「どうしてリジェは俺を好きになったんだ?」
何気ない風を装って、クリフが尋ねてくる。俺はその様子が可愛くて、一瞬、固まってしまった。が、質問を自然にしたように演技するのに必死な彼はそれに気がつかない。
「そうだなあ――一番、率直にぶつかってきてくれたからだな」
わざと言葉を切りながら、返事をする。俺の発する一音一音にクリフがコロコロと表情を変える。
俺はクリフのその素直さが好きだ。言葉にするつもりはないが。
「……なんだよそれ」
あからさまにがっかりした様子が微笑ましい。
「『俺が裏切ってる』って影でこそこそ言う連中も居たけれど、君はまっすぐ俺に向かってきた。正直、ありがたかったよ」
「そんな奴、他にもいただろう?俺、お前がそういう奴にキレてたの知ってるからな。ごまかすなよ」
本当、俺のことよく見てるよ。そう皮肉半分、感心半分。褒めたくなるが、すぐに俺がすかしているとムッとしてみせるだろう。
「とにかく。それでも、お前は俺を疑って敵の内通者だと糾弾しても、俺を殴りつけたりしなかっただろ?怒りに任せたり、どうしようもないスパイへの不安や恐れを暴力に変換しなかった。そういうのは、野蛮だ。お前はそれをしなかった。俺は敬意を感じたよ」
「…………」
「で、お前はどうしてそんな俺を好きになったんだ?」
黙り込んだところに、今度は俺の番、と逆に質問を投げつける。クリフは質問されたこと自体には驚いたようだが、少し考えた後、すぐに口を開く。
「よく分からないが、俺が話しかけなければ、お前すぐにどこかに行ってしまいそうだったからかな。お前、笑ってればいいのに、すぐにむっつりして。俺ならそんな顔させないのに――リジェ?」
驚き、絶句したところで、クリフが俺の名前を呼ぶ。
「なんだよ、恥ずかしくなったのか?」
そんな殺し文句言われて、絶句しない方がおかしい。俺の方が基本的には上手なのに、突然クリフにペースを乱される。俺は敵と距離を取って優位に戦うタイプで、クリフはというと、猪突猛進に敵に突っ込んでいくタイプ。つまりはそういうことなんだろう。
「さっきのだけど、追加」
「は?」
突然話題を変えた俺に、クリフはポカンとしてみせた。ああ、やっぱり好きだなあ。可愛いところも、好きだ。だから、あまり格好いいことばかり言われてはこちらのスパークがもたない。
そして、俺がそんなことを考えてるって気づきもしないところが好きだ。俺は掴みどころがないなんてお前は言うけど、お前だから気がつかないんじゃないかな。
「そういうところだよ」