サイバトロンは何かとあれば、あれを庇いたがる。
400万年のスリープから目覚めた後、あれのことを悪く言えば、すぐにワシに向かってあの赤いミニボットから砲撃が飛んできた。徳と呼べるほどの大層なものがあやつにあるのかということや、懐かれているといよりは部下に心配されているだけかもしれないというのはまた別の話としても、だ。
サイバトロンと講和した後、和睦の条件であった通りにトップとしてあいつと共にセイバートロンを治めるようになった。が、そこでワシが少しでもあれに呆れたりすれば、すかさずこんな台詞がやつらから飛んでくる。
『あれでうちの司令はいいところがありましてね』
最初のうちは過保護だとかサイバトロン特有の甘ったるいフォローだと馬鹿にしてはいた。しかし、それが度重なれば辟易もする。しかもやつらときたら、さも『お前は知らないのだろうが』と言いたげに言うのだ。
これで何度目だ。うんざりして思わず『そんなことは知っている』と返しそうになった。
あやつの前であったから、口には出さなかったが。
……要は、ずっとあやつと戦っていたワシは、都合の悪いところや弱いところも知っている分だけ、サイバトロンよりもあいつのことを知っているのだ。
ライバルであったからこそ、その真の価値などとっくに分かっている。同じ方向を見ていれば余計その手腕に嫉妬や腹立たしさを覚えても、やはりその部分を認めているのは確かで、惹かれるものはある。直感的で非論理的だが、悪運は異常に強くて情に厚い。根性論を振りかざし、時間はかかっても目標を達成する。
これが自分をてこずらせた男かと思う。
敵に回すと恐ろしい奴だが、味方であれば心強い。ワシの隣に相応しいと認めねばならないところがある。
で、見ていれば、向こうも悪く思ってないようだし、いつかは抱いてやろうと思っていたのだが――――
「ぐ、 う…… コンボ、イ、 すこし休み、たい」
それが何が悲しいか、いつの間にかこいつに抱かれていた。
「いや、っ……まだだ、メガトロン」
「 こ、の、愚かものめ ん、がぁあ、 っ」
この体力馬鹿が。
長時間も接続し、ほとんど同規格の機体に力の限り突かれているせいか、調整したばかりの関節が振動のせいか、押さえつけられて変な癖がついたせいか緩んできた。パルスに乗って、その部分が自分の器官ではないような妙な感覚が絶えず押し寄せる。
熱が上がりきったブレインの片隅で、調子に乗るな若造、という侮蔑と、これが若さの為すものかと妙な感慨が浮かぶ。
若いと言えば、何千万年を生きるトランスフォーマーがこんな行為に溺れるなど若気の至りかもしれない、と言うにはお互い長く戦いすぎてしまっただろうに。
まったく。最近は頓に。こいつに以前以上に振り回されている自覚に腹が立つ。
こいつの行動様式は和解前から全く変わらないはずなのだが、”正義”の司令官という役職とは少しずれたせいか、どこか業を深めたような気がする。そのせいか、ワシはと言えば、好敵手であるからこそ読めていたコンボイの頭の中が近くになってから読めなくなった。
「…愛しているぞ」
為すすべなく広げられた受け入れの場所により自身を入れようとぐっと腰を寄せながら、いとも簡単にこんな言葉を吐ける。
博愛主義と言う名の節操のないこいつなら当たり前だ。
しかし以前、こいつが誰かにそんな言葉を投げればその本気度など一瞬で見抜けたものだった。
「お前は、どうだ?メガトロン」
「知 らん!」
この関係になだれ込んだ最初には、思っていた形とは違うが、これでこいつは完全にワシのものになったのだと満足した。
しかし、今はその勢いに飲まれるばかりで、こいつはワシのものだと扱うには少し恐ろしくなる。
「 メガトロ、ン」
なんて眼をしているんだ、コンボイ。
こんなお前は知らない。