その高い塀はいつも真白いペンキで塗られており、その上からは緑の木々がこちらを覗いていた。塀の向こう側には、煉瓦の赤と植物の緑が混じる美しい庭が見える。
見ると、まだバラの花がついている木にイギリスがハサミを入れていた。
「切っちゃうのか、それ」
丹精込めて、世話をしているのを知っている。もったいなくはないのか。梯子に登って組んだ腕を塀に乗せていた俺は思わずそう呟いてしまった。
「また覗き見か?」
「別に。梯子があったから」
バラと俺だったら、迷わずにバラの木に不等号を向けるくせに。ぼんやりとそう卑屈に思っていると、ぱちんと歯切れる音がした。
「もう蕾が開いてるから、長くは楽しめないけど」
そう言って塀の下から渡された一輪のバラは、青臭い草木の匂いと甘い香りが混じっている。
期待していなかったことに、イギリスの顔をじっと見ていると、視線をふいと外されて話題を変えられた。
「夏も終わりだな」
晴れた空からの光が庭に落ちた露を眩しく光らせ、秋に向かって涼しくなっていく風が、俺の長い前髪を掻きあげていく。
最後のバラは空気に香り、夏の終わりが近づいていた。