標高の高さからか、麓のスクラップ置き場より少しだけ涼しい。上空では風が吹いているらしく、今夜は星がよく見えた。予想通り、山頂に着くまで人間にもディセプティコンにも出くわすことはなかったし、あたりは静まりかえっている。こんなに静かな夜はいつぶりだろう。
「ここからでも、デニーのところ見えるんだな」
じっと山裾に目をやった後、グリムロックがそう言ってこちらを見下ろしながらにやりと笑った。
「まさかバンブルビーから外に出ようなんて誘われるとは思わなかったぜ」
傍から見ていて、グリムロックの我慢はそろそろ限界が近づいていた。
元々、喧嘩を吹っかけたり騒いだりするのが好きな奴だ。ダイノボットはビークルモードを持たないからという理由で基地の中に留め置くのは酷なのだろう。何も出来ずに居るというのは辛いのは俺だってよく知っている。
見上げれば、山の方からのぼった夜半の月が街の方にまで近づいていた。先日も一体捕まったことだし、今日は多分ディセプティコンは出ないとなんとなく長年の勘が言っていた。それに平日の深夜だ。山の道路を抜ける車も陸運のコンボイくらいのものだろう。
だから――今夜くらいは出かけても大丈夫だろう。そう思い言った『パトロールに行こうと思うんだが、今夜は大丈夫そうだし、お前も来るか?』という提案に、グリムロックは二つ返事で了承した。
「俺だってそこまで鬼じゃない。スプリングロードの時にしろ、ジャズが居た時にしろ、最近お前が出動できた回が少なかったからな」
「あれは――ヒドかった。ビーは他の連中と出かけてばっかりだったし、おればっかり蚊帳の外だったしよ」
いつも通り嫌味無く明るく言うその内容は、ちょっと考えると可愛らしい。
気のいいこいつでも少しは嫉妬するのか。
「それは……すまなかったな」
「もうすんだことだし、今はこうやってお前と外に出れてるし構わねえよ」
男らしくそう言い切る横顔は、微塵の照れも無い。本心からの言葉だと分かるから嬉しいし、グリムロックのこういうところが気に入っているのだと再確認する。
「本当は、もっと出動させてやりたいのはやまやまなんだけどな。俺だってビークルモードになれなくって、出かけられなくなってイライラしてた経験あるし」
あれはメックが台頭してきた時だったか。トランスフォーム・コグを抜き取られて、ひとりだけ仲間たちと戦えなくて――
かつて仲間と駆けたあの赤土の大地のイメージをきっかけに、トリガーの外れたメモリの中身がブレインを覆い尽くす。あの頃は、ラチェットやアーシーやバルクヘッド、ジャックやラフやミコが居て、『彼』が――
「バンブルビーはビークルモードを持っていなかったのか?」
突然の質問に、隔てた時間から引き戻される。
かなり考え込んでいたらしい。尋ねられたことの一部分しか拾えずに、聞き返す。
「え?ああ、ビークルモード?」
「元々持っていないオートボットなんているのか?」
興味津々といった様子で、ダイノボットが尋ねてくる。
『オートボットの偉大なる祖先たちは自らの身を守るために進化した』とストロングアームならここで歴史の講義から始めるところだろうが、グリムロックにとって重要なのはそこじゃない。
今現在ビークルモードを持たないことで戦闘に参加出来ないフラストレーションを抱える彼にしたら、後天的に手に入るとしたら、と気になるのだろう。
「いや、そういう意味じゃない。元々持ってた。だけど」
そう否定すると、明らかに落胆される。しかし、続けた言葉でその表情はすぐにかき消された。
「敵対していた組織に、トランスフォーム・コグを抜き取られたんだ」
