カテゴリー: 投下

あはれ!名作くん(会話文)

メモ帳から発掘したので、お炊き上げ

名作くんたちが実質中3っていつの時のメモだろう……

 

五少年漂流記は完全にこの流れだと思った

ス「いやー助けが来て良かったよねー」

ノ「なー」

名「ほんとだよ。十五少年漂流記の原題は『二年間の休暇』って言って、少年たちは2年間も無人島で暮らすからね」

ス「ええっ」

む「僕らだけで2年間も無人島暮らしなんて無理ですぅ」

名「しかも少年たちの島にはジャガーみたいな猛獣やならず者の水夫みたいな敵も出てくるんだ」

ボ「波瀾万丈だな!」

ノ「ご飯とかはどうしてたんだ?」

名「島に来たアザラシを狩ったり、海亀をスープや焼肉にして食べたり――って」

名「ボルト――!! またマナーモードになってる!」

む「今のは名作くんが悪いですよ! 仲間を食料みたいに扱うのは良くないです!」

名「してないよ!」

ノ「名作って、ときどき名作にかこつけて俺らにサイコな提案してきたりするからなー」

名「サ、サイコ!? だからしてないってば!」

ボ「ブツブツブツブツ」

名「あれ?ボルトがなんか言ってる……」

ボ「やられる前に、やってやる!」

名「ああーっ! またこういうオチね!」

(めでたしめでたし)

 

 

かよチュー

名「お待たせー! ってどうしたの?」

ノ「おっ名作。いやーさっきまで中学生の集団がいたんだけどさ」

む「ずーっと漫才みたいに面白おかしくしゃべってたんです」

ノ「学ランってなんかいいよなー」

ス「中学生とか高校生ってなんか大人だよねー」

ボ「恋に部活に勉強に……ザ青春まんねん!」

名「あー中高生が主人公の名作って多いよね。わちゃわちゃしてるだけで面白い名作も多いし」

ノ「俺たちも早く中学生になりたいなー」

ボ/ス/む「「「なー」」」

名「いや、年齢的には実質中3なんだわ!」

(バシ)

あの子がこわい(狂聡)

(まだポチポチ文章は書いてますが、書き切ることができなくなったので、書き切る練習です)

『カラオケいこ!』の狂児×聡実くん

– – – – – – – – – – – – – – – 

「狂児」

「はい」

組長が咥えた煙草の端に、間髪入れず火をつける。

灰が浮かび、葉っぱが赤く燃える。肺の底にまで届くくらい深い呼吸音の後、細く白い煙がゆっくりと吐き出された。

俺は次に来る言葉を待つ。何を言われるかは分かっていた。

「あの子のこと、どないするん?」

聡実くん。俺のカラオケの先生。

こんなヤクザ者にも懐いてしまうような中学生。俺が死んだと思ってヤクザの組総出の宴会に飛び込んできてしまうような子。俺のために大事な合唱祭もすっぽかしてしまうような子。

聡実くんの意思以前に、そんな怖い危うい子を俺がこれからどう扱うかっちゅう選択を組長は投げかけてくる。

イロにするのか、舎弟にするのか。

カタギのままずるずると付き合うなんて甘い選択肢はない。

「もう会いません」

「さよか」

組長は抑揚なく返事をした。これでこの話は終い。俺の答えはもう分かっていたのだろう。

聡実くんは15歳。歯車が狂うんにしては、早すぎる。俺のようにイカつい名前じゃなく、運命が引っ張られるタイミングを心配する必要のない『聡実』なんちゅう名前の子の歯車は、こんなところで掛け違ってはいけない。

長細い手足に生っ白い顔。真面目そうに結ばれた口に眼鏡の下の子供らしい大きな瞳。合唱部の部長なんてやるような子。世の中の汚いことなんてまだなんも知らない。立ち振る舞いから大事に愛されて育ってきたのが分かる。性病なんかはいざ知らず、今まで抱いたり抱かれたりした相手やその行為や交わした体液を考えなくていい綺麗な子供。

そんな聡実くんが俺に懐いて俺のために泣いたのは嬉しかった。

が、切り落とした指に怯え、シャブ漬けキメセクの危機も分からない綺麗な子は、俺のようなのと居れば、もう元には戻れない。選択肢がなくなってしまう。

組長は短くなった煙草を吸いきり、灰皿に押し付けた。

「で、何を彫るんか腹決めたか?」

「えっ何で俺が……」

「アホ。お前だけ歌っとらんかったやんけ」

そういえばそうだった。

彼のあのすり潰すような渾身の歌の後に、俺はどうしても同じ曲なんか歌えなかった。歌ったとしても、綺麗な彼のようには響かなかっただろう。それだけ、聡実くんがあの時歌った『紅』は美しかった。

