⑦あなたはどこにも存在しない(ギャルアコ)

「…おかしいのかな?」
「アコがおかしいのなんて、いつものことでしょう」

わっ、びっくりした。最近、思っていることが口からすぐに飛び出してしまう。気をつけなければ。
ボーっとすることが、自分でも、多くなったと思う。教室をぼんやり見つめている私をレイコは「まるで恋でもしたようね」とふっと鼻で笑った。
うん、そうなの。とはレイコにも絶対に言えなかった。だって『大空アコはおかしいです』って言われちゃうもの。

「ねぇ、アコの好きな人って…もしかしてショウ君とか?」
「ええっ、なんでそこでショウ君が出てくるのよ…っていうか違うし」
「じゃあ、」

レイコの指が空中を辿り、ユウマ君やタクマ君を指す。違う違う。私は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

「私の知らない人?」

イエス、そう返すと、レイコは腑に落ちない顔をした。会ったことないんじゃないかな。それに、レイコがあの人に会っても見えるかも私には分からない。
やっぱり、変なんだろうな、夢の中に出てきた人を好きになっちゃったなんて。…ううん、でもあの時に私の眼鏡を拾ってくれたし話もした。こっちの世界で。
言い方を変えよう。この世の人ではないあっちの世界の人を好きになっちゃうなんておかしいのかな…でも夢の人でもあっちの人でもどっちしろおかしい。
あの人と私じゃ住む世界が違うのなんて…悲恋めいているのに、選択肢が普通じゃない。おかしいおかしい。変だというおかしさではなく、これではまるで滑稽な方だ。私がおかしいのは、本当にいつものことなんだね。私はくすりと笑ってしまった。

「何よ、急に笑ったりなんかして」
「なんでもなーいっ」

私が生きているこの世には、あなたはどこにも存在しないのだ。