げるげのはんしょくき(一カラ) - 1/2

最近、イチゲルゲが異常に大きくなっていた。
冬の間、ずっとこたつにこもってばかりいたから、冬眠明けのような状態なのだろう。その程度に思っていたが――
まさか、俺を軽々と運べるくらいになっていたとはな。
いつものように二階のソファで午睡を享受していたはずなのだが、ふと目覚めると、毛布にくるまれてイチゲルゲに階下に運ばれていた。
遊んでほしいのか知らないが……フッ、俺をテイクアウトするなんてなかなかのわんぱくボーイだ。
状況は飲み込めたが、イチゲルゲが何をしたいのかは分からない。そもそも、毛布の包み方のせいで身動きが取れない。そのまま観察していると、イチゲルゲは家の裏に出て、俺を抱いたまま縁の下に潜り込んだ。

「ガ ラマ゙ツ」

屈んでやっと俺の視線に気が付いたのか、イチゲルゲがこちらを見下ろして嬉しそうに俺の名前を呼ぶ。

「ココ、ボクノ゙…ス…」
「そうか」

何年振りかに立ち入ったそこは、以前見た記憶とは少し様変わりしていた。
床下の暗さに慣れてきた目が、縁側の方から漏れてくる光の中で周りの様子を視認しだす。地面が丸く掘られていて低くなっているせいか、あまり圧迫感はない。イチゲルゲの腕から降ろされた下から、枯葉のこすれる音がするからには、どこかからか葉を集めてきているらしい。
このところ、日中どこに隠れていたかの合点がいく。ここは巣という名の、イチゲルゲのサンクチュアリ――もとい秘密基地といったところだろうか。

「ズギ? カラマ゙ツ ノタメニ、ツク ッタ」

俺のために、というのは引っかかるが、誰にも気づかれずにこういう空間を独力で作り上げたのは称賛に値する。

「グレートな巣だな」

褒めると、大きな体を揺らしてイチゲルゲが俺を抱き上げて喜んだ。日向のような匂いの獣臭い紫の毛並が頬をさする。
喜ぶ、喜ぶ……喜ぶのはいいが、揺さぶられ続けるのは流石に気分が悪くなってくる。

「……マイリトルキューティ、とりあえず、毛布をほどいて下に降ろしてくれないか?吐きそうだ」

そう頼むと、いそいそとまた地面に降ろして結び目を解いてくれる。
が、イチゲルゲは毛布だけで終わらず、寝るときに着けていた下着にまで手をかけた。

「わっ、いや、そっちはいらない!」

止めようとする前に、あっという間に靴下以外をひん剥かれる。仰向けに転がされると、イチゲルゲは何を思ったか俺の腕をつかみ、あっけにとられて閉じられない口の中にその長い舌を突っ込んできた。

「ぐ、……ッ……」

呼吸が止まりそうなほど喉の奥まで侵入される。
押し込まれた舌をしめ出せずに思わず噛むと、

「!…ギッ……」

と小さく鳴いてイチゲルゲはさっと舌をひっこめた。
身がひかれた途端、ひっこめられたその舌先からどろりとした緑の粘液がごぼっと音をたてて俺の臍の上に垂れる。
何だこの液体!?
イチゲルゲは俺が今まで見てきた限りは大人しい奴で、こんな奇行をするのは初めてでどうしていいのか分からない。
人間はリア充以外には害のないものだという認識でいたが違ったのか?
訳が分からず混乱している俺に、イチゲルゲはなぜか残念そうな顔をして見せた。

「カラマ゙ ツ、ノマ゙ナイ ド…ダ メ…」
「飲……?出来るわけない!」

これを飲ませようとしたのか!?
謎の体液を飲まされかけたと気づき、ぞわぞわっと生理的な拒否に身震いする。
嗅いだことのない不思議な匂いがする。少し生臭い。しかもその液体が何らかの成分を含んでいるらしく、緑に染まった腹部がふれた途端からカッと熱くなっているのも薄気味悪かった。
何がイチゲルゲのスイッチになってしまったのだろうか。思い返すが、もともとの発端は俺が寝ているところをイチゲルゲが運び出したわけで。寝ている間に何かしてしまったというなら、それこそ俺の考えなど至らない領域だ。

「ガラマヅゥ、オレ…キ ラ゙イ…?」

俺の腕を掴むイチゲルゲの手にぎゅっと力が入ったのが分かった。泣き出しそうな表情に変わったイチゲルゲの様子から悲哀がにじみだす。
そんな切ない顔をするんじゃない。
確かにいつも俺はこの生き物を愛玩的に好きだ好きだと可愛がってはいた。