流石にグリムロックでもそれがどういうことを意味するのかは同じトランスフォーマーとして分かったらしい。
「取られたのか、コグを!?」
驚き、感嘆するようにこちらを見てくる。
こいつ、こういう武勇伝とか聞くの妙に好きだよなあ。
「まあな。チームの奮闘と、素晴らしい軍医のおかげでこの通り。どうにかなったけど。ラチェットには今だって頭が上がらないよ。俺の尽きかけた命も、コグも、いつも彼が治してくれたしな」
かつての仲間がいかに優秀だったか話すと、ほうとグリムロックはため息をついた。
そういえば、こんな話をするのは初めてかもしれない。
グリムロックはサイドスワイプやストロングアームに比べて実戦経験が多い。
だから、死にかけただとかなんて昔の話をしなくても、なんとなく分かりあう部分があった。思い返せばチームとしてコミュニケーションが足りなかったが、そこに甘えている自分もいる。それに、グリムロックは俺にとってはもう『特別』な相手だった。信頼は、ある。
「ラチェットは軍医だったから、どちらかというとフィクシットみたいな後援タイプで。それを思いつめて合成エネルゴンを作ったり無理をしたりしたんだ。俺なんかよりずっと物知りで分別があるのに……」
戦えない訳ではないのに戦いの場に行って仲間と戦えない。その彼の辛さは、思い返せばあのコグを失った時に痛いほど分かった。
あの時は戦えない自分の価値が下がったように感じて、彼の忠告も受け入れられなかった。俺はあの時はただの技術も経験も無い一介の少年兵でしかなく、焦りばかりが募った。純粋に理解するには若すぎたのかもしれないが。
「だから、お前くらい強いのに基地に残されるのは辛いって事はよく分かる。しかし俺たちは人間から姿を隠した方が良いんだ。怖がらせるだろうし、ラッセルやデニーたちのような友好的な人間だけじゃない。それに、戦闘に参加できなくても、グリムロック、お前も俺たちのチームだ」
『だから理解して欲しい』とそう暗に言うのも、ずるいとは分かっていた。が、素直にうなずくグリムロックに甘えてしまう。
こう話してしまえば、彼はすんなり『理解』してしまう。ただ、
「おいおい、そこまでおれだって子どもじゃねえよ。ただ、おれのかっこいい勇姿を見せられなくって残念だなってだけだ」
とグリムロックがいつものように笑ってみせるうちは、俺の小さなずるさも許される気がした。
それでも、ずるかろうがなんだろうが、これは彼やチームを守るためでもある。今は敵対しているのはディセプティコンだけだが、かつての俺たちのように人間と敵対することになることだって考えられるのだ。
この甘え云々に関しては彼がどこまで分かっているのか、分かっていないのか分からないが、グリムロックが側で笑ってくれている限りはこうしていたい。
俺に待機を命じた時。ラチェットが合成エネルゴンを作った時。『彼』もリーダーとして、こういう気持ちになったことがあったのだろうか?
「そうか」
小さな後ろめたさを振り払いながら、返事をする。俺の薄暗い内心とは正反対にグリムロックは明るい。
「それに、最近はいろんな奴が来たし、ラッセルたちも居る。そこまで退屈してねえよ」
そういえばそうだ。
最近は俺が神経毒でおかしくなったり、地球外から他のボッツが来たりと慌しかった。思い返せばグリムロックと一緒に居ることは居たが、こうしてふたりっきりってのは、かなり久しぶりな気がする。じっくりふたりではなしたりだとか接続したりする時間も――そこまで考えて、今の状況を思い返す。
星空の下、静かな夜にふたりっきりで、深い話をする。どう見ても良い感じじゃないか!
