったなんてことはねーだろ!」
騒ぎが大きくなる前に、どうにかしなければ。
まだいらっしゃる時間じゃないが。これ以上また騒ぎが大きくなれば、また――
「騒がしいな」
よく通る低い声が響き、けたたましさがひっくり返る。
ああ、間に合わなかった。
サウンドウェーブを盗み見ると、ものすごい顔をしているのが、バイザーとマスク越しでも分かった。
「これはもう同居確定だよなー」
「サンダークラッカー、メシ連れてってくれたり、悪くなかったし。俺はまあ良いと思うぜ」
「そうだよな。サウンドウェーブも甘んじてたし、やっぱりジャガーの言ってたとおりなんじゃね?」
「まあ、サウンドウェーブもサンダークラッカーも年貢の納め時って奴なんじゃね」