しらじらと夜が明けだし、暗闇からお互いの輪郭が浮かび上がる。センサーが暗視から切り替わったからか、さっきまで気にも留めていなかった相手の表情が気になりだす。薄明かりの中で光度調節され、ぼやけている奴の顔をまじまじと見つめ始めた。
こいつもこういう顔をするのだな。
妙に真剣な、それでいて熱っぽい顔で俺の顔を覗き込んでくるサンダークラッカーを見ていて思う。基本的に無関心で事なかれで通すこの機体がーー優しげに見えて、かなり冷たいところもあり、しかし情を捨てきれないこのちぐはぐな脳波を持つ機体がーー俺をこういう表情で見てくるという事実を俺は楽しんでもいた。
こいつのこういう一面を知っているのは俺だけだし、引き出せるのも俺だけだろう。そういう無意味な独占欲を満たしてくれる。
このキスという動作に意味を求めるほど俺は愚かではないが、こうも激しく求められると何がそうまでさせるのかと思いたくもなる。
こうされているうちには意識がどうしてもサンダークラッカーに集中してしまい、こいつの脳波に眩暈を感じる。視線が熱い。
「わりい、欲情した」
ブレインの動きが鈍り出すと、サンダークラッカーが急に我に返る。
これだからこいつは嫌なのだ。
自分の感覚や衝動に夢中になっていればいいのに、ふいに俺に気を使ったりする。こいつは結局、お人好しなのか。そんな態度で居るから、お前は損をする。自分以外は他者と割り切っている癖に。モノとして扱ってしまえば、都合がいいだろうに。俺や他の奴らのように。
そこまで考えて、俺はまた思考を切り替える。
しかしこいつにモノとして扱われて、俺はそれを許せるだろうか。
「…………」
「どう、した?」
考えこめば、すぐに察して俺の様子を伺ってくる。尋ねながらも俺の輪郭に手を添えて口づけを求め、俺の返答を発声器に留まらせる。
これだからこいつは嫌なのだ。
人の不安を無意識にか嗅ぎ取ってくる。こいつがブレインスキャンを持っていないという事実が驚きだ。
情報の変化はきっと留め置けない。しかしーー
俺は今確かにこいつが好きだし、こいつは俺が好きだ。
朝もやで不安定な視覚の中、俺は永遠を信じてみたくなった。
18 2014.12