俺との練習では一度も歌ってくれずにいつもチャーハンなんか食べてた癖に、聡実くんはやっぱりめちゃくちゃ上手かったなあ。こんな俺のために大事な声枯らしてアホやなあとは思ったけど。俺のこと好きなんやな、と。嬉しかった。

「なんぞ怖いもんでもええ」

あんたの彫りの腕が怖いっつーの。

しかし、いつか会った時、何て墨入れてたら聡実くんなら笑ってくれるんやろか。

――狂児さんが好きなやつを嫌いやと言ってみたらどうですか?

「組長、字はいけますか?」

「うん?」

「聡実、でお願いします。願掛けですわ」

俺がにこにこというと、組長は顔をちょっと顰めた後、にやっと笑った。

「ああ、あの子はこわいな。この女殺しがコロッと落ちよったわ」

恋の毒薬・10

吾輩を含めて、ラチェット君と副官が驚きの目でグラップル君の方を向いた。
「どういうことかね?」
「いや、もちろん悪い意味じゃないよ!」
原因が吾輩にあるという言葉の真意を探ると、グラップルは慌てて言い直す。みんなの視線が集まったということにややシャイなところのある彼は恥ずかしそうに少し下を向いた。
「ホイルジャックが惚れ薬を作るって聞いて、今までアプローチを試みなかったような機体も思いびとにアタックし始めたんだよ」
グラップル君の短い説明でもすぐにマイスター副官にはピンときたらしく、その本質を拾い上げる。
「なるほど。みんな自分の好きなひとが万が一にでも他の機体に取られては敵わないって思ったってことだな。関係をオープンにするのも、ある意味では他に牽制をしてるのか」
そういう意味で、吾輩が原因ということになっているのか。
……これでは、惚れ薬は集団の中の既存の関係性や体制を壊しかねない。結果として好転して晴れて成就する場合もあったらしいが、開発を取りやめて正解だった。司令官がすぐにやって来た理由はこういうことも感知していたからかもしれない。
納得しかけたところで、先ほどから黙って話を聞いていたラチェット君がゆっくりと口を開いた。
「いや、それだけじゃないだろう。私にはあのテレトラン1でみんなが観ているメロドラマの影響がかなりあると思えてならないね。あれが流行ってから、ことに恋愛に関するゴシップがよく流れるようになったからな」
その言葉にあのドラマのファンらしいマイスターとグラップルが痛いところを突かれたとでも言うように、お互いの顔を見合わせてばつが悪そうに笑った。
この意見にもなるほど確かにと思う。惚れ薬の話はあっという間に広まったっけ。それに、誰と誰がいい感じだなんて話もどこかで聞いたと思い出す。
「些細なことがきっかけで他の機体を意識し始めるってことは分かるよ。噂だってきっかけにはなりうる。誰かが自分のことを好きらしいって噂を聞いたら、確かに相手のことを気になり出すってのはよくあることだし」
グラップル君がやけにはっきりとそう言う。
彼にもひとには言わないだけで、そんなことを経験したことがあるのかもしれない。誰だろう、とふと頭をもたげた好奇心を押さえつける。
ゴシップの影響を話していたそばからすぐこれだ。
「……ゴシップも使いようではすごい効き目があるんやなあ」
少しだけグラップルの過去か現在の思いびとに思いを馳せながらぼやくと、マイスターがこちらを見てさらりと金言を放つ。
「恋も噂も伝染病みたいなものだからね。しかも自覚症状が出るまで、なかなか気づけない」
気の利いた言葉に感心すると、ドラマの受け売りだよとバイザーの下の口元が微笑んだ。
恋が伝染病だとしたら、さっきのふたりがお互いの感情を恋慕としてを『診断』するに至った要素はなんなのだろう。
先ほどの『愛が芽生えるのに、理由なんていらないんじゃないか?』という言葉だって、慣用表現としてはよく聞くフレーズではあるが、それでも吾輩は友情も愛情もどちらも愛の形だとは思う。この数ソーラーサイクルをかけて脳波の測定をしていてわかったことだが、やはり機体ごとに出る脳波は異なってくる。どこからが友情で愛情なのかなどはやはり曖昧だった。
「症状ねえ……」
恋の症状。恋愛感情との違い。何をしていても相手が気になること。触れたいと思うこと。独占欲や性欲。自分の欲を追うこと。相手の幸せを願うこと。挙げ始めると、切りがない。最近ずっと打ち込んでいる研究でだって、平均はあるものの、やはり個人差が強くバラついている。
我々は知的生命体だ。アンビバレンスな感情だって持ち得るし、その機体以外には理解できな複雑な思考だって持ち得る。
吾輩においては友達への親しみとしての好きと、恋愛感情としての好きの区別がこと分からない。
「恋に落ちたかどうかの検査薬があれば便利なのに」
ほうっと排気音を漏らすと、何を言っているんだとグラップル君とマイスターは笑った。
ふと、手をじっと見る。数日前にラチェット君に直してもらった手。掴まれ、じっと覗き込まれた。いつもの診断はあんなに近かっただろうか。今までなんとも思わなかったのが不思議でしかたない。
早く、このモヤモヤから解放されたい。
「検査薬。検査薬ね……」
ブレインに浮かび上がってきた『良い考え』を吟味する。
――失敗したら身体に毒なっちゃうんじゃないの?
――飲む?
――『毒にもなるが薬にもなる』なら、毒も試さずにはいられない性分なんだけどね。
猛毒の試験薬になるかもしれないけれど、試してみるしかないようだ。
君は、きっと怒るだろうなあ。
.

