樹海の風(臨静)

折原臨也、あんたは、人を殺せるのか?
サイモンから叩きつけられた言葉がくっきりと脳内に浮かび上がる。俺はシズちゃんという過去に取り憑かれて追いかけ回されるのだろうか。今まで弄んできた人間のように、俺は忘れてしまえるんだろうか。でもシズちゃんは寂しがりだから、尋常無いくらい俺は搾取されるんだろうなあ。
面白おかしく考えてみるが、絶望的な現実が見える。シズちゃんはどうなるのかという情報が欲しい。拠り所の情報も今や垣間見ることができなかった。いざとなれば、もみ消すことはできる。それでも俺の中での事実は消えない。

「ひどい顔だ。君にそんな表情が出来るだなんて知らなかったよ。静雄は、大丈夫だよ。出血し過ぎてたけど、ここに君が連れて来た時には止まってた訳だし。静雄じゃなかったら死んでたね」

部屋の前では臨也が座り込んでいた。てっきりいつものようにどこかへ消えるように居なくなっていると思っていた。静雄が死のうと死ぬまいと関係ない。むしろシズちゃん早く――って。その折原臨也が、なんて顔をしているんだ。

「それにしても、君が脚を狙うなんて珍しいというか君にとっては前人未踏な領域だよね。偶然だったんだろ?でもどうなるかぐらいは分かってたと思うけど。まぁナイフが内股に刺さったまま君を追いかけた静雄も私にとっては有り得ないけどさ。頭に血が昇り過ぎて、出血多量の単語さえ出てこなかったんだろうね」

臨也の気色の悪さが少しだけ治まるが、いまだ余裕のない険しい表情からは抜け出せずにいる。

「君の頬の痣を見るに、やや回避したものの殴られて、その時にナイフが静雄の脚に刺さったんだろ?―――」

新羅。
遮るように臨也が僕の名前を呻いた。
いつも君がやってることだろ?
そう返してやる。ぎりりと歯を噛む様子まであの臨也が手に取るように分かる。

「あの静雄を見て優しいセルティがひどく動揺しただろ。彼女のお返しさ。さあ一応君の方の怪我も見せてよ。かすっただけだけど、殴ったのが静雄だし」

臨也が口角を無理に歪めた。

「…新羅さあ、流石に今日は四文字熟語があまんり出て来ないね」