わびしい思いをしたくない!!とかなり思い悩んでいるうち、やっと午前の作業は終わり、休憩のベルが鳴った。
昨日の今日で弁当を小さくされたことを他の機体が知ったら、確実にからかわれることを知っている。昨日から、兄弟機に何度いびられたことか。俺はぜんぜん気にも留めてなかったが、恋人でもない機体に『弁当を作らせる』ってのはそんなに変なことだったらしい。
今日は、別のところで食べるか。
そう思い、外に出てトランスフォームすると、コンドルが飛んできた。
「……?」
こっちに来い、とチカチカとライトで言って来る。
ついにサウンドウェーブの保護者呼び出しか。
俺は腹をくくった。
が、誘導されてついていった先に行った先に居たカセットロンの様子はほのぼのとしたものだった。(サウンドウェーブはいつも通りむすっとはしているが)
「あ、サンダークラッカー来た」
あっけに取られている俺にすぐにフレンジーとランブルが駆け寄ってくる。
「サウンドウェーブがサンダークラッカーの弁当に、デザートのぶどう入れ忘れたんだって」
「せっかく来たんだから、一緒に食べてけよ」
「どーせ今日はひとりで食べるつもりだったんだろ?」
矢継ぎ早にずけずけといわれる。そのふたりに手を引かれ、カセットロンの輪の中に座らせられると、サウンドウェーブが無言で小さなタッパーを渡してきた。
確かに透明な容器の中には黒と緑の二種類のぶどうの実が入っている。
「あ、ども」
思わず頭を下げる。それを無視するかのようにサウンドウェーブは自分の位置に座りなおした。
「もー何か言えよ、サウンドウェーブ」
すかさずランブルが突っ込むが、サウンドウェーブは『何を言う必要がある』と言いたげだ。(言ってはいないが、なんとなく言いたいだろうなということだけは分かる。)
しかし、ランブルの気迫に根負けしたのか、小さくこう付け加えた。
「……ピオーネとロザリオビアンコだ」
ぶどうの、種類?
「はあ、さいですか」
カセットロンたちの模範解答ではなかったらしく、まだ俺の代わりにか、フレンジーたちが食い下がってくれる。が、サウンドウェーブが
「昼休ミはアト30サイクルで終了スル」
そう告げると、急いで自分たちの弁当の包みを開け出した。
見れば、カセットロンの弁当もいつもより小さい。俺もサウンドウェーブたちにならい、渡された弁当の包みを開いた。
「――おお……」
一段だけの弁当の蓋をあけると、どこか懐かしい匂いとともに、山吹色を視認する。弁当箱につけられたスプーンでその薄い卵焼きをどけると、中からはケチャップで味付けられたチキンライスが見えた。
オムライス、か!
スプーンで残りの卵とご飯の量を考えながら一口分すくい、口に運ぶ。
おいしい。
オムライスなど、何年ぶりだろうか?
思わず、サウンドウェーブの方を見やると、マスクを開き、ちょうど口開けてまさに食べようとしているところだった。
卵とチキンライスがその口の中に消え、咀嚼されていくのが口の小さな動きで分かる。そしていつしか飲み込まれたそれは喉の方に嚥下し――
分かってはいたけど、こいつも飯食うんだよなあ。
サウンドウェーブの食べている姿を見ながら、しみじみと思う。すると、俺の視線に気づいたのか、サウンドウェーブが口を拭った。
「……何ダ?」
その動作にどきっとする。
いや、見とれてたというわけでは決して無いのだが。
「いや、おいしい、です。卵の厚さは薄いけど、ふんわりしてて、すこしだけ半熟で。チキンライスはケチャップの味も薄すぎず濃すぎず、ちゃんとピーマンとかの苦味とか分かるし、あと人参が入ってるのって初めて食べるんだが、食感として面白――」
感想を言い始めると、サウンドウェーブの先ほどからの圧力がふっと軽くなるのが分かった。フレンジーとランブルを盗み見れば、にやにやと笑っている。
「ソウカ」
立った一言だが、返ってきた声は柔らかかった。
うーん、フレンジーたちが『サンダークラッカーは一々弁当に感動するから作ってて面白いって言ってた』と言ったが、あながち間違いじゃないらしい。
そういえば、弁当を作って貰っていたにも関わらず、こいつらと一緒にメシを食うってのも初めてかもしれない。
俺もなんとなく、嬉しくなってくる。
昼休みの残りはあと25サイクル。
今日もサウンドウェーブの飯はうまい。
「……あんたのそのカセット窓、電子レンジみたいになったら便利なのにな」
「何を言ッテいるんダ、オ前は」
「……そうしたら、あったかい弁当食べれるし、嫁さんとしても最高なんだけどなあ」
「家電、の間違イじゃナイか?」