横目で相手の様子を見るが、グリムロックといえばぼんやりと夜空を見上げている。海にはそんなに興味を持っていなかったように見えたが、こいつの言うぶちのめすべき『喧嘩相手』が居なければ、そうでもないらしい。
じわりとそういう気分が高まってくるのが分かる。
「こうしてふたりっきりってのも珍しいよな」
それとなく意識させたくて、ふたりっきりという言葉を強調するが、
「そうだな!」
と元気な返事が返ってくる。
グリムロックのこの間のアプローチはどんな原理でしてたのか。『だめか?』なんて聞いてきたりしたくせに。
「最近はこうやって息抜きする時間もなかったしな」
「まあな。でも、お前がおれのことを考えてくれてるのも分かったし、たまにこうして出れるなら少しは我慢してやるよ」
物分りはいいけれど、飲み込みは微妙だ。相変わらずその視線は遠くの方を見ているし。
「グリム」
名前を呼んで、ようやくしてこちらを振り向く。
つい数デカサイクル前のことを思い出して、自分で照れくさくなる。今から同じようなことをやろうとしてるのに、何たる様か。
「どうした?」
自分から言うかどうかで一瞬迷う。
もともとはガス抜きのためだったのに、ここで明確に言ってしまえば、最初からそのつもりだったと思われてしまうかもしれない。俺から誘って外連れ出して接続しましょうなんて、グリムロックでもどんだけ期待してたんだって思うだろ。流石に恥ずかしい。しかし、言い出さないのも俺は後悔するんだろうなあ。こんな風に抜け出せる機会なんてそうそうない。
ええい、もうどうにでもなれ。
「……俺、これでも誘ってるんだけど」
緑の機体は一瞬だけきょとんとして見せたが、すぐに笑ってみせる。
そして、そこからの行動は速かった。
***
「まさか誘われるとは思ってなかったから、嬉しかったぜ」
口を離すと、グリムロックが目を細めた。俺はというと、何か言い返してやりたいが、もう既に息が上がって返事がうまく出来ない。体格差で肺活量がちがうのだからしかたないが、そもそも舌のサイズも違うのだ。
ディセプティコンと戦ったりケイオンで違法者を追っかけたり、走り屋とレースしたりしてもこうは簡単にへばらないのだが、グリムロックとこういうことになると、どきどきするせいか、すぐにしゃべれないくらいになる。
そういう意味でも、やっぱり俺って……
抱き寄せるように脇に添えられた手がわき腹をなぞり、くすぐったくもぞくぞくもする。その手は今からより下に降るのだろう。が、今夜は俺だって何かはしてやりたい。
背中に回していた腕を引き抜き、体の間に滑り込ませる。コネクタのハッチに指を伸ばすと、グリムロックは不思議そうな顔をした。
「……今夜は俺が誘ったから」
腕の中から下へともぐることで脱出し、グリムロックの身体を近くの木に押し付け、そのハッチの高さへ跪く。すると、ようやく俺のしたいことを察したらしい。ロックが解除され、眼前にゆるやかに起ち上がったコネクタが露出された。
やっぱ目の前にあると、でかい。
「下手かもしれないけど、いいよな?」
ここで聞いてしまうのは変かもしれないが、保険をかけてしまう。
「おう」
「あと、全部は無理だからな?顎関節が壊れたときに、フィクシットに説明が面倒だから」
「分かった」
そう返事をするグリムロックは興味深げにこっちを見てくる。
そんなに、期待はしないで欲しい。こういう視線は苦手だ。あの出動時の掛け声にせよ、やらなくちゃいけないって気分になる。なんにせよ、そんなにこういう形でやるのは経験豊富、ってわけじゃないんだ。
とは思いつつ、言い出したからには、やる。なんとなくどうすればいいかは分かってはいるものの、どこに舌を這わせるべきなのかについては分からない。が、やるからには気持ちよくはさせてやりたい。
おそるおそるコネクタの根元の可動部の重なりを湿らせてみる。そこから先の方へ舌を向ける。先端を軽く咥えてみると、グリムロックが小さく呻いた。声につられて、つい見上げる。
――なんだ、かわいい顔もできるじゃないか。
「これ良い?」
「……ああ」
歯切れの悪い返事というのに少しどきどきする。余裕の無さそうなグリムロックというのもなんだか新鮮だ。
先の方を口腔ユニットに収め、しばらく虐めてやると、その息が荒くなる。前回は全然余裕がなかったから気づけなかったが、こうやって俺によって気持ちよくなってくれている様子を見るのは悪い気がしない。
やっぱり、もうちょっと刺激が強い方がいいのか?