恋の毒薬・9

この間の戦いからデストロンの連中はなりを潜めたままで、アーク内ではみんな何となく好きなことをしていることが増えた。しかし、あのデストロンの新兵器が暴発した日には頭が吹っ飛びかけたサウンドウェーブがサイバトロン基地の周辺に居たようだとハウンドが報告したと聞く。あちらさんが征服を諦めた訳ではなさそうだ。
ホイルジャックといえば、コンボイ司令官に許可をもらったという名分で脳波実験漬けの日々を送っている。特に『好意』と『嫌悪』について熱心に取り組んでいる。今まで恋愛ごとなどから程遠かったからこそ、知らないことが多くて知的好奇心が満たされるのかもしれない。
サイバトロンの皆にしても、皆の間で流行っている人間のメロドラマの影響でそういったものに興味を持っている機体が多い。だからボランティアをしてくれる機体が多いのも一因だろう。リペア台の横でホイルジャックが展開している臨時の実験スペースには近頃は常に誰かがいる。
ちらりとそちらを伺うと、ホイルジャックがふたりのサイバトロン戦士に熱心に質問をしているのが見えた。
「ラチェット、後どれくらいかかりそうかい?」
「もう少しですよ」
リペア台の上のマイスター副官も気もそぞろの様子で、ホイルジャックの実験する方を見ていた。気づけば、修理を手伝ってくれているグラップルも時たま様子を見ている。
副官もグラップルも確かあのメロドラマにご執心だった。なら、さぞ興味深いだろう。
「スピーカーの修理が終わりましたよ」
「どうもありがとう」
こっそりと排気を漏らす。
修理はきちんとするが、やはりなんだかこの頃私は変だ。
自分の手に視線が留まり、ホイルジャックの手を修理した時の感覚を追う。空を握り、また開く。
――あれの何が私にとって問題だったのか。
この間は、ひどく踏み込んで何かに気がつきかけた気がしていたが、それでもまだ説明がつかない。なんであんなことを思ったんだろうか。しかも、握ったホイルジャックの手をひねり上げてしまった。そのせいか、あれからあまりホイルジャックとは話せていない。
他の機体は私がホイルジャックと話していないのを不思議に思わないのかとぼんやり考える。しかし、同じスペースにはいつだって一緒にいるのだから彼らからしたら変でもないのかもしれない。
話せない私とは対照的にリペア台から飛び降りた副官は、伸びをしてからホイルジャックの方へまっすぐと向かう。先ほど実験を受けていたふたり組はもう居なくなっていた。
「ホイルジャック、あんなに質問しちゃあ可哀想だろ」
「なんの話だね?」
ホイルジャックがコードをまとめながら振り向く。
副官がわざわざ口を出す、というところでピンと来た。それはグラップルも同じだったようで、こっそりとこちらに話しかけて来た。
「じゃあ、あの噂は本当なんです?」
「そのようだね」
私も偶然聞いただけだから確信はなかったが。先ほどのふたりの雰囲気にはいつもと違うものがあった。
ホイルジャックがこそこそと話しているこちらをちらりと見てくる。この空間で、マイスターがこんなことをいう理由が分からないのはホイルジャックだけらしい。不思議そうにフェイスマスクの端を撫でている。
「あのふたりがどうしたって?」
「ふたりで来ている時点で気づかなかったのか?」
副官が呆れたような声をあげる。
