「……君のベッドにいくにはどうすればいいのかな?」
いつもの癖で、バラの茎の棘を取っていると、後ろから突然、頬に短い挨拶のキスがされた。振り向く必要はない。俺は黙ってカップに残っていた温い紅茶の残りを飲みきった。
「遅い。あと15分早く来てれば考えてやらなくもなかった」
フランスが来たからにはここに座っている必要もない。コインをテラスのテーブルに置いて、今や突き刺すものを失ったバラを持って立ち上がる。
「いいや、ちょっと用事ができてね」
「どうせナンパだろ。フランス人の男はどんなときでも色事にふけることに関しては無限の才能を持っているって誰の言葉だっけな」
「フランス人じゃないんじゃないの?」
「……お前の家の劇作家だろ、馬鹿」
今日はずっと当てつけてやろうとしていたのに、遂に笑ってしまう。遅刻がどうでも良くなったわけではないが、これから映画を見に行くのにフランスのために不機嫌でいるのが馬鹿らしくなった。
「で、今日は何見るんだ?」
「お前が決めてないのか?」
てっきり相手が決めていると思ったからチェックなんかしてなかった。という様子がフランスからありありと分かる。かく言う自分もそんな風に見えるだろう。
そう思って黙ると、フランスは今まで関心を示さなかった手に持っている赤いバラが気になったらしく、さりげなく手から抜き取った。
「どうしたの、これ」
「さっき座って待ってる時に、シーランドくらいの子どもに貰った」
バラを返せと手を差し出すが、それをくれた少年、という存在にフランスがむっとした顔をしている。
「ガキに妬いてどうすんだ。お前どれだけ俺のこと好きなんだよ」
こいつも意外とガキだな。
笑いと幽かなため息が混ざって、とても幸せな顔になる。
フランスをなだめるように俺はその髪の毛をくしゃくしゃに撫でて、キスを受け取った。