しょたクラ音波(サン音) - 1/2

「えっ、嫌だ!」

 言ってからはっとした顔をして見せる。
 この水色の事なかれの機体が即座に拒否するのを初めて見た気がした。
 何故だとも聞かずとも、ブレインスキャンをかけると、とにかく嫌だとつよい拒否感の電磁波が流れ込んでくる。

「シカシ、デストロンの軍事行動ニ航空優勢は必須ダ」
「でも――」
「ジェットロンは部隊単位デノ格闘が多い。オ前は兄弟機ノ足を引っ張るツモリか?」

 連帯性・同調・同型の仲間。サンダークラッカーが飲まれやすいものを言葉ににじませるが、その口元は「イエス」とは言わなかった。
 いつもは何かと我慢するこの機体が、我がままな思考に陥ってるのが意外だった。自分の時も思ったが、体格に合わせて中枢の回路が縮小するわけだから、やはり考え方も幼くなっているのかもしれない。かわいらしい。そう自然と思い、俺はマスクの下で真顔になった。
 そういえばこいつはそんな言葉を俺に言わなかったな。
 平素は「かわいい」と言われても嬉しくはないにしろ、小さくなったことで俺の自己同一性だとか自尊心と呼ばれるものは大きく傷ついていた。なにか肯定的な言葉を欲しがるのは仕方がない。カセットロンたちやメガトロン様、いつもは俺を避けているものまでがその言葉を俺にかけたというのに、こいつだけはそうしなかった。あの時の俺は、幼いという理由だけでこいつから拒否されたような気分になっていた。
 うそでもいい、何か肯定的な言葉が欲しかった。
 接続してみても、名前でさえあまり呼ばれなかった。あの名前を呼ばれた時、俺がどんなに嬉しかったか。気づかなかったこいつに言葉で教えてやる義理はないが。

「サウンドウェーブ?」

 こちらが黙っているのを気にしてか、俺自身が少し苛立ったのが分かったのか、サンダークラッカーは恐る恐るといった様子でこちらを見上げている。
 幼く見えるとも、やはりサンダークラッカーだと思う。
  俺の不安や怒りを無意識に嗅ぎ取ってくる。こういうところだけは、こいつがブレインスキャンを持っていないという事実が驚きだ。しかし、こいつは基本的には鈍い。俺の本意には『気がつかない』。
 踏み込まないにせよ、その理由が見当たらないのが腹立たしい。無関心が故に優しい。それでは周りを勘違いさせるだけだ。

「心配スルナ。機体差ニヨル負担はアノ一件で実体験的に理解シテイル。いつもと同ジク、俺ガ受身でイイ。ソレトモ、マタ俺とスルのは嫌か?」
「別にそんなんじゃ!……ねえんですけどよ……」

 歯切れが悪い回答は嫌いだ。
 恥ずかしいみっともないし――幼い機体のそのちれぢれの思考は読み取れず、今度は記憶の中でなく目の前のサンダークラッカーに対して苛立ちを覚え始める。
 情報参謀である俺も忙しい身だ。

「ハッチを開けろ」

 マスクを外し、上官として命令する。しかし、サンダークラッカーの反応はすこぶる悪い。

「俺に開けさせたいのか?」

 つい面倒くさくなり、強行する。足元の水色の機体を持ち上げ、ベッドまで運んで座らせる。

「わっ、ちょっと待てって!おい、サウンドウェーブ!」

 抵抗はあっても、至極軽い体での力などたかが知れている。小さな羽根でも飛べるように軽量な機体になっているのかもしれない。
 俺でさえ先ほど可愛いと思ったのだ。接続で元に戻れるという認識が広まった今、こいつをそのまま野放しにする訳にもいかない。アウトプットやインプットの性嗜好はどうであれ、小さいもろい機体は後者になりやすい。いつかは誰かに犯されたりおもちゃにされて壊れたりするのがオチだろう。カセットロンほど気概のないこいつなら、と簡単に想像できてしまう。
 ばたつかせるサンダークラッカーの足を押さえ、コネクタのハッチをハックして開ける。自分の意思に反してハッチが開けられたのに驚いたらしく、サンダークラッカーが動くのを止めた。
 咥えながらその表情を見やると、何でそんな技術を知っているのだとオプティックは開かれ、説明を求めるブレインの声が激しく入り乱れている。