気持ちは分からなくもない。この『ホイルジャック』が惚れ薬を作ろうとしたし、好悪について心理実験を行なっているのだから。しかも、もうほとんどのサイバトロン戦士の脳波を調べたはずなのに、肝心のところにはにぶい。専門外とは言えど、あんなに発明の方では冴えてるのに。医者の不養生、坊主の不信心……上手くは言えないが、全くもってあべこべなのは分かる。
「あのふたりは最近、デートをする仲になったらしいんだよ」
ホイルジャックのにぶさに焦れたのか、横のグラップルが答えを与える。すると、まさか、とホイルジャックが声を上げた。やはり分かってなかったのか。
「もっと正確には恋人の仲まで言ってるがね」
マイスターが補足をする。
「本当かね?」
「プライマスに誓って本当さ。なんせ本人から直接聞いたんでね」
副官が、本当に知らなかったのかと改めて驚く。
私としては、マイスターが親しいとは言え直接あのふたりに聞いたという事実と、ふたりのうちのどちらかは知らないがそれにイエスと答えたという事実に驚くがね。若い戦士たちのことだから、もしかしたら今までもずっとデートをしていたのを親しいものたちは知っていて、この度正式にオープンな関係になっただけかもしれないが。
誰かを思いやるということはいいことだ。もちろん、本人同士のバランスも周りとのバランスの取り方も考えなくならなくはなるが、それを差し引いても強みがある。誰かを好きだと思うことは時に活力や原動力になるものだ。重篤な怪我をしたある機体の片割れが献身的な介護をして、モチベーション高く保てた故に後遺症無く全回復することだってあるのだ。そんな素晴らしい光景をデストロンとの長い戦いの中で何度も見たことがある。だから、面白がっている以上に、純粋にみんなが祝福したいがために首を突っ込むのも分かる話ではあるけれど。
以前はそういう関係を隠すのが常だったが、コンボイ司令官の下、そういったものの自由も私たちには与えられるようになった。口に出さないのも、尋ねないのもマナー。昔はそういった空気があったように思う。しかし、元々は自由恋愛のあった市民階級出身だった機体も多いし、自由を掲げているサイバトロンにおいて不自由があってはならない。
進歩といういう点で、私はしみじみと感慨深いものがあった。しかし、ホイルジャックの関心はそこでは無かったらしい。
「あのふたりはよくふたりで行動してるし、趣味も似てるし、いつも移動の時は彼を選ぶから……親友同士なんだとばかり思ってたんだけど」
「最近まではね。前から薄々親友以上っぽいなって感じはあったんだけど、結局『大事な人』ってことになったらしい。別に隠しているわけじゃないけど、付き合いたてだからまだセンシティブなんだろうさ」
最近は他にもカップルが出来ているらしいよ、とマイスターは情報を補足する。
「それにしても意外すぎて吃驚だよ。親しい間柄とばかり思っていたからね。吾輩の予想がはるかに超えられてるね」
「愛が芽生えるのに、理由なんていらないんじゃないか?」
マイスターの言葉にうーむとホイルジャックが唸り声を上げる。先ほどから、友情と愛情について特に引っ掛かりを感じているらしい。
そんなホイルジャックを見て、グラップルは無邪気に笑った。
「ホイルジャック、君は不思議そうにしているが。私が思うに、こういうことをオープンにするのが増えてきた一因は君にあると思うけれどねえ」
.

