彼のキッチンは、全体にカエデの葉色ののんびりした空間だった。彼の好きなとろりメイプルシロップは、これまたカエデの葉をかたどった瓶につまれて食器棚から覗いている。
「カナダ、君のキッチンは凄いな!俺もおじいちゃんになった時に、こんなキッチンでぼんやりしたいよー」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
それ嫌みなのか分からないけど。そうコンロに向かいながら笑って、カナダはくるりと山盛りのパンケーキと一緒にこちらをむいた。
「シロップ、かけるかい?」
「あーうん」
あつあつのパンケーキの上で、ゆっくりと融解しながら滑り落ちようとするバターを見つめることに集中する。
すると、カナダは俺を見ながらくすくすと穏やかに笑った。
「君は本当にそういうとこ、昔から変わらないよね。なんか子どもっぽいっていうのかさ」
笑われたのをむっとした顔で返すと、あっというように彼は笑顔を引っ込めて謝ってくれる。
「君もそういうたまに怖いもの知らずなとこ、変わらないじゃないか」
「そうかなー?」
生まれてすぐの時からの君との付き合いだから、なんか一緒にいると自分が見えてきて面白いんだよ。
そういって彼は頭をかいた。
疑似兄弟の関係性とメープルシロップバターの関係性。君がシロップならば、俺はまさにバターだ。どちらも多いほうが面白いしおいしい。なかなかに愉快じゃないか。
そう思い、俺はにんまり笑ってパンケーキにフォークを突き刺した。