「……長いロボット生、何事も知っておくと得スルこともアル」

 こういうことも必要なのだ。
 そう言った途端、サンダークラッカーの気持ちとモノがひどく萎える。相手が何を想像したのか分かり、俺は慌ててつけたした。

「イツモ誰これ構わずにやっているワケじゃナイ。俺ヲ『知っている』お前だカラやっている」

 こういう言葉が足りないのは欠点だ。いちいち訂正するのも面倒くさいが、ブレインスキャンを持っていないのだから仕方ない。
 誤魔化すように口の中のモノを舌先で扱う。
 いつものとは比べものにならないが、このくらいの機体の規模との比率にしては、そこそこ大きいんじゃないか?
 いつもは全て収めようとすると発声器まで届きそうになるそれがすべて口内に収まる。出来るだけ口内の丸い部分で包むようにして刺激を与えてやる。

「あっ、さうんど、うぇーぶ、それ、やばい……!」

 口の中での愛撫に合わせて、小さく腰が動く。幼くなったことで閾値がかなり下がっているらしい。いつもは俺ばかりが恥ずかしい思いをするが、サンダークラッカーが今までこんな甘ったるい声を出した記憶が無い。
 可愛い。やっぱりそう思ってしまう。
 声が聞きたくて、余裕の無い姿が見たくて。舌先で排出口を弄ると、小さな振動と共に口の中にねばついたものが広がった。
 達してしまったようだ。
 顔を見ると、視線が合うまではとろんとした顔をしていたが、やっと意識がはっきりしたらしい。

「わ、悪い!まさかこんなに簡単に出すつもりは、」

 焦ったようにサンダークラッカーが口から自分のものを引き抜こうと動く。口を離すと、量は少ないが、確かに俺の口内液と吐き出されたオイルの混ざったものが糸を引き、先ほどまで咥えていたコネクタの先と俺の口元を一瞬繋いだのが見えた。薄く少ないとはいえ、気持ちが悪い。仕方なく、ベッドサイドの洗浄水で喉奥に流し込む。

「飲んじまったんですか?」

 驚いた声を上げたサンダークラッカーに口の中を見せる。
 そういえば俺がこいつとやった時、俺は出なかった。負けた気もしなくもないが、発達の違いがあるのは致し方ない。

「次カラは、出す時ハ何か一言言ってからにシロ。元に戻るには接続をしなくてはナラナイのだカラ、無駄に果ててしまえば本懐が遂げられナイ。幼イ機体なのだからソンナに何度も――」

 話の途中でサンダークラッカーがさっと目線を外す。見下ろすと、まだそのコネクタはゆるく上を向いている。

「……ドウヤラ、心配する必要は無いようだな」

 外された目線を捉え、その口元に口を寄せる。サンダークラッカーが俺の時にしたように口の中を犯す。しかし、オリジナルはサンダークラッカーだ。どうしたらいいのかは分かっているらしく、いつの間にか小さな舌がこちらに入ってくる。
 必死に食いつくような様子に幼さは残っているが、技術は幼くない。
 俺は静かに自分の両方のハッチを開き、キスをしながら自分の準備をする。こいつを元に戻すための接続だ。幼い機体となら不完全なものしかできないだろうから、自分である程度は引き上げる必要がある。
 中をほぐし始めると、口元が疎かになったせいか、サンダークラッカーが俺の準備に気がついたらしく、口を離す。

「あんた、何やってるんです」
「接続をスルのが目的ダロウ。流石にスグには入ラナイ」
「それくらい、俺がするのに」

 そうは言っても、小さい機体にあまり負担をかけるわけにはいかないのだから仕方がない。俺と接続するのにまだ躊躇いがあるなら、その気にさせるように『協力』くらいはしてやる。

「ジャア、後はお前ノ好きなようにシロ」
「えっ」

 ベッドに寝そべるが、サンダークラッカーはまだ躊躇っている。こいつは小さくなってもこういうところが変わらない。
 見上げるサンダークラッカーの腹を足先でつつき、腕を広げてやる。

「来イ。俺は好きなようにシテ欲しい、と言ッタンダ」