意味深な聞かれ方をした情報を俺がしょうがなく集めてあげたのに、新羅が携帯に出なかった。電話で済まそうと思っていたのに。まあ近頃はちょっと所用で池袋に行ってもシズちゃんにかち合うこともないことだし、直接マンションに行ってあげないこともない。まあ気晴らしというか。
その程度のつもりだったのに。
通されたリビングのソファにはムスッとした表情の子どもが先に座っていた。興味も特に無かったが、何となくつい目線を飛ばす。
「ああ、彼のことはあまり気にしなくていいから」
カップにコーヒーを淹れながら新羅が横からそう言った。目の前に膨らみのある茶封筒がカップと共に置かれる。それを脱いだコートのポケットにねじ込み、代わりに向かいに座った新羅にファイルを渡した。
中の書類に目を通す新羅の顔つきがだんだん少し険しいものになる。
ふと、ソファの少年がこちらを見ているのに気づいた。
「俺の名前は名倉だよ」
「…嘘つけ、さっき新羅が『折原』とか『臨也』って言ってただろ」
へぇ、と思わず笑ってしまった。誰かにちょっと似ていると思っていたがその誰かが誰だか分かった。
「じゃあそう言う君の名前は?」
「平和島静雄だよ平和島静雄。君の大嫌いな『シズちゃん』だよ」
俺の問いには、新羅が答えた。
それってどういうこと?
間抜けな声を上げる間もなく、冷静に返事を返してしまった。
「まさに摩訶不思議。一代のうちに生物としての進化を遂げた男への自然の摂理からの逆襲!って感じかな」
1人だけ納得するように、新羅は持論を叩きつけてくる。仮定が多すぎるが、確かなことはひとつだけあった。
「でも、それは間違いなく静雄だよ。それも小学校の時の僕と同じクラスで、彼の身体が発達してきてあまり怪我をしなくなった頃の。筋肉がどう発達したか知りたくって、解剖させてってよく頼んだっけ。まぁそれで骨を折られた私が言うんだから」
間違いないよ。
ちらりと『シズちゃん』を見る。冗談にしては上出来過ぎる。
でもあれ?、と疑問符がよぎる。違和感がある。そうだ普段のシズちゃんなら、俺の顔を見た瞬間に俺に殴りかかって…
「もしかして頭の中も?」
「ご名答!飲み込みが早くて助かるよ。そこで頼みがあるんだけど」
少しだけ混乱する俺の向こう側で、新羅がにっこりと笑った。