海が綺麗だ。
小さな窓辺では、中途半端に閉まった青いカーテンが踊らされて二人の肩まで届いている。
外ではシエスタタイム前の11時だというのに、小学校くらいの可愛らしいカップルが手を繋いで木陰で休んでいた。
ナポリ民謡を口ずさみながら。これ、なんやったっけ。
そう思っていると、時間はいいのかと後ろから軽く背中を蹴られた。
その俺の可愛らしい恋人は──昔ほど犯罪並みに見た目年齢が離れてはいないが──また来てくれるのか、という言葉を飲み込んで心配なのを隠して俺を見ている。
内心喜んでも、罰は当たらない筈だ。
いつもは開けば、憎まれ口を言うその口は閉じていて、言いたいことが言えないところがとても愛しい。
「心配せんでもええんよ」
「誰がお前の心配なんてするか!」
はいはい、と笑って返す。ロマーノの表情もしんみりとした心から照れ隠しへと動いていった。
これで大丈夫だろう。悲しくても、それを面と向かって言えない彼を心配しているのはなにを言っても俺なのだ。
そんな過保護でいて本音がこもった心配を言ったら、昔にしていたように彼はきっと赤くなって怒るだろう。
「ロマーノ、じゃあ、船を待たせとるからほな行くわ」
返事は返ってこない。
「ロマーノ?」
ロマーノが俺を見上げる。何をした訳では無いのに、顔は赤くなっている。
「聖ルチアのお導きがあるように、だこのやろー」
ロマーノは小さく十字を切ってお祈りを言うと、目を逸らした。
か、かわええ……。
その可愛いさに思わず、抱きしめる。腕の中で頭突きをして俺から離れようとするが、俺が離さないのが分かると、諦めて頭を少し埋めた。
目を合わせようと微笑むと、くるりと避けられる。
「いま、こっち見んな」
流石のロマーノも寂しいんやろな。少し自分が照れ臭くなるなかで、小さな背中を優しく撫でてやった。
まぁ、いつもこんなんならな。
そう思って思わず笑ってしまった。いや、いつもも可愛ええわ。
窓の外からの小さなカップルのまだ続く歌声。Santa Luciaだ。その色男と目があうが、ロマーノは腕に隠れている。俺らが男同士とは思わないだろう。せやけど、ガキには早いわ。
見せつけるウインクに、半開きのカーテンを素早く閉める。
船には明日に乗ろう。
聖女さんには悪いけどな。