恋の毒薬・8

「ラチェット君も、すまんね」
リペア台へ向かいながら、横の機体におずおずと話しかけると、呆れを含んだような声で答えが返ってきた。
「流石に慣れたよ……」
怪我をした時の有無を言わせないところと、結局は吾輩にこう言ってくれる彼の優しさにホッとする。
そうして、ラチェット君はいつもの言葉をつないだ。
「君が壊しても、私が治せばいい」
彼自身は気づいていないのかもしれないが、むすっとはしながらもこういう時に少しだけ照れ臭そうにする。それにいつもつられて吾輩までもが照れくさくなる。
こういう信頼がひどく嬉しく、ラチェット君を好ましく思う。
……やはり、この間の最近吾輩のブレインを占拠しているあの測定結果は友情という意味でしかなかったんじゃないか?
ラチェット君がわずかに笑ったような気がして、そう思い直した。
確かに数値は特別な『好き』、恋愛感情という結果を叩き出していたが、友情だって『好き』には違いない。この穏やかな関係性は恋愛には程遠いのではないだろうか。
そういえば、自分のことで頭がいっぱいになっていたが、ラチェット君もわずかではあるが吾輩のものに似た数値が出ていた。トランスフォーマーにおける機体差というものは十人十色で千差万別だ。たまたま、友情と愛情の結果に近似した結果が出る機体が吾輩だったというだけだったのだろう。納得のいかない結果を出したらしいラチェット君という身近な臨床例がいるせいで、この仮説はかなり信憑性があるような気がする。
ふむ、他の機体にも差が出るか調べてみるも面白いかもしれない。さすれば、全ての機体に効果があるような『ナニカ』が作れるかも。
そんなことを短い時間の中で考えていると、ラチェット君はそこで急に難しい顔になった。その表情を見て、見抜かれたのかとギクリとする。
だが、身構えた吾輩とは違い、続いたのはとても思慮深い言葉だった。
「ただ、頼むから私が治せないような怪我はしてくれるなよ?」
ポツリ、とこぼすように吾輩に念を押してくる。
こんな言葉をかけられるのは初めてだった。
「君ほどの医者がどうしたんだね」
突然の言葉に思わず驚きを隠せずにそう言った後、しまったとブレインが急停止する。
これは、この言葉は、この間のやりとりの続きなんじゃないか?
怪我をするな、危ないことをするなと釘を刺されたというのに、すぐにこの失態だ。今まで許されていたことだけれど、今までの積み重ねがあるからこそこんな言葉を言わせているのではないだろうか。
取り繕うようにおちゃらけた言い訳を追加する。
「しかし、吾輩としては『毒にもなるが薬にもなる』なら、毒も試さずにはいられない性分なんだけどね」
もう一声何か言おうとするが、その前にリペア台に辿り着いてしまう。
促された台の上から見るラチェット君はいつもの様子に戻っていた。
「毒の飲み方を知らないと、いつか身を滅ぼすぞ」
厳しい声音で鋭い言葉を投げられる。
やっといつもの調子だ。今日はいつもと同じなのに、何かが違うようで、普段のようなやりとりがこんなに安心するのかと驚く。
「へへ、相変わらずきっついなあしかし。でも、流石に医者が言うと重みがちがうねえ」
冗談っぽく返すと、ラチェット君は小さく笑った。
「よく言うよ」
落ち着いたところで、吾輩の手を検査するラチェット君を盗み見るように観察する。そして、
――本当に、いい医者やな
と、しみじみ思う。彼は言葉や態度ではきついけれど、行動はやはり患者のことを思ってなされている。吾輩が腕や腕に関わるパーツを怪我した時の彼の治療や検査の熱心さは繊細な作業も必要とする科学者としてはありがたい限りだ。
『頼むから私が治せないような怪我はしてくれるなよ?』
と、彼は先ほどこぼしたが、ラチェット君ほど医者としての技量と心持ちを持つものはセイバートロンにもひとりとしていない。吾輩はもちろん、あの司令官にも、他の機体にも信頼されているのだから、もっと自信を持ってもいいのにとも思う。
ラチェット君がどう思うかは別として、簡単に代替や取り換えが出来るモノは意外と少ないのだ。ましてラチェット君くらい優秀ならオンリーワンを名乗ってもいい。いや、でもそんなことを吾輩が言うのはお節介だろうけどねえ。
そこで思考が終わる。じっと手元で繰り返されている作業を見ていると、どうにも落ち着きすぎてしまう。ラチェット君に握られている手の機熱が安心感につながるからか、作業者が自分じゃないからか。
ブレインがぼんやりしてきたのを紛らわすように今抱えている試作品やら設計図を頭に巡らす。
ただいまのマイブームになりつつあるトランスフォーマーの心理や思考やらを生物学的な観点で科学の方に近寄らせたら面白いとは思う。例えば、三大欲求やら本能やらのブレインのプログラミングが機体の反応や特性、ブレインの感情などに強く影響されているのは先人たちの研究通りではあるが――
不意にその手がぎゅっと力強く握られた。
気づけば、ラチェット君に覗き込まれている。
先程までは怪我をした手の機能を入念にチェックしていた視線は、今は吾輩のオプティックを覗き込んでいる。何か悪い所見がないかの診察のような真面目さでじっと見つめられていると、なんだか責められているような気分になる。
まさか、吾輩の最近の『微妙』な感情がラチェット君にバレたのだろうか。ならば、早急に誤解は解かなければならない。
良い医師の条件は観察眼が鋭いこと。特にサイバトロンには怪我を隠したり無理をする機体もいる。それでもラチェット君から逃げるのは至難の技だ。
いや、とそこまで考えて否定する。もしそれに気づいていたとしたら、彼はもっとうまく『処置』するだろう。ということは――?
「……ラチェット君?」
恐る恐るその青い目を覗き返すと、ラチェット君は吾輩の手を握ったまま弾けるように身を反らした。
「あいててててて!」
捻り上げられて大声を上げると、ラチェット君が慌てて手を離す。
「すまない、ホイルジャック。考え事をしてたんでね」
「そうかね?てっきり難病の兆候でもあったのかとドキドキしちゃったよ」
「まさか」
否定の反応は速いが、ラチェット君にしてはやや心あらずといった調子の返答だ。てっきり手厳しい皮肉でも飛んでくると思ったが。
終わったよ、とだけ言ってリペアキットをしまい始めた彼の表情はリペア台の上からは伺えなかった。
.

