illogic(衝音)

感情がなくとも、欲望というものは尽きないらしい。

ハッチを開けて現れたモノを咥える度、そう思う。ちゃんと根元から先端にかけて裏に舌を這わせれば、ちゃんと固く上を向く。接続は、情念を感じさせないこの機体に対して唯一、俺が奴の存在を感じる瞬間だった。
自らのレセプタをいじりながら相手のコネクタを愛撫する俺の姿は貪婪極まりないが、この機体――ショックウェーブに自分の体を弄り回させるなんて言語道断だ。何をされるか分かったものではない。前後不覚になった状態で、チップやウイルスをレセプタや内部のコードに埋め込まれたらと想像すると虫唾が走る。
特にこいつは狂った研究の対象をオートボットの捕虜にだけでなく、同じディセプティコンにさえ向けてくる。特に俺なんかは、一回バラしたり、『実験』したりしたくてたまらないのだろう。こいつに良いように『改造』されるのだけはごめんだ。スパーク維持のための器官以外へのエネルギー供給を最小限に抑えてブレインスキャンや超音波の発生回路だけ常にフル稼働、なんて機体に変えられないとは言い切れない。
それに、ショックウェーブには左手と口腔ユニットがない。自分の手で馴らさないと、自分のレセプタが接続の時に壊れそうになるだけだ。
コネクタの先端を口に咥えて、舌で排出口をぐりぐりと押しては口を離すのを繰り返す。
そこまでして男型であるこの俺がこの同性の機体に抱かれてやるメリットは少ないが、こいつとは何処かで繋がりを持っていなければならない。自分の利害のみで動くこいつの考えは時には分かりやすくもあるが、常に監視していないと、どこかで選択肢を取りこぼしてしまう。仲間にしておくには有能だが、危険すぎる。
こういう行為の時でさえ、ショックウェーブは油断ならない。

急に俺の頭を押さえ込み、コネクタを喉の奥まで押し込んだりする。

「――――ッ」

猛烈な吐き気と胸のつまりとの不快感が襲い、押さえつけるショックウェーブの腕を振り払おうとする。
そんな俺の姿を無機質なモノアイが覗き込み、観察が始まった。こういう時のショックウェーブの声音は何故か優しげになるが、決して腕の力は抜こうとはしない。

「サウンドウェーブ、喉の奥にまっすぐに何か鋭いものを刺したらどうなるか知っているか?そこにはブレインサーキットの中枢神経系に繋がる感覚系伝導路と運動系伝導路の主要コードが通っている。運が悪かったら呼吸困難で死に至るだろうな」

そこまで言ってから俺の頭を押しやり、発声器を裏返しながら自分のコネクタをずるりと引き抜く。
二度目の吐き気と目眩に、視覚センサーまでがチカチカする。
俺の体液オイルかもショックウェーブの漏れ出したオイルかも分からない雫が、俺の顎や奴のコネクタを伝って下に落ちた。 緊張から解き放たれて弛緩した内蔵器に合わせて、俺のレセプタの収縮も緩和する。中に差し込んだ指が緩んだそこを押し広げることが出来る。
そろそろ接続出来る、ということだ。

「…………」

呼吸を整えると無言でショックウェーブを押し倒し、その体にまたがる。
相変わらずモノアイは無機質に光るだけだが、俺の中に差し込まれた奴の一部は確かに熱を持っていた。ゆっくりと奥まで使い、根元まで受け入れる。そこからまた外れそうな位まで腰を上げ、出来るだけ摩擦が起こるような角度で重心をずらせて腰を落とし、何度も内部にコネクタを打ち付けた。

「あっ……ううっ……ん……」

その衝撃を受けるたびに腹部の内蔵が収縮し、排気器官のタイミングがずれていく。
ショックウェーブの機体熱がどんどん上がっているのが分かる。口腔や気管のないショックウェーブの機体はすぐに熱が上がる。そうしているうちに排気口のハッチが開かれ、荒い排気音が漏れ出した。
俺もどう動いてもびりびりとしたパルスがブレインを貫いて、腰が浮いたような感覚を覚える。がくがくと震える脚部がしびれて、これ以上は自力では動けない。

「辛そうだな」

瞳の赤い彩光をギュッと絞りながら、ショックウェーブが他人事のようにつぶやいた。
このあとに来る言葉は決まっている。

「手伝ってやろう」

この言葉を聞くたびに、俺は内心ゾッとする。
同情も出来ないこのショックウェーブが自分に対して何かしようとするのだ。それがどういった算段や動機から成るか、俺には分からない。
得体の知れないやつだと俺は他機から煙たがれているが、それを俺はショックウェーブに感じる。こいつがインセクティコンを使ってラボでメガトロン様に隠れてこそこそとやっているらしい研究とやらも、こいつ自身も胡散臭い。
そんな機体に任せられるのは、俺もショックウェーブも限界が近いと知った時だけだ。

「……ショックウェーブ、あとはお前で好きなように動け」
「了解した」

右手のハンドで胸ぐらを掴まれるように上半身を固定され、浮いた腰の隙間でショックウェーブがピストン運動を始める。自分で腰を落とすときにはぶつからない場所が摩擦され、耐え切れないような感覚器からの信号がブレインを揺さぶる。

「ああっ、あ、う、うあっ」

腰の動きに合わせて俺の声の感覚も速く、そして制御不可能になってきた。
ショックウェーブの機体は既に焼けるように熱い。
回路が焼き切れそうだ。
今まで開けていなかった俺自身のコネクタのハッチを開く。熱が少しだけ安らぐが、今度はすぐに俺のコネクタが熱をはらむ。
ぼたぼたと漏れ出したオイルを潤滑油に、自分でそれを擦り上げる。

「もう、限界が近いか」

返事をすることもままならず首を縦に振ると、胸ぐらを掴んでいた手が俺の首を絞めだした。その間も腰の動きは止まらず、絶頂へ向けての高まりがさきほどショックウェーブが言った『感覚系伝導路』を駆け抜けた。

「ぐうううううううっ」

全身の関節という関節がぎゅっとしまる。同時にものすごい勢いで収縮した体内器官の中で、ショックウェーブのコネクタがオイルを吐き出したのが分かった。
頸部を締める手から喉が解放され、脱力にも似た気だるい快感の波の中で、自分のコネクタからどろりとしたオイルが手の中に吐き出された。