――そして信三郎の哀れな亡骸の横かたわらには、ぼろぼろの牡丹灯篭が…
不気味な語り口で紡がれた怪談に少しだけゾッとした。この人はこういう話をする時に遠くを見るような目をして話す。その視線を絡めるように見上げると、にっこりと微笑まれた。
「怖かったですか?でも、この手の怪談はたくさんあるんですよ…でも雨月物語の方では確か髷以外の体ごと持って行かれましたが。女性の執念というものはかくも恐ろしいものですね」
薄い唇をにやりと曲げて、楽しげにそう笑う。私は黙っていた。
「おや。アコさんにもお露の気持ちがお分かりですか?」
「いえ……お露と信三郎はそのあとにどうなったんですか?」
丁重に葬られたんじゃないでしょうか。
さらりと返される。
ううん、そうじゃない…そうじゃないけれど。でもよく考えると、違う意味での今の質問は気を悪くするかもしれない。だって私たちにも言えるかもしれないから。あなたは絶対に私に連いて行くことを許してくれないだろうけれど。
小さな冗談に、我が儘を混ぜる。
「でも、私ももしお露であったなら、信三郎さん。あなたを連れて行きますよ」
「お露殿、そうしたらあなたは私と同じ浮かばれぬ身になってしまいますよ」
また私が黙ると、心中を察してくれたらしく、手を取られる。冷たい手に。
お露と信三郎もこうやって、逢瀬を重ねていたんだろう。幸せそうに微笑み合っていたんだろう。
――真夜中にやって来る恋しい人に生気を吸われながら…