「ここはいつ来ても陽気やなぁ」
海からの潮風で少し痛んだ髪を気にしながら、スペインはにっこりと微笑んだ。
南イタリアの明るい港町の小さなレストラン、午後の少し暑いくらいの陽射しを受けて水の入ったグラスも汗ばむ。それを喉の奥に干すと、スペインはゆっくり立ち上がった。それに気づいたロマーノが見上げる。
「何だ、お前もう帰んのか?」
「俺んちでなんかあったみたいやから、はよ帰らんといけんらしいのや」
焦っているのか、そうでないのか分からない口調でスペインは歩きだした。その後ろをロマーノも歩く。
しばらく会えんかもしれへんな、と洩らしたスペインにロマーノもあっさりと返事を返す。
「……ロマーノ、なんか俺に言うことあらへんの?寂しいわー」
「お前んところの言葉なんか一個しか知らないぞ畜生」
じゃあそれでええやん、と笑いながら先へと行くスペインの肩をロマーノは掴んでこちらに引き寄せた。
「キスしたって、だはげ!」
あらま、と気の抜けたようにスペインは思う。子分だ子供だと下に見てたけど、やっぱりこいつも男やったんな。
なすがままにされながら、ロマーノをじっと見つめる。
ずっと見つめていたら、怒られた。
昔の様に、赤くなって怒るロマーノを笑って、スペインも少し照れた。
「なぁ、ロマーノ。もう一個言葉を教えてやるわ。Besame muchoっていうんやけどな……」
いっぱいキスしたって、や。
「まだまだ、意味は早いから、教えへんけどな」