「いや、嫌いじゃない、嫌いじゃないぞ!でもだからって――」

ぺたりと太ももに濡れたものが触れ、視線を下げた俺は話している途中で絶句した。
長らく一緒に暮らしていたつもりではあったが、こいつがオスで、本能を持った生き物で、人間と違って決まった繁殖期があるというのを忘れていた。
こいつ、俺とセックスがしたいのか!?
太ももに押し付けられていたのは、イチゲルゲの濡れそぼったペニスだった。先っぽからとめどなく発情を示す半透明の液体が垂れている。初めて見たその形状は、まさにモンスターと表現するしかないシロモノで、先が細く全体的に長い。しかも、それはまだ膨張する前らしく、柔らかそうに揺れていた。

「……!」

驚きで俺の動きが止まったのを、イチゲルゲは肯定的にとらえたらしい。先走る精液を擦り付けるようにして、俺の太ももに腰を振ってくる。意味も理解しているし、本気らしい。

「や、やめるんだ!」

気づいた時にはすでに遅く、途中から必死の抵抗をするもむなしく重量で地面に縫い止められ、足を開かされる。

「カラ゙マツ……」

乞うようなか細い声をイチゲルゲがあげる。その切なそうな表情や視線の意味が、今の俺にはやっと理解できたが、いくら可愛いイチゲルゲと言えど異種の発情を受け入れることは出来ない。

「……無理だ!出来るわけがない!」

先が細い濡れそぼったそれが入れる場所を探して、尻の割れ目をなぞった。

「――ア゙?」

それでも、イチゲルゲが求めるものが俺の股間についているはずがない。手を放してイチゲルゲが不思議な顔をして俺の股間をのぞき込む。
その表情を見て、やっと俺はほっと息をつくことが出来た。
やはりメスか何かと勘違いしていたらしい。

「イチゲルゲ。お前何か勘違いしているようだが、俺はれっきとした男だ。種族性別を超えて魅力的なのは分かるが……すまない」
「カラマツ、オ…ス?」
「そうだぞ」

すまないと声をかけながら困惑気味しているゲルゲの頭を撫でる。すると、うれしそうにした後、俺の顔と股を交互にじっと見て少し考えこみ始めた。
馴れない人語を解するのには時間がかかるのか?出来れば、はやく勘違いを理解して、イチゲルゲにふさわしいゲルゲガールを見つけて欲しい。
が、長い熟考の後にイチゲルゲが出した答えは俺の期待からは外れていた。

「モン ダイナ゙、イ…カラ゙マ ツ…メスニ゙ナレ ル」
「えっ……?」
「ダイジョヴブ」

大丈夫って大丈夫じゃないだろう!
しかし、そうきっぱりと言い切ったイチゲルゲには何か考えがあるようだった。
足を掴んで俺の体を折り曲げ、長い舌でもっと後ろの方を舐め始める。はっきりと見える目の前にまで臀部が持ち上げられたことで、イチゲルゲがどこを使おうとしているのか分かり、リアルな恐ろしさがせりあがってきた。

「ちょっ、やめてぇ!そこは突っ込むとこじゃないから!離して!」

あんなものを入れられた日には、ケツが馬鹿になる!
恐怖で吐きそうになる俺を無視するように、そこに向かってイチゲルゲは緑の液体を吐き出した。粘液がどろりと舐められた場所に触れて、燃えるような刺激が襲ってくる。しかも、それだけでは飽き足らず、イチゲルゲは舌をその中に入れたいようだった。

「馬鹿、おい、イチゲルゲ!やめろって言ってんだよ!ばかぁっだめ、粘膜に直とかぁあああ!!」

唾が飛ぶくらい罵倒しても、イチゲルゲは構わず中へに舌先を強引に押し込み、液体を注入した。
生温かさに身震いするが、次の瞬間、全身が汗ばむ。

「うあああぁあ…」

頭の中が溶けだすとしたら、こういう感覚なのだろう。
腹の中に液体が流れていくのと同時に、カーッと体温が上昇する。

「は、あ…熱……い」

イチゲルゲの吐き出す粘液は、媚薬のようなものらしい。自制心が吹っ飛び、口の端から唾が垂れる。
あまりの思考の急変化に恐ろしくなり、ぎゅっと身を縮こませると、イチゲルゲが頭を撫でてきた。その柔らかい紫の毛並が肌を滑るのでさえ、信じられないくらいゾクゾクする。
しゃべることが出来ずに黙っていると、イチゲルゲは説得の務めは果たしたと言わんばかりに、ナカをほぐす段階へと戻った。

