A Bus Bound for “the Village” - 2/2

バスを降りると、鬱蒼たる森が広がっていた。ここからかなり歩くけど、大丈夫かねぇちゃん?フレディが明るい声で私に尋ねた。
その言葉に私は自分を見た。手には何も持っていない。自分の身の回りのものは全て置いてきてしまった。そのほうが良いって思ったから。その代わり、今着ている服は一番気に入っていた赤いワンピースを着てきた。この服はリズやマシューがよく、私に似合うと言ってくれた思い出のある服。
たくさん歩くとしても障害になるようなものは何もない。

「大丈夫…」

たぶん。ちらりと横目でアーウィンを見ると、アーウィンが微かに笑った気がした。フレディが歩き出す。アーウィンは私が歩を進めるのを待っているようだった。
あの場所を離れた時は青空の中を日が照っていたのに、もう沈みかけている。ポケットの中にハンカチがあるのを確認して、私はゆっくりと動き出した。

森の中は思っていたより、暗くない。見上げるとピンク色に染まった空が遥か頭上の梢の向こうに見えた。驚くべきことには、森の中には人の姿があり、火を焚いていたり何かを組み立てていたりしている。”村”の祓い手たち、だろうか。

「ねぇ、フレディ。あの人たちは」
「キャンプに来てる連中だよ」
「キャンプ…」

ほら、向こうを見なよ。フレディが指を指す方向を見ると、何かがきらきらと輝いていた。

「あそこに水の綺麗な湖があるんだ」
「!」

私は、はたと気づいた。ここは、リズやマシューが連れてってくれるって言っていた湖なんだ!夕日に輝く水面は、あの霧がかった薄暗い湖とは全然違う。
2人はこんな美しい水辺があることを、私に教えてくれようとしていたのかもしれない。湖は、遠くから見ても水が澄んでいるのが分かった。

『覚えようよ、泳ぎ。オレ、教えてやるから!湖でさ』
『夏までに元気にならなきゃだめよ!』

あの会話をしたのが、遠い遠い昔のようで…2人のことを思い出すと、まだぽろぽろと涙が出る。
アーウィンが、レナ、と私の名前を優しい声で呼んだ。我に返る。そういえばアーウィンは確かあの時あの場所で一緒に居たんだった。急に泣き出した私に、フレディはびっくりしたらしかった。

「……ごめんね、大丈夫だから」

マシューに貰ったハンカチで涙を拭う。花柄の明るい色が濡れて暗くなった。せっかく綺麗な色をしていたのに。そんな私に、フレディは手を差し伸べてくれた。

「ねぇちゃん、手」

握られた手は、温かかった。
そうよね、フレディ。リズもマシューも私がこっちで泣いてばかりじゃ、天国で笑えないものね。リズは湿っぽいものが嫌いだった。

「ありがとう」

フレディは私の小さな呟きを拾ってくれたらしく、もっと強く、私の手を握ってくれた。