夜の海の砂は昼間に比べると冷たく、かかとで掘り返すとちょっぴりじめっとしてます。でもすごく暑くも、すごく寒くもないから、イギリスの野郎がいたら迷わず飛び込むんでしょうね、ばーか。と訳もなくくだらないことを考えてしまって。シーくんがそんなことを考えているうちに、今まで歩いてきたところをセーシェルが追いかけて走って来てくれたのです。
「私、食後の夜の散歩を勧めましたが、シーくんはどうですか?」
セーシェルは、フランスなまりのちょっとヘンなしゃべり方をするお姉さんですが、シーくんはこのしゃべり方が嫌いじゃないです。
「とっても気持ち良いですよ」
「うぃー、それは良かった」
私、海が好きなんですよ。
セーシェルはにっこり笑って、その笑顔にシーくんはますますこのセーシェルが気に入ってしまうのです。
「シーくんの名前にも”海(シー)”が入ってるのですよ」
「くぁー?どういう意味ですかそれ」
セーシェルに訳の分からない顔をされ、砂地に指で大きく
” S e a l a n d ”
と書いて見せると、ちょっと納得顔になってシーくんはほっとしました。セーシェルと話してると、たまにこういうことあるんですけどね。
「うぃーなるほど、海と土地とはシーくんは豪華ですね」
「うーん、海上の国っていう感じかもですけどね。そんなにすごいことじゃないのですよ」
「でも誰にでも心には、小さくてもちゃんと海はあるんですよ?」
そう言ってなんとなく繋いでギュッと握られた手に、心の中の小さな小さな海の水面で何かが跳ねる音が聞こえた。セーラーの襟が海風に煽られて頭にくっつくなか、とくんとくんとその小さな海が温かくなっていく。
「シーくんは、セーシェルのこと、すごい好きですよ」
シーくんにもよく分からないんですが、急に言わなきゃと焦って口早に言ってしまったのです。でも、ちゃんと聞き取れたという証に、セーシェルがまた笑ってくれたのでシーくんも笑いました。