「ガラマ゙ツ…キモチイ゙イ…?」

当たり前のように舌が奥へ滑り込んでいくが、不思議と広げられる痛みはない。むしろ、ただただ快感だけが頭の中に流れ込んでくる。
今まで自分でも触れたことがない内臓のひだを丁寧に舌先で撫でられ、粘液を擦り付けられていくのがここまで気持ちいいのか。

「いいっ、きもちい……あ゙っ、うぁ゙あ゙」

ちゃんと答えたつもりだったが、舌までうまく回らなくなっている。
味わったことのない種類の快感に、いつの間にか勃ち上がっていた自分のものが腹の上に先走りをダラダラと垂らしていた。
オナニーでもこんなに気持ちよくなったことがない。新品の俺には前人未踏の領域に達している。こんなものは俺は知らない。ただただ怖い。
緑の唾液を中に吐き出されてから急に内臓が締め付けられるように痛み出したが、その痛い部分がなぜか舌で押されるとものすごく気持ちがいいのだ。これが、中で感じているということなのだろうか。

「はあ、 ああっ……!」

白ばむ視界の中で、イチゲルゲは満足そうだった。

「モ゙ット?」

もう早く限界に触れて、イかせてほしい。早くこの頭のおかしくなりそうな時間から解放してほしい。
唾を飲み込んで、こくこくと頭を縦に振る。すると、イチゲルゲは掴んでいた俺の足を離して自分の体をぎゅっと寄せてきた。
また粘液か?
と思ったのもつかの間、熱くなった場所に舌より冷たいものが触れる。入り口をピンポイントでぐりぐりと押すその感触には覚えがあった。まさか――

「違う違うそうじゃない、そっちじゃ――ぬ゙ぅあああああああああ!!」

絶叫むなしく、イチゲルゲが小さくア゙っと鳴くの同時にイチゲルゲのペニスの先が中に入ってきた。にゅるりとひどく簡単に入ったそれは、すぐに硬く大きく膨らんで中から圧迫してくる。
重量を増しながら最奥まで一気に突っ込む気らしい。

「はあっ、そんな奥…まで、ぎ、っ ――裂ける裂ける裂けるうううう!無理無理無理!これ以上大きくなったら死ぬ!やめて!死ぬ!」

必死に懇願しても、早いリズムのピストンで穿孔機のように奥へ奥へとイチゲルゲのペニスは入り込んでいく。ショックで溢れてきた涙が止まらない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

「助け……てぇ 嫌だ!いやだいやだいやだぁああ!」

誰かもしこの家に居たら……この上の床を通って!俺に気がついて!
でも、とそこまで願う頭の片隅でストッパーがかかる。
こんな姿を兄弟や両親に晒せるのか?いや、ダメだ!でも、苦しい、誰か助けて!誰か、助けて……誰でもいいから!
沸き起こってきた『誰か』への願いを求めて、遠くの縁の下の光に手を伸ばすが、届くはずがない。
不安が最高潮になったところで、へその裏のあたりの内臓にまで衝撃が走る。
届いてはいけないところに届いてしまったのが、熱で足りない頭にも分かった。

「死んじゃう!しんじゃう、よ゙ぉ!」

泣き叫び、イチゲルゲにしがみつくが、ピストンは止まらず奥をゴツゴツと突いてくる。体中が熱くて、汗が噴き出てくる。ピストンは休みが無いし、衝撃が止むことは無い。うまく息さえできない。

「う、ぇっ……死…ぬ゙!」
「シ…ナナ゙ イ」

体も頭の中も壊れるのは時間の問題という恐怖にあえいでいると、その口元にイチゲルゲが口を寄せてきた。
ごぼっと音が立つほど口の中に緑の粘液を吐かれる。
妙に生臭い不思議な匂いのするそれはよくわからない味がして、口の中でピリピリする。吐き出そうにも口の中に絡みついて、結局飲み込むしかない。嚥下すると、イチゲルゲは満足そうに唸った。
内臓が一段と熱くなる。そして、不思議と今まで頭を埋めていた死にたくなるくらいの痛みが消える。むしろ――

「い゙、い゙い!ぎ、も……っ!い、い!!」

全身の神経が急に入れ替わったようだった。今までただ痛かった場所がいいところに様変わりし、ごりごり抉られ、突かれて、自分の中のなにかが外れる直前というように全身ががくがく震える。

「やめ゙て!止、めてぇ゙え゙っ おねが、い…だか、らぁ、あ!」

俺の必死の声にかぶるくらいに大きいなぐちゃぐちゃという音がその激しさを証明するように響いて、俺は自分が大変なことになっているが分かった。俺自身も濡れているのだ。
なんで、何で、おれ、おとこなのに!メスなんかじゃないのに!!

