「菓子とか、他にお前らの欲しいものとかはないのか? サウンドウェーブに飯作ってもらってるし、なんかあるなら買うぞ」
調味料のコーナーでカレー粉を無事にカゴに入れた後、後ろを歩きながら声をかけると、フレンジーは無言で店内を歩いた後、瀬戸物コーナーの前で止まった。
「器? なんか必要なもんあんのか?」
食器という予想もしていなかった選択に戸惑い、尋ねる。するとフレンジーはいつものように当たり前だというように答えた。
「サンダークラッカーの食器に決まってるだろ?」
「は?」
「うちには余分の皿なんてないからな。コンドルが買って来いってさ」
なるほど。そこまで頭が回らなかった。そういえばサウンドウェーブの家に飯を食いに行ったなんて話は聞いたことも無い。誰も呼ばないなら、客用の皿なんか買う必要も無い訳だ。
もしかして、あの一番最初の弁当箱も俺のためにサウンドウェーブが買ったということか? 不要なら捨てろとあの時に言われたのは、やっこさんにすれば一度きりの弁当のつもりで、俺に渡すまでがゴールだったということか。それが何を思ったのか俺が、というかあいつの予想が外れて、俺があいつの料理が美味かった意外性からあの弁当箱をあいつに返却してしかもお礼まで言った。俺の今の状況と言うのは、俺にとってもあいつにとっても『意外』の連続が積み重なったものなのだろう。
自分とサウンドウェーブがいかに小さな偶然を綱渡って来ていたのかに驚く。あいつが俺との今の関係を不本意に思うのは仕方が無い。
とりあえず妙な感慨は置いておいて、指定された必要な食器類やカラトリーをカゴに入れ、俺とフレンジーはレジに向かう。それからさっさと会計を済ませ、フレンジーに連れられてサウンドウェーブたちの家を目指し始めた。
それでも、やっと状況やらサウンドウェーブの考えやらが少しずつだが見えてきて、俺のブレインは混迷を極めつつある。で、結局、俺は我慢が出来なくなっていた。
「話は変わるけど、よ」
「何だ?」
「いいのかよ。サウンドウェーブが了承してないことばっかで。お前ら、何でこうも俺とサウンドウェーブを『ちゃんと』くっつけようとするんだ?」
元々は一回で済むはずだったことが、もしかしたら一生続くことになるかもしれなくなったことにサウンドウェーブはどう思っているのか。それを汲み取った上で、何でカセットロンたちは俺たちを『ちゃんとした』関係にしようとするのか。
道すがら、いよいよ募ってきた疑問をぶつけると、フレンジーはなんてこともなさそうに答えた。
「ジャガーが大丈夫だって言ってたからなー。それに――」
「それに?」
急に言いよどんで口をつぐんだフレンジーの顔を覗き込む。すると、その表情にはありありと『なんで分かんないんだよ』と思っているのが見て取れた。
「ヒントはここまで。後は手前で考えろよ。サウンドウェーブも、サンダークラッカーも。自分でちゃんと気がついた方が良いことっていっぱいあると思うぜ」
「なんだそれ」
「とにかく、ジャガーとコンドルの方針で俺たちは見てることにしたってこと」
「はあ、さいですか」
結局、答えにはなっていない。しかも、見ているという割には、事を急がせるようなお節介が過ぎるような気もしないでもない。
フレンジーはそれ以上はもう言わないことにしたらしく、他愛も無い世間話に切り替えた。
「とりあえず、ウチでカレーって言うと、このルーを買うってのは覚えといてくれよな。これ以外を買ってくると、サウンドウェーブが割りかし、怒る」
手からぶら下げたビニール袋の中のルーの箱を思い浮かべる。俺のいつも買っていたものとは、メーカーも辛さも全く違う。
ルー如きでサウンドウェーブがカセットロン相手に不機嫌になる姿というのが想像できないが、気持ちも分からんでもない。
「まあ、カレーとかって、その家その家の味ってあるよな」
「料理に関しては、サウンドウェーブの独壇場だから。あ、いくらタダ飯だからって手伝おうとするなよな。あんまり良い顔しないと思うから」
なるほど、料理に関してはなかなかこだわりが強いということだろう。
カレーのルーの種類。人の家のルール。頭に叩き込もうとする事柄が、まさに今からその『家』に入っていくというのを実感させる。
人ン家のカレー食べると、本当に仲良くなった気分になるよな。
「……腹減ったな」
「おう。でも、もうすぐ着くぜ」
夕飯まであと何メガサイクルだろう。
使ったことの無いルーではあるが、サウンドウェーブが作るものだ。
今夜も、サウンドウェーブの飯はうまいのだろう。
「ごっそさんでした」
「アア」
「食器も無いよう状況だったのに、急に相伴に預かって悪かったな」
「別ニ、モウ気にしてイナイ。ソレニ――」
「それに?」
「気に入らナイなら、追イ出スのは簡単だからナ」
「……はあ、さいですか」