クリスマスの数時間前に(仏英)

クリスマスにはどこの店も閉まっているだろうから、と早い時間から買い出しに来て正解だった。人々で埋まった商店街の店には品数も少なくなりつつあったが…それでも日がどっぷり暮れる頃には、おいしいものを作るための材料がいっぱい詰まった重量感のある紙袋を両腕に、通りを下っていくことが出来た。

全くどうももうクリスマスである。
街に灯ったイルミネーションで賑やかになった日没後の花の都は、一層に華やいで、すれ違う人の顔つきは明るい。子どもを連れた夫婦に恋人と腕を絡めてうっとりと過ぎ行くカップル。品の良い老婦人と夫。和気あいあいとウィンドウを覗いているのは友人同士だろうか。
なんだかその上擦ったような熱気に当てられて、嫌でも寒さで縮こまっていた背筋がすうっと伸びて顔も上向く。
なんと言っても、クリスマスなのだ。たとえ俺には聖夜を一緒に過ごす人がおらず、家路の先には冷え切った我が家しか俺を待っていないとしても。

外気と温度が変わらないんじゃないかと思われる室内に入ると、玄関脇のエンドテーブルに手紙とピカルディからの一枚のメモが置いてあった。キッチンまで歩きながらメモの”秘密の女性からの手紙ですか?” というところまで目を追う。

確かに、封筒には宛名である自分の名前しか書かれていなかったが、調理バサミで封を切った中にはクリスマスおめでとうの簡素な一文と書きなぐりの追伸が書いてあった。
雑な方を指でなぞり、盛大なため息をついたあと、さきほどの紙袋二つをまた腕に手紙の送り主の元へと歩き出した。
時差は1時間だし、急げば夕飯の時間までには向こう岸に着くだろう。
予定を開けておいてよかった。が、次回からはもっと早めにかつ素直に俺に会いたいと言って欲しい。

また街の喧騒の中に入れば、わくわくと胸が踊るが、今度は自分もそのざわめいた中に入っているようで。足早に過ぎる灯りの中で誰かがクリスマスの喜びの歌を歌っていた。
 
 
ああ、素晴らしいかなクリスマス。