ドアノブが、がちゃがちゃと音をたてるがドアの前に紐で縛った大量の本を置いて置いたせいか、向こう側から開けることが出来ないようだった。
空のダンボールに囲まれながら、読んでいた本から目を上げるとフランシスが不機嫌な顔をしてドアの隙間から覗いていた。
「おい、アーサー。お前この大量のダンボールどうすんのよ」
「お前に言われなくても分かってるよフランシス」
「……引っ越ししたくないって言うなら今すぐ止めていいんだぞ」
「なんでそうなるんだよ!」
怒鳴り声を出すつもりはなかったが、さっと空気が凍りついた。
確かに若干、住み慣れたフラットは離れがたい。しかし引っ越しをすると自分で決めたし望んでいる。
なのにフランシスと来たら、最近事あるごとに俺の気持ちを揺さぶって。俺はそれにイラついていた。
静かになった中で、ぎゅうっと内臓が萎縮する。
「あー、進まなくってちょっとイライラしてただけだ。今日の夜までにやるつもりだったから大丈夫だ」
「そう。それならいいけど」
俺はべつに構わないからお前のお好きなようにしろよ?
ドアの隙間が閉まって、今度こそ本当に静かになった。ぐるりと身の回りを見渡すと空のダンボールが、床に積み重なっているのが見えた。
部屋の中をダンボールで埋める生活に慣れたのは、自分でも信じられないくらい早かった。元来、周りから俺はやや潔癖症だと思われていたし自分でもそうだと考えていたくらいだったのにだ。
それがどうした。今じゃ部屋はこんなんだし、引っ越しするための荷物の整理もまるで出来やしない。まぁ、あいつがああ言うのもしょうがねぇな。
「……片づけるか」
さっきは気にならなかった窓の外の雨音がよく耳につく。なんとなく雨降りの午後の中、ぼんやりと片づける自分の状況が分かってきた。