リング!リング!リング!(伊独)

黒電話が鳴るのは、必ずしも吉兆の知らせではないことが毎日の積み重ねで分かっていた。
取らなくてはいけないのだが、既に左腕は頬杖に使っているし、右腕はペンを持っている。……と言ってもこれはただの言い訳だ。出来れば、出来ることなら取りたくはない。

「ドイツ!早くその電話をお静かにしなさい!きっとイタリアからですよ。取らなくて良いんですかドイツ!」

本を読んでいたオーストリアが、電話の音に腹をたてた。下品だなんだと文句を言って部屋を出て行く。出来ることなら同じようにイタリアからの電話を無視して出て行きたい。
ぎゅとペンを握った。

「チャオ!もしもし、ドイツ?俺だよ」

まず第一声に、助けて~とかイギリスがフランスがパスタがピッツァが、と思っていた。しかし出鼻を挫けられる。救援の要請ではないらしい。
イタリアの声は落ち着いていた。
珍しいこともある。もっと早く出てやれば良かった。

「今日は、その、何だ?靴ひもか?」
「何だよドイツーそんなふうに俺のこと思ってるのかよー今日はお前に急に言いたいことがあるだけなのに」

受話器の向こうでイタリアが笑った。

「愛してるよドイツ!じゃね!」

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電話を切ると、すぐにドイツに会いたくなった。きっと今頃は顔を赤くしてるかな。確かめてみたい。
電話でだけど。しかも隣の部屋からかけてるけど。俺、すごいズルしてる。多分だけどドイツは正攻法に弱い。このままだとズルすぎるかな。部屋を出て、面と向かって言わなくちゃ。
ドイツの部屋の前に立つと、目の前でドアが開いた。部屋から出ようとした奴と目が合う。

「イタリア?」

表情は変わらないけれど、耳が赤くなっている。俺は笑った。ドイツが今から何をしようとしていたか分かった。

「ドイツに会いたくなったから来ちゃったよ。お前も、俺に会いに行こうとしてたんだろ?嬉しいよ」

ドイツの気持ちをずばり言い当てられたらしい。後ずさりで部屋の中に戻る。

「ね、ドイツは俺のこと愛してる?」
「あー……決して嫌いじゃない」
「愛してる?」

背中でドアを閉めると、ドイツが観念したようだった。手を広げると、いつもハグするように身をかがめられた。

「……そうだな」

照れたように目を伏せたドイツに抱きつくと、ドイツも笑って、俺の頬に短いキスをした。