もう少しだけ、と範囲を大きくすれば、グリムロックは薄く目を閉じて身を捩らせた。ギザギザした歯の見える口の端から垂れたオイルが一筋光って見える。
「――――ッ、」
グリムロックが息を呑み、その眉根がぎゅっと寄った。先端への刺激が多すぎたらしい。全部は入らないが、出来るだけ奥まで迎え入れる。
口に含んだことで、どれくらいの大きさとか固さだとかが余計に分かってしまって、これからこれが俺に考えると期待が高まる。
ついそんなことをぼんやりと考え事を始めると、いつの間にか口を止めていたらしい。頭をなでられ、はっとする。
「疲れたか?無理すんなよ」
なでられる感覚が心地よい。
コネクタから口を離すと、口内の洗浄液と先走りのオイルが糸を引き、胸元に落ちる。
「すまない、ぼんやりしてた」
口元を拭うと、頭をぽんぽんと触れられる。顔を上げると、今度は脇を持って抱き上げられる。
「なっ」
ずっと立ち膝をしていたせいか、すこし眩暈がする。
「もういい。これ以上やられたら、あごが壊れそうになるまでつっこみそうになある」
にこやかには言っているが、やはり排気音が荒い。熱が上がって、限界が近づいていたようだ。
「……わかった」
まあ、俺もそうなのだが。
内部自体にはあまり触れられていないのだが、ブレインとスパークへのどきどきさせる刺激のせいか、もう切なくなってきている。
今度は俺の番らしく、先ほどグリムロックを押し付けた木に身体を向けられる。
このタイミングで触られたら、ヒューズがぶっ飛ぶんじゃないだろうか。多分、腰がくだける。
崩れないように、木に顔を向けてもたれかかるように立つ。すると、後ろからハッチを手を伸ばされ、それらを開けるように頼まれた。
「ん……っ、」
「ビー、お前、機熱やばいぞ」
そこに指を入れたグリムロックが驚いたような声を上げる。
やばい。少しの刺激で、すごい――クるものがある。後ろから攻められるというのも、なかなかやばいな。
全く慣らされていない状態だが、今、次の段階にうつっても大丈夫な気がしてくる。さきほどまで口の中で受け入れていたためか、喘ぐと口内オイルが溢れてくる。もう、口の中にコネクタのオイルの味は残っていない。
「ぐ、リム」
「どうした?」
グリムロックが俺のだらしなくなっているであろう顔を覗き込んでくる。
――さっきまでの可愛い顔は、どうした。
俺ばっかり情け無いのは悔しい。が、やっぱり限界だ。
「……もう欲しい」
寄せてきた頭の聴覚センサーに囁く。グリムロックにはこの申し出は予期してなかったようだが、すぐに指を引き抜いた。思わず、ふっと息が漏れる。入れやすいだろう位置に自分の腰をあげるというのは、こんなに恥ずかしいのか。しかし、もう期待しているという事実を否定できない。
入れるぞ、という声にぞくぞくとしたものが背をのぼる。慣らしてないからか、あてがわれた瞬間から猛烈な違和感がブレインを襲った。
ゆっくりとかきわられるが、苦しい。
「っす、……はっ、は、うぅ、ふ――はあ、」
思わず吸った息で体が緊張するのが分かったが、そこからどうしても息を上手く吐けなくなる。吐かないと余計に苦しくなるのは分かっているのだが、息がつまる。上腿に何かが垂れていく感覚から、準備が出来てなかったわけじゃないはずなのに――!
奥へと押し付けられると、背中やウィングの一部にグリムロックが触れて、ぞわっとした感覚がくる。一部分だけというのが、そこに神経を集中させられるからだろうか。
「ひ、――ぐっ」
そう思った瞬間、ずん、と響く感覚と共にその背中の回路を今までに無い刺激が駆け上ってきた。
なんだこれ、なんだこの感覚、なんでこんなに、
「ビー、お前、深いな」
「っ、――っく…ぅ、う、ああ、あ、――っ!」
「奥、突きたいんだけど、いいか?」
口を開こうにも、喘ぎ声と口内オイルしか出ない。
どうしようもなく、頭を大きく振る。すると、グリムロックも分かったらしい。途端、木にすがりつくようにしてようやく姿勢を保っていた上半身を抱き上げられる。
馬鹿!今ここまで奥に入ってるのに、持ち上げられたら、
「あっ、ぐ、あ、――っ!!」
……一瞬、ブレインが飛んだ。後頭部を舐められ、噛まれる痛覚でやっと正常に動きだす。しかし、依然処理が追いつかない。持ち上げられ、一番深いところ以上のところを突かれて揺さぶられていると思っていたら、いつのまにか地面に伏せられて後ろからガンガンとストロークされる。
