確認癖(サン音) - 8/8

「お前のコアダンプは、貰ったままでいいのか?」

 ふいにサウンドウェーブが確認するように言い出す。その話はもう何メガサイクル前に終わったものと思っていた。
 一瞬面食らうが、別に持っているのはサウンドウェーブなわけで、もう返せってものでもない。こいつが捕虜になっても俺の情報にはそんなに重要なものなんてないだろうし、そこは削除したり破壊したりとこいつがうまくやるだろう。そういう情報形態の責任云々は情報参謀のこいつの方がちゃんと分かってる。だからこそ最終確認で聞いてきたのだろう。吐き出させた時点で何を言ってやがる。
 俺は苦笑い気味に返事を返した。

「いいけどよ。どうすんだ、それ?」
「……取っておけばいいこともある」

 更新しなくてもいいのかという意味で質問をしたつもりだったのだが、サウンドウェーブは利用価値について聞いたと思ったらしい。その意味深な返事に好奇心が掻きたてられる。相手の出方を大人しく待っていると、サウンドウェーブが律儀に説明を始めた。そして次の発言に俺は完全に言葉を失う。

「例えば、もしお前が戦死した時には俺の慰めになるだろうし、将来的にそういう技術が発展したらいつかは、作り直せないこともないだろう」
「――!」

 サウンドウェーブはそれ以上の説明はしないが、何を作り直すか、は話の流れから俺でも分かる。
 なんてこと考え付くんだこいつは。
 今度こそ、完全に、ヒューズがぶっ飛んだかと思った。じりじりと発熱する頭部に手を当てて撃沈する。
 俺は相変わらず、サウンドウェーブに振り回され続けている。サウンドウェーブと話すときはいつもそうだ。驚かされ、絶句する。スパークがもたない。冷静になろうとすれば、絶対に度肝を抜かれる。

「サンダークラッカー」

 いつも通りの平坦な声が俺の名前を呼ぶ。
 それから当たり前のようにブレインスキャンで俺の思考を読み取ったらしい。すぐに珍しく冗談めかした様子で薄く笑った。その様子を俺はやはり嬉しいと感じてしまう。
 お互い、ほとんど病気だな。こんな刺激にはいつか飽きるかって?考えてることが違いすぎる。こんなあんたに飽きっこねえよ。
 てめえの欲に素直になった途端これだ。ある意味惚れ惚れする。

「ものすげえくどき文句だな」

 サウンドウェーブの輪郭に手を添えると、包んだ端正な顔の口元が歪む。

「お前も、こういうのが好きなんだろう?」

 分かった上で言ってやがる。あんたもそのブレインスキャンの確認癖やめたら?
 口に出そうと思ったその言葉は、塞がれ、ついに発声には至らなかった。