「ん゙!あ゙あ゙!っ ゔ、ぁ」

どこかに吹っ飛んでしまうような快感と不安を抑えつけようと、どこかに力を込めようとするが、不安定な自分の中に縋り付けるものはない。
何かを掴もうとする手が空を切る。
擦り切れた思考の中、イチゲルゲのしっぽが股間に伸びるのが見えた。

「あ゙あ゙あ゙ああああ――――っ!!」

摩られた瞬間、ずっと行き場をなくしていた絶頂が襲い掛かって来る。
見たことない量の精液を自分のものが吐き出す。が、この行為の主体は俺じゃない。俺が限界を迎えても、イチゲルゲが動くのは止められない。
絶頂後の疲労感ともうしたくないという嫌な気分が充満する。でも、嫌だと叫んだところでこいつはやめてはくれないんだろう。

「も゙う、苦じい、もう、や゙だぁあ……」

敏感になった体が悲鳴をあげている。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い!もうこんな苦しいのは嫌だ!
もうイチゲルゲは抑え込んでこないが、動けない。骨盤が砕けるんじゃないかと思うくらい押し広げられて、すでに腰が抜けて逃げられなくなっている。
もう俺には、『完全に受け入れる』という選択肢しか残されていないらしい。

「壊れ るぅ!ひっ ぐす、 ぁ゙あ゙あ゙!!」

一秒でも早くイチゲルゲが終われるように繋がった部分を絞めるに意識を集中させる。
イチゲルゲが射精さえすれば、この行為は終わる。
すると、少しは具合が良くなったらしい。イチゲルゲのピストンのリズムが変わり、ぺちぺち、と尻に何か触るものがあった。
なんだ、これ。さっきまではこんなものはなかったはずなのに。
力の入らない体に持ち得る全力を使って、手を伸ばして触る。すると、

「ア゙ア……ッ」

イチゲルゲがかつてなく身悶えした。俺の体制では見ることが出来ないが、俺とつながるイチゲルゲのペニスの途中に何か硬いものがある。握るように持つとイチゲルゲの腰の打ち付けがより深いものになった。
奥のじんじんとする場所を狙うように穿たれるストロークに、またとてつもない不安感が押し寄せる。

「や゙っ、そこ だめ!」

思わずイチゲルゲのペニスを握っていた手にぎゅっと力をこめると、俺の手を中の一部だと認識したらしい。手の中にその瘤のようなものを押し込もうとイチゲルゲは必死になって俺に腰を押し付けてくる。
気づかなければ、これが俺の中に押し込まれていたというのか?
ぞっとしてその瘤を押し戻すように掴むと、その刺激でイチゲルゲは達したらしい。うめきをあげながら俺を抱きしめると、最奥に精を吐き出した。

「ぁ、 あっ、たかい……」

先ほどの粘液が届かなかった場所まで、大量の熱が流れ込む。
その熱は何度も噴き出され、風呂に入っているような温かさが腹の中を満たしていく。獣臭いふわふわの毛並みに抱きしめられる中、俺は今までの死ぬもの狂いの必死な快感とは違う不思議な多幸感にぼやぼやと包まれていた。
イチゲルゲはとろんとしたまま、微動だにしない。
その頬に手を伸ばすと、嬉しそうになった顔は普段俺にすり寄って来た時と同じ顔をしていた。

「カラ゙マツ、…ズキ…ッ…」

快感に溺れきった顔をしながらも、絞り出すようにイチゲルゲが呟く。
運命というのは不思議なものだ。なんでお前とこんなふうになってしまったんだろうな?
何分くらいそうしていたか。ぼーっとその温かい感覚に浸っていると、俺の中からずるりとイチゲルゲは出て行った。
抜かれた途端、中に吐き出された大量の精液が流れ出る。

ジェットコースターのように振り回され続ける行為がやっと終わった瞬間だった。
逃げなくちゃ……ぁ、駄目だ……眠気が――――