次々にブレインに刺激が入ってきて、頭が沸騰しそうなくらい重い。重力のままに頭を垂れると、頬になにかの液体が伝っていった。
「ビー……は、ぁ……ビー、っ」
首筋に噛み付きながら俺の名前を呼ぶその声が、低くて、唸っている動物みたいだ。グリムロックの方も限界が近いらしい。
これ以上、オイルでべたべたになったら、スクラップ場に帰った時に詮索されそうだ。発声器を絞ることで、ようやく言葉を押し出す。
「洗…車っ、き、つか、うか、!ぁ、…ナカで、…いいか、ん――っ!」
その途中で後ろからキスをされ、口をふさがれる。返事があったのかは、もう聞き取れなかった。
「――――!!」
内部の収縮が解けて腰が浮いた瞬間、内部に温かいモノが広がった。
オイルを吐き出した後の気だるさの中、熱が引いて、なんとなく自分の行動を振り返る妙に冷静な時間がやってくる。
あー……やっちまった。
話しながらそういう気分になったとはいえ、タイミング的に、自分の罪悪感をごまかすように接続を誘ったような図にも思える。自分で言うのもなんだが、あばずれっぽい。いや、俺の経歴上、そんなことは断じてないのだが。
俺だって妙に期待されたりするのはすごく苦手だ。こうあって欲しいというこう居て欲しいというのは、相手の都合を押し付けられていることの方が多い。しかし苦手だと分かってはいても、俺もグリムロックやオプティマスに同じことしてるんだよなあ。
「どうした、具合でも悪くなったか?」
黙りこくった俺を心配して、グリムロックが覗き込んでくる。が、どう返したらいいのかわからない。黙っている方が余計良くないのだろうが。
こいつと一緒にいると甘えてしまってつい気を抜いてしまう。そして自分の世界に入ってしまう。この癖はどうにかした方がいいな。
どうせグリムロックはこういう時だけは察しがいいのか天然なのかで聞き返してくるか、説明を求めてくる。何事につけ、グリムロックと話していると、いちいち説明を求められるから困る。
まあ、尊重されていることの裏返しではあるけど……
「いや、俺ってずるいなってちょっと自己嫌悪に」
おずおずと答えると、やはり『それってどういうことだ?』とグリムロックが聞いてくる。ああ、本人相手に説明しづらい。はっきりと視線を逸らさずに見てくるのが本当にやりにくい。
「そんなつもりはないけど、お前に甘えているというか利用しているというか。そういうのってずるいよな、と」
もそもそとそう言うと、グリムロックの青い瞳が細められる。そして、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「それくらいじゃ、ビー、お前を嫌いになれねえよ」
「えっ」
「『おれだから良いけど』だっけ?もうおれらは『特別』な関係なんだしな。それに、バンブルビーはもう少しおれやストロングアームやサイドスワイプやフィクシットやデニーやラッセルに甘えてもいいんだぜ。チームだからな」
「…………」
あーもうだめだ。
ため息をつく。こいつに叶わないのはよく分かった。
「分かった。そうする。出来るだけ、な」
「おう。なんたっておれは理想のパートナーだからな、信頼できるだろ?」
そうか、期待ではなく信頼か。
自分が上に立って指示をすることで、押さえつけているイメージを持ってしまっていた。それに、結局は出した指示を聞いてくれるグリムロックの応え方に罪悪感を持っていたのか、俺は。
「ああ。でも、グリムロック。お前もとっくに俺の『特別』だし、チームもお前を信頼してる。だから、いつも理想じゃなくたっていいんだからな。お前も、甘えるんだぞ?」
お前だって無理する必要は無い。毎回じゃそりゃ体力が持たないし、時と場所さえ間違えなかったら、わがままくらい言って欲しい。俺だってパートナーとしてチームとしてリーダーとして応えるつもりだ。
そう言うと、ばつが悪そうにグリムロックは頭をかいた。まさか自分にも返ってくるとは思っていなかったらしい。
「分かった。出来るだけ、そうする」
「よろしい」
真面目に返しはするが、同じ台詞の応酬だった気づき、顔を見合わせているうちに笑えてきた。グリムロックも同じらしい。
ひとしきり笑いあい、収まったところでそろそろ帰るかと目配せする。
「……息抜き、なったか?」
「まあな」
こういうのなら、いつでもやってもいい。
耳元でそういたずらっぽく言う姿についまた笑ってしまう。俺はその肩を軽く叩き、ビークルモードにトランスフォームした。