⑤真っ暗闇に吸い込まれそう(ギャルアコ)

最近、毎晩毎晩、私は同じ夢を見る。
天井のない…あってもとても遠い遙か上にあるような夜の底、その真っ暗な闇の中に私は立っていて、誰かがその中でずっとしくしく泣いている。多分男の人だと思う。その人が誰かを呼んでるの。

「悲痛、って感じなんだよね、あの泣いてる声がさあ…」

あ、声に出しちゃってた。やだなあ、何でお風呂で髪の毛洗ってたりする時ってこう怖い話を思い出したり、深く考え込んじゃうんだろう。
うん、でもその言葉がよく似合う。
聞いたことがあるんだけれど、何処だったのかなあ。もしかしたらこれもいつか見ていた夢の中だったかもしれない。
とにかく、その闇の一番奥で、泣いている誰かのところに早く行ってあげたいんだけれど、たどり着けなくて。いつも途中で目が覚めてしまう。
今日の帰り道で、ショウ君に相談したら『もしかしたら、その声の主の夢とアコの夢が繋がっているのかもしれないね』って言っていた。聞いた時は、あの人に会えるんだって嬉しかったのにな。
あの蝋燭を握って眠れば、その人のそばまで行ってあげられるんだろうけれど、ショウ君の意見の出典が怖い本っていうのがちょっと怖くって、迂闊に試せっこない。ってさっきまでそう思ってたんだけど…自分が最近、『普通』の夢を見てないことに気づいてしまって。あの暗闇が私の日常の一部になりつつあって、

「怖いけど、試した方がいいのかな」

髪の毛をドライヤーで乾かし、パジャマに袖を通す。やだなあ、でもあの声の人に会ってみたいしなあ。どうしよう好奇心は猫をも殺すって言うし…。

「お風呂出たよ?おやすみなさーい」
「おやすみー。アコ、寝る時にカーテン閉めるの、忘れないでね」
「はーい」

部屋の勉強机の上の蝋燭にちらっと目をやる。でもあれがショウ君の言う『媒体』かどうかも分からないんだよね。
窓枠の外には、真っ黒な夜が街を包み込んでいる。こんな闇の中では、眼鏡をかけててもかけてなくても、何も見えないんだよね。何かはあるけど何もない。あの人はこれより黒い暗い闇で、ずっと泣きながら誰かを呼んでいるんだ…

やっぱり、怖いものも見えないものも嫌いだ。吸い込まれそうなのに奥がない。

ふいにぞっとして、私は力任せにカーテンを閉めた。