青を捉える・2(サン音)

水色の羽にブラスターガンを当てながら、この機体が俺の元に来た理由を思案する。恐らくは――
「いや、俺はメガトロン様に」
「護衛につけられたのか」
一番妥当な回答だ。
俺の『尻拭い』を秘密裏に成すのならばそれなりのレベルでの人員配置になる。スタースクリームが俺を保護する命令など受ける筈がない。比較的忠誠度の高いビルドロンやスタントロンでは数が多すぎる。だから万が一にそのような命令が下るとしたら、スカイワープかこいつ――サンダークラッカーが割り当てられるとは思っていた。
俺は念のためブラスターガンに充填していたエネルギーを消費するため、その経口の先を水色の羽から壁際で伸びている襲撃者へと滑らした。
目標がステイシスモードに入る音を確認しながら、襲われた弾みで周囲に散らされたリペアキットを回収し始める。
別にこの機体が来なくとも、同じ結果にはなっただろう。とは言え、あのお方が内憂するほどには俺の失態にひどく関心が集まっているらしい。
「なんですぐにリペアしなかったんです?」
水色の機体がおずおずと尋ねてくる。その足りない頭の中では
――あの逃亡から既に4メガサイクルは経っている。今まで何をしていたのか――
と疑問を抱いているようだった。
3.5メガサイクル前、デストロン臨時基地は新兵器の開発を察知したサイバトロンの襲撃にあい、激しい戦場と化した。原因は恐らくは兵器が発射時に発する高エネルギー波をテレトラン1に察知されたことであり、元を辿れば約2.75メガサイクル前の『不必要な使用』こそが引き金となっている。
とにかく、敵の猛攻によりデストロンの形勢は崩れ、俺はサイバトロンの通信員相手に撃ち合ううちに持ち場から引き剥がされた。その間に兵器はサイバトロンによって無理矢理にコアが解除されて暴走。壊れる直前に発射されたビームはその音に振り向きかけた俺の頭部に直撃した。コア解除後の威力であったため、損害状況はいくつかの回路とバイザーとマスク、胸部装甲のみに押しとどまった。しかし、その異常を来たしたいくつかの回路が問題ではあった。結果として、俺は退避行動を取らざるを得なかったのだが……
この機体のさきほどの問いに俺は答える義務はない。
しかし、答えないということは階級が自分より低い一兵士に冷静さを欠いているという事実を突きつけられているようで。しかたなく、俺はなんてことないふりをしてそれらしい返事をする。
「諜報データのバックアップと、基地内データの確認だ」
聞いておきながら、後ろでそいつが面食らったのが分かった。俺が答えないと思っているなら何故口に出すのか。
しかも、余計なお世話もいいところに、俺の心配をし始める。その情報を悪用するかもしれない相手に、そんなに簡単に言ってもいいのかと悶々とブレインの中でくだらないことを考えているのが、頭の中に流れ込んでくる。
いつもだったらさっさと締め出してブレインのデータからデリートするようなくだらない思考だ。
しかし外界とのフィルターであるマスクとバイザーが吹っ飛び、回路が焼けたことで少なくとも動揺している俺は、うまく自分自身にだけ集中することが出来ずに相手のブレインの電磁波を勝手に受け取ってしまう。
――頭のいいやつの考えることは分からねえ。護衛の任務とやらに守秘義務が無いとは限らないんだぜ?俺がそんなことをする度胸が皆無だとでも思われてんのか。それとも、嘘か。その両方か――
