部屋の中は、血なまぐさかった。
「シズちゃんてさぁ?」
まぞひすとだったんだ。その薄っぺらい笑顔は、綺麗な顔には全く似合っていなかった。臨也のその表情を見ながら静雄は、なんとなく『悪魔は天使の顔をしてやって来る』という言葉を思い出した。
わき腹にナイフを滑らせてつくった傷口を無理矢理指で広げられる。筋よりも皮膚に近い薄い肉が、血を流しながら痛みを訴えていた。骨折や脱臼などの自分が今までに経験した痛みとはまた少し違う痛みが、滲ませ走る。
「痛い?痛いはずだよね。でもシズちゃんって、こうやって俺に虐められてる時のほうが気持ちいいんでしょ?」
逸らしている視線の先に、血の付いた指を見せつけられる。思わず喉を閉めて鼻に抜けるうなり声を上げた。臨也が満足げに目を細めて笑う。
「精神的にも肉体的にも。自分を虐めて楽しいなんて。野郎に突っ込まれて感じるなんて、変態って言うんだよ」
「殺す!殺してやる…っ」
与えられる痛みと快楽を我慢する息遣いは荒くなる。それと同時に押さえられない怒りで、動かない体に力を込める。
一番ムカつく臨也の顔面に拳をうずめるために。
「臨也!!」
満身の力を込めたつもりのフックは、確かに標的を捉えたが、相手に与えた損傷はとても少なかった。
「さすがに…薬に耐性が出てきたみたいだね、シズちゃん!」
まだこちらを殺意の目で睨む静雄の腹にナイフを突き立てる。筋肉に阻まれて深くは刺さらないが、血液が集まってぷくりと丸い玉がその金属の周りに出来上がった。
殴られた自分の鼻の奥から、血が伝わって来るのが分かる。痛みに耐える抵抗者の理性を屈服させるよう、また先ほどからの行為を始める。
「うああ…うう……」
薬が弱まってきた静雄の体が反応を示し始める。
獣のうなり声みたいだ。
それをとても愛おしそうに眺めたあと、強く目をつぶって刺激に耐えている相手の唇を塞いだ。
「俺は今、余裕がなくて、全部見すかされてのが悔しくて屈辱感に苛まれてますっていうあんたをみれて楽しいよ」
口の中は鉄分の味がした。