「何やってんだ!?」
ぼやけたブレインと視界の中、そんな罵声が耳元で響く。
視界は斜めで床が近い。足元はおぼつかない。今、どんな姿勢で――?
手には、鍋は無い。しかし、こぼれてはいない。
見渡せば、サンダークラッカーに抱きとめられる形で、自分の身体を預けているのを認知する。すぐに離れようとするが、『馬鹿、零れる!』と叫ばれ、余計に抱き留められた。
ああ、片方の手に、俺が落としかけた粥を持っているのか。
そこでやっと、自分がベッドから落ちたということが分かった。
「せっかく今日、ひとが午後から半休にしたんだから、この金土日でちゃんと治ってもらわなきゃ困るんですよ!」
知るか、お前が休みをとったのは、俺のせいではない。
粥の鍋を椅子の上に避難させながら、サンダークラッカーが勝手なことをぶつぶつと言う。そのまま、床の上に抱きとめた俺を軽々と持ち上げて立ち上がり、ゆっくりと俺をベッドに戻して布団を被せてくる。
「この馬鹿たれ!あんたの仕事は風邪を治すことでしょうが!」
腰の位置に寝具をつめてしっかりと俺を座らせ、もう一度しっかりと鍋を持たせる。
ああ、これではまるで介護のようだ。
「馬鹿に馬鹿ッテ言われタ……」
もう、一番見られたくないところを見られ、弱さを吐き出し、傍から見れば風邪でぐずる子どものように甘えている。恥ずかしいとか、プライドだとか、パーソナルスペースだとか。そういうのを超えてしまい、俺は無気力な気分になった。
「ほら、ちゃんと持って。食ってください」
受け取るそれはまだ十分にあたたかい。
言われるがままに、蓮華で粥を口に運ぶ。
見た目は悪くない。しかし、味は風邪で舌が効かないせいか全く分からない。何とも言えないむなしさが胃を通して身に染みる。
そんな俺を尻目に、サンダークラッカーは部屋を出て行ったかと思えば、いつ場所を知ったのか、ウチのハンドタオルを濡らしたものを絞って持ってきた。
もう、部屋を出るときも入るときも、何も言わない。
……完全に負けたのである。
「それにしても、あんたが体調不良なんて、鬼の霍乱ってやつですね」
鍋の中身を空けると、水色の航空兵は椅子の上でにこっと笑って見せた。
「具合はどうだよ、サウンドウェーブ」
「あいつに鍵ヲ渡したノハお前か、フレンジー、ランブル。ドウシテ――?」
「サウンドウェーブ、もう諦めろよー」
「そうそう、結婚を前提にしたお付き合いなんだから、バリア張ったって無駄無駄」
「実際、世話やかれるのも、そんなに悪くはなかったんだろ?」
「…………」