自己嫌悪を紛らわすように、とにかく手を休めないで片付けていくうちに、精神的にも現実の部屋の中にもやっと整理がつき始めていた。本はすべてビニールテープで纏められ、細々したものは段ボールの中へ。この部屋に引っ越して来た時のように部屋が急によそよそしくなったように感じた。「俺の」部屋なのに。片付ければ片付けるほど所有格が薄れていく。今まで何度も休日を使って挑んでも片付けることが出来なかったのはこれが原因だったのだろう。
ガムテープで段ボールの蓋をしながら、マジックインキで中に何が入っているのかを書いていく。服、筆記用具、書類、CD、写真やらのアルバム類……よそよそしくなった部屋とは反対に沢山の段ボールの中には、自分の所有格が付いたものがたくさん入っている。たった一箱を除いて。
『others』と書いて、気に食わずに二重線で消す。フランシスのもの?また二重線で書きかけた言葉を消す。
そこでふと、今までの時間を振り返りながら笑ってしまう。あの煙草にしろ、片付けなければ気づかなかったあいつの詩集やCDやレコードなんかが俺の日常に溶け込んでいたことにしろ、気づけないほどに俺の周りにはあいつのものや気配で埋まっている。そこに居なくても、まるで空気のように確かにすぐそばにあいつがいて何かを共有しているのだ。
俺は『共有物』、と二つの二重線の下に小さく書きなぐった。