「窓辺にいるだけで、こんなに手が冷えてるな」
暗闇の中で握ったイギリスの手をさすっても、ただひんやりとした雨のように冷たかった。後ろから覆いかぶさるように抱きかかえた小さな背中にぞくりと暖かさが抜けていく。
「いつも俺は1人で寝てるんだから、今日だって平気だからな」
イギリスが拗ねたように横を向いた。とても可愛いくない。その体を抱いたままひょいと持ち上げると、吃驚したように腕の中で暴れだした。
嫌だ。離せ。くそ野郎。
罵詈雑言が幼い口から飛び出す。自分がろうそくを吹き消したわけだが、そのイギリスの顔が見えなくてフランスは少し残念に思った。多分、腕の中の小さな人は顔を赤くしているのだろう。そう思うと、口元がゆるんでしまう。
「ほら、坊ちゃん。雷が近づいて来たでしょ?俺は雷が怖いから一緒に寝てよ」
「へぇ、なんだ。お前、あんなのが怖いのか?」
「そーそー。雷コワーイ」
小さな嘘と調子を合わせてやると、イギリスが大人しくなった。フランスのことを笑っているらしい。
「……じゃあしょうがねぇな。俺は優しいからお前と一緒に寝てやるよ」
やはり暗くて良かったとほくそ笑む。
イギリスは立場を持ち上げれば、絶対にどんな条件でも受容してくれるのをフランスは知っていた。
寝る前の少しのお祈りを済ませて入ったイギリスのベッドは、子ども用にしては大きいが二人分にはきつかった。
窓を煌々と照らすまでの稲妻が光って唸る度に、イギリスの小さな肩はびくりとベッドを震わせて、体を小さく縮こめている。
「へぇ。なんだイギリス、お前雷が怖いのか?」
にやにや笑いを消せないまま、先ほどの口調を真似る。暗い中でイギリスに睨まれたのが分かったが、轟いた雷鳴に頭をまた布団の中に戻したらしかった。
茶色がかった金髪を撫でると、
「お前だって、怖いって言ったくせに」
震えた声でイギリスが言い返した。黙って胸元にきつく抱き寄せても、抵抗もしないほど怖いらしい。
「フランスは怖くないのか?」
黙って首を振る。教えてあげようか。耳元に手を寄せて囁くついでに、その頬に口づけした。
「坊ちゃんと一緒だからかな」