お揃いのサンダルも半端な日焼けも迫る入道雲も最後のバス停も涼しすぎるクーラーの匂いも

道の真ん中に軽トラックのタイヤを避けるように草が茂っている。誰かがここを歩いたり車や自転車で通って自然にその跡が残って道になったようだった。
ややピンク色に照っているだけの肌に噛みついた蚊を叩く。

「海に行かなかったから、今年は肌が全然焼けてないや」
「いつも夏休みにはマイアミにいらっしゃるんでしたっけ」
「ああ、そうだよ。でも念願の京都も回れたし楽しかったんだぞ」

京都が夏にあんなに暑いとは全然知らなかったんだぞ。そう言うと本田がにやりと笑った。

「私としては、暑さのせいでジョーンズさんがお茶に砂糖を入れずに飲めるようになったのでそれだけで価値はありましたよ」
「もう俺は苦いのも飲めるんだから、もうそれは言わないでくれよー」

小石を木のサンダルで蹴りながら小気味良い音をたてている本田は、珍しく口を開けて笑った。しばらく俺を放って笑っていたが、最後にはぴたりと止めた。

「ゲタもせっかく慣れてきたのに」

まったくもってこのサンダルに今年の夏はお世話になった。本田の家に来てすぐに、君のような古いタイプのサンダルが欲しいと言ったら俺のサイズを探してくれたのだった。
結構キレイに使ったから、きっと来年も履けるさ。そう言おうとした俺をさえぎって本田は切ない言葉を呟いた。

「夏も、もう終わりですね」

なんとなく空を見上げても、いつもこちらにすごい速さで迫ってきた入道雲はのんびりくすぶっていて。暑さで歪んで見えた遠くのバス停の標識は、こうべを垂れた向日葵の横ですっくと立っていた。
クーラーとはまた違う涼しい匂いを感じつつ、俺はいつも無愛想で無表情にも見える本田の気持ちが今初めて分かったようで。
来年はアメリカに来てくれよ。
その言葉さえ飲み込んで、悲しげな隣人と夏の最後の道を歩いた。

お揃いのサンダルも半端な日焼けも迫る入道雲も最後のバス停も涼しすぎるクーラーの匂いもみんなみんな沈む青に忘れてしまいそうになる。