フランスが64歳になっても…と歌っているのを遠くに聞きながら、先ほどの論説を思い出す。飛躍しすぎだと感じたが、実際に人間は変わる。それは俺たちも同じだ。いくら俺たちが長く存在すると言えど、形や性質が変わってきたことは否定出来ない。
人間より『変わりにくい』だけで、『変わらない』ではないのだ。いつもこの話になると、不安になって、なんだか隣のやつに甘えたくなる。
そのたびに、心配症だなんだと呆れた顔をされたりするのだが。
前にそいつには偉そうに「今と未来だけ考えればいいんじゃねぇのか」などと言ってやったが、未来を考えれば不安になってしまう。自分にある種の自信がないわけではない。
愛される自信…というと語弊が生まれるのだが。ここまで考えると、女というものはすごいなと感じ、またそれを確かめようと相手の愛を搾取する自分を女々しく思う。
「なぁ、フランス?俺が64歳になっても愛してくれるか?」
酒が入っているのに神妙な気分になり、そう尋ねた俺にフランスは予想通り呆れた顔をした。
「それって冗談それとも真面目?」
「俺はいつだってシリアスだ」
「見た目が64歳ってこと?…そりゃあ全く長い長い未来の話だな」
会話がふと途切れる。静かになった家の中には、外かのら新年を祝って打ち上げられる花火の音が飛び込んでくる。
「新年おめでとう、坊ちゃん。今年もよろしく」
「俺んちは1時間後だばか」
額をこすり付けるような距離で笑いあう。こうしていると、さっきまでの凝り固まった不安がどろどろと溶けていくような気さえする。
「何歳になっても愛してるよ」
愛の国はそう言って俺に口付けた。