なんとも勝手なことを考えているのだろう。
そいつは黙っていることが出来なくなったのか、また確認を求めて話しかけてくる。
「……確認してたデータって、あんたの情報のことだろ?あんたがいつもやってることを逆にやられないようにすんのか。正しいとは思うぜ。最凶の武器は恐怖だからな。脅迫の怖さで他人を動かすのは利口だ」
思いがけない肯定に舌を巻く。その脳内の理論は整然としている。サンダークラッカーは低脳ではあるが、なかなかバカでもないらしい。
ただ、与えられた情報が合っているとするならば、ならだが。
苦手に思われることの多かった俺だが、他の機体を苦手に思う感覚というものは、こういうものだったのかと思い出す。
俺の苛立ちを感じ取っているのなら、なぜ話しかけてくるのか。その姿勢は俺にはまったくもって理解不能だった。
「ただ、今回からはあんたに対する報復方法が足されたわけなんだがよ」
そんなことはお前なんぞに言われなくとも分かっている。
その言葉に思わず振り返ると、水色の機体は非常に驚き、それから自信のなさそうな表情になった。サンダークラッカーは何か俺の地雷を踏み抜いたと感じているようで、その焦りの脳波が俺のブレインを埋め尽くす。
そういえば、こいつがここに来てから、こいつの顔をまじまじと見たことがなかった。
じっと見つめていると、サンダークラッカーの落ち着きがなくなっていく。先ほどから俺の顔についてなんだかんだとぐちゃぐちゃと考えていたが、実際に面と向かえば思考を散らしている。
こんな奴に俺は思考を乱されていたのか。
相手も落ち着かない様子だと分かり、少しだけ冷静さが戻って来た。
「…………」
俺が手元のリペア中のパーツにセンサーの焦点を戻すと、サンダークラッカーが小さく排気音を漏らしたのが聞こえた。
もうこちらに話しかけるつもりはなくなったらしい。しかし、その脳内は相変わら様々な感情や思考を撒き散らしている。
――何でこっち向いてリペアするんだ。もしかして、恐怖、って言葉に対しての抵抗なのか?というか今ので一瞬忘れていたが、こいつは俺にこんなにまじまじと素顔を晒していいのか?あの逃亡の時に慌てふためいた姿を晒したのは何だったんだ――
――サウンドウェーブはマスクやバイザーの下ではどんな表情してるのかと以前仲間内で話題になったことがあったが、襲われてもこんなふうに無表情じゃ勃つモノも勃たねえ。さっきの戦いではあんなに動揺した様子だったのに、犯されそうになった時は落ち着いているってどんな精神構造してやがるんだ?――
――過去だなんだとかが大事だとかは分かるけどよ。手前の機体をどうのこうのされかけた直後でもすぐいつも通り?俺が居るからか?しかし、もしひとりになりたかったらそう命令すればいいだけだろ?――
……ええい、うるさい。全くリペアに集中できない。普段は飛ぶこと以外は何も考えていないような顔をしている癖に。
サンダークラッカーは俺がよく分からないとごちゃごちゃと考えているようだが、俺もこの水色の機体について何も理解できそうになかった。
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青を捉える・1(サン音)

