お弁当サン音6:おかゆ - 3/3

「何やってんだ!?」

 ぼやけたブレインと視界の中、そんな罵声が耳元で響く。
 視界は斜めで床が近い。足元はおぼつかない。今、どんな姿勢で――?
 手には、鍋は無い。しかし、こぼれてはいない。
 見渡せば、サンダークラッカーに抱きとめられる形で、自分の身体を預けているのを認知する。すぐに離れようとするが、『馬鹿、零れる!』と叫ばれ、余計に抱き留められた。
 ああ、片方の手に、俺が落としかけた粥を持っているのか。
 そこでやっと、自分がベッドから落ちたということが分かった。

「せっかく今日、ひとが午後から半休にしたんだから、この金土日でちゃんと治ってもらわなきゃ困るんですよ!」

 知るか、お前が休みをとったのは、俺のせいではない。
 粥の鍋を椅子の上に避難させながら、サンダークラッカーが勝手なことをぶつぶつと言う。そのまま、床の上に抱きとめた俺を軽々と持ち上げて立ち上がり、ゆっくりと俺をベッドに戻して布団を被せてくる。

「この馬鹿たれ!あんたの仕事は風邪を治すことでしょうが!」

 腰の位置に寝具をつめてしっかりと俺を座らせ、もう一度しっかりと鍋を持たせる。
 ああ、これではまるで介護のようだ。

「馬鹿に馬鹿ッテ言われタ……」

 もう、一番見られたくないところを見られ、弱さを吐き出し、傍から見れば風邪でぐずる子どものように甘えている。恥ずかしいとか、プライドだとか、パーソナルスペースだとか。そういうのを超えてしまい、俺は無気力な気分になった。

「ほら、ちゃんと持って。食ってください」

 受け取るそれはまだ十分にあたたかい。
 言われるがままに、蓮華で粥を口に運ぶ。
 見た目は悪くない。しかし、味は風邪で舌が効かないせいか全く分からない。何とも言えないむなしさが胃を通して身に染みる。
 そんな俺を尻目に、サンダークラッカーは部屋を出て行ったかと思えば、いつ場所を知ったのか、ウチのハンドタオルを濡らしたものを絞って持ってきた。
 もう、部屋を出るときも入るときも、何も言わない。
 ……完全に負けたのである。

「それにしても、あんたが体調不良なんて、鬼の霍乱ってやつですね」

 鍋の中身を空けると、水色の航空兵は椅子の上でにこっと笑って見せた。

  

 

 

「具合はどうだよ、サウンドウェーブ」
「あいつに鍵ヲ渡したノハお前か、フレンジー、ランブル。ドウシテ――?」
「サウンドウェーブ、もう諦めろよー」
「そうそう、結婚を前提にしたお付き合いなんだから、バリア張ったって無駄無駄」
「実際、世話やかれるのも、そんなに悪くはなかったんだろ?」
「…………」