You’re so damn hot(仏英) - 1/6

ヒスを起こしたような音楽が、店に入って来る客の耳を襲っていた。大方、バイト君の趣味だろう。それでも、レコードや雑誌やCDの棚を見つめる買い物客たちは顔をしかめる様子もなく、この喧しさを楽しんでいるようだった。

自分には理解しがたい趣向だが、俺が今日会いに来たのは、まさにこのような音楽や環境に取り囲まれた男である。いつもタバコをふかしながら、さながら沼の主のようにレジに座って雑誌を読んでいる。俺は編集社に勤めている関係で、その男と知り合ったわけだが、レコード屋の店主ほどあいつに似合う仕事はないだろう。まさに天職というものだ。で、俺は何だかんだ言って、その男、この店の店主アーサーに原稿を取りに来たり、会いに来たりするのを楽しみにしている。反応が可愛いのだ。
服にしろ音楽にしろ趣味は何ひとつ合わないし、素直ではないし、レジのなかであいつが読んでいる雑誌が時たまエロ雑誌だということにも気づいている。はっきりいって全く正反対なやつなのだが、話をしてみるとなかなか面白い。伊達に若いのに自分の店を持って、切り盛りしているわけではない。頭はよく切れる。別の意味でも切れやすいが。

あらかじめ指定されていた、店を閉じる一時間前。店の奥の定位置にあいつは居なかった。
顔見知りのアルバイトに声をかけると、裏口の階段を登った二階の奥、アーサーの部屋へと招かれた。