夕陽の茜色がアコの栗色の髪に映えて、毛先が薄い橙に光っていた。
奇麗だな、と思う。
「へぇ、それは変な夢だね。僕たちがレストランに行った日から続いてるの?」
「ううん、レストランに行った夜には高い熱が出て…あの日はもっと違う夢だったはずなんだけど…」
全然覚えてないんだ、そう言ったアコは少し残念そうだった。アコは会いたいんだろうか、その泣き声の主に。そう思うと、何故か少しだけ腹立たしかった。
でもやはりアコは僕の所に来たんだ。頼られてることは純粋に嬉しかった。
「もしかしたら、その声の主の夢とアコの夢が繋がっているのかもしれないね」
「どういうこと?」
「怖い話なんかだと、よくあるんだ。夢が向こうの世界とこちらの世界を結ぶ中間地点になってたりね」
アコは怖がりながらも、素直に感嘆している。怪談話が怖いから嫌いだというふうに言っても、この程度ならまだちゃんと聞けるらしい。
「でもそういう話だと、その夢を繋げる共通の意識というか媒体が絶対にあるはずなんだ。アンティークのベッドの今の持ち主と前の持ち主とか」
「ええ~そんなのうちにはないよ……」
そんなアンティークみたいないわく付きなもの限定じゃ違うのかも、とアコは表情を曇らせた。
「『違う』って?」
「え?ああ、うーんと、だから怪談レストランに行った夜に見た夢から覚めたら…手に蝋燭を握ってたんだけど」
「それだよ!凄いなあ。小説みたいだ。その蝋燭を握って、眠ってみてごらん?声を辿ってみれば」
う、言葉に詰まる。アコが期待に満ちた顔でこちらを見ているからだ。
「その人に会えるかも、ってこと?」
「……うん」
ぱっと笑った顔を見てしまった。言わなきゃ良かったかな。でも、友達に嫉妬してどうしたいんだ僕は。アコがこの街で初めて出来た友達だから?友達がそれを選択したならば、それを助けてあげるのが友人というものだろう。ええい男らしくない。
僕は良かったねと無理に笑顔を作って、アコを応援した。
「ショウ君にしかこんなこと話せなくって…レイコじゃ馬鹿にされるし。とにかくありがとうね!」
胸がちくちくと痛んでいたのが、少しだけ静まる。アコと同じように世界が見えたり感じたり出来たら、こんな風にはならないのかな。
家に向かってまっすぐ走っていくアコの赤いランドセルの、キーホルダーが振動で跳ねているのを僕は見送った。