――サウンドウェーブってさ。
角を曲がる時、ふと聴覚センサーが自分の名前を拾い上げた。今からその通路に足を踏み入れようとしていたのに、なんと間の悪いことか。それとも俺の聴覚センサーの出力範囲が大きすぎるせいなのか。
その声を分析するに、最近デストロンに加わった者が話しているらしかった。
悪口にしろ、なんにしろ。上に立つ参謀としてはどの程度まで組織に影響があるのか興味が無いわけではない。会話というものは大事なデータだ。音声ログと違い、データとしては揺らぎがあるが。元の思想はどうであれ、他者との会話の中である一定の方向へ変質することは多い。話し相手からフィルターがかけられれば、単純な者たちの意見などはころりと転がる。
それに、『自分たちしか聞いていない』と思い誤まって重大な情報をつい話してしまうもののなんと多いことか。
分析対象としても実利としても収集は悪くない。
思わず立ち止まって会話を探る。
「あいつって、どういう奴なんだ?子飼いのチビどもがお前に喧嘩ふっかけられても、黙ってじっと見てるだろ?不気味でしかないんだがよ」
「知らねえよ、陰険参謀のことなんか」
新入りの疑問に答えた声は、スカイワープのものだった。
俺の調べでは、こいつが俺に変なあだ名をつけることが、入ったばかりの新入りどもの俺への軽視の速度が速まる原因になっている。いつかは何かの形で締め上げる必要があるのかもしれない。が、今は別にそこまで大きな問題ではない。
「まあ、お前は新参だから知らねえとは思うけど、カセットの連中は小せえがあの見てくれで力は強いからな。俺が一方的に破壊することはねえって思って放置してんだろ」
とはいえ、このスカイワープという機体はチビだなんだと小さな機体をいじめるのが好きなようだが、そのくせフレンジーたちの実力を認めているところがある。
それもお前を見逃しているひとつの理由だ。
声にこそ出さないが、こういった認識ではいる。それはお互い様、というやつだ。こいつも、死んでも認めているなどとはフレンジーたちには言わないだろう。
「へえ、そんなもんなのか?サウンドウェーブって何考えているかイマイチわかんねえからさ。おたくら付き合い古いんだろ?何か知ってるか、とか、どんなもんかと思ったんだけどな」
「俺らとあいつをいっしょにするんじゃねえよ。あの野郎が何考えてるなんて、誰もわかんねえんじゃねえか?」
畳み掛けるようにスカイワープが言い切り、新入りが納得したように排気音を漏らす。そこで会話が途切れた。
終わったか。忙しい中立ち止まった割に、有益な情報は何一つ得られなかった。……『何考えているかイマイチわかんねえ』これは大多数の機体が俺に対して思っているらしいことだ。その程度の情報はもう既に大体押さえている事実で、俺がわざわざ立ち聞きしたり、ブレインスキャンしたりする必要もない。
新入りのような新しい因子は、デストロンという環境や他の機体に対して『馴れ』がない。だからこそ、俺という異質な機体に対して不気味さを抱いているのだろう。
相手を知らない、というのはひとつの恐怖のかたちだ。相手の強さを知らずに喧嘩を吹っ掛ければ痛い目にあうのは喧嘩の初歩であり、どんな低能でも分かるまでその身に叩き込まれるルールだ。目の前の相手がぶちのめせるか、ぶちのめせないか。中にはいつまで経っても理解しない愚か者もいるが、粗野で喧嘩早く暴力でのコミュニケーションを図りがちなデストロンでは第一印象や初段階で顕著に探りが入る。機体、武器といった外見に加えて、性格や思想、思考などの中身。
俺は他の機体の中身をブレインスキャンで簡単に知れるが、奴らは俺を理解することは出来ない。そのうえ、俺は相手の弱みを簡単に握ることが出来る。それがまた恐怖心と嫌悪感を他機に植え付ける。マッチポンプ的に恐怖が倍増する。
どうせ、俺の考えていることを分かるものなどジャガーたち以外に居ないのだ。同じデストロンであっても自分以外の頭の中など分からない。連携の多いジェットロンたちも、合体などをするビルドロンやスタントロンでさえも、『完全に』理解しあっている者達など少数でしかない。
もともと、ある意味で自分又は自分たちのこと以外など興味がないのがデストロンというものかもしれないが。
俺とてブレインスキャンがなかったら、他の機体の考えていることなど決して汲み取れないだろう。
既得情報しかない無価値な会話だと分かり、早くスカイワープたちが立ち去らないものかと俺はまた少し間の悪さを感じる。
こちらとて暇ではないのだ。
「でもよ」
こっそりと行く手に居るであろうスカイワープたちの様子をうかがおうと顔を出したのと、第三の声が聞こえたのは同時だった。
慌てて、元の位置に戻る。
「あいつのやり方って効率いいよな」
誰だ、と一瞬考え込むが、ブレインの演算がジェットロンの水色の機体をはじき出した。
「そりゃあサンダークラッカー、そんな風に思えるのはおめえが利用されたことねえからだよ」
「そうかよ。で、何やってとっちめられたんだ?」
「うるせえ!」
特に深い理由は無かったのか、それとも話すつもりは無いのか、サンダークラッカーはそこで効率とやらの話は切り上げてしまう。脳波を見てやろうにもちょうど範囲外に立っているらしい。
俺のもやもやとしたものを置き去りに、
「俺としちゃあ、あいつが何考えてるかってものも気になるけどよ。マスクの下でいつもどんな顔してるのかは気になるぜ。笑ってんのか怒ってんのか、抑揚がねえからな」
とサンダークラッカーはぼやくように言った。他の二機も、うめくような声で同意する。
――俺の、表情。
ふいに自分がいつも話している時にどのような顔をしているか想像するが、具体的には思いつかない。
そんな考えを巡らせているうちに、会話はどんどん先に進んでいく。
「表情ね。サウンドウェーブの感情の集積回路は半分くらい壊れてるって噂じゃねえか。きっと能面さ」
「そんな噂もあんのか」
「面って言えば、あいつっていつもマスクとバイザーつけっぱなしだけどよ。どんな顔してるんだ?不細工なのか?」
新入りがスカイワープとサンダークラッカーに