その部屋は、動けば動くほど身動きし難くなっていった。この数日間、部屋を埋めるように積み上げられていたダンボールがドアの前に移動している。数時間前には空だったそれらは、今や中身を詰められて黙っていた。
見つからない煙草と落ち着かない床の上に腹を立てて髪を掻きあげる。普段使うものから片付けなければよかったが、そうも言ってはいられない。まずそれらがある表面をどけないと、その後ろにある普段使わないものたちに手が着けられないのだ。
いつもの自分の煙草が見つからない代わりにフランシスのものが見つかった。学生のころからこの銘柄を好んで吸っていたのを思い出す。フランシスのせいで自分も煙草を吸い出してから、この煙草が結構高価であると知った。今思えば、昔から年の割に生意気だった。3歳年上なのは理解してるが。俺よりも先に酒も煙草もいろいろとやっていた。
あの日だって、思い出せばちょっとムカつく。その時までフランシスが煙草をやっていることを、何の銘柄を、いつから吸っていたかを知らなかった。他の奴らは知っていたのに。
フランシスのことを知らない。という不思議な感覚ではあったが、生徒会室の来客用のソファの上であいつは俺にこう言ってのけたのだ。
「坊ちゃんはいつも一緒に居るから、気づいてると思ってたんだけど」
確かに、フランシスと二人きりになることなんか長い学園生活では、比較的よくあることだった。ましては俺が仕切っている生徒会室には人が好き好んで近づいて来る訳もなく、いつも人払いにされた状況だった思い出がある。だからあの部屋に居れば、俺は否応なしにも副会長であるフランシスに会うことになったし、あいつの方も同じ様にたまに顔を出せば俺と鉢合わせるようだった。
しかし、あの日にもしソファに寝転がらなかったならば、俺はずっと先までそのことを知らなかっただろう。
それを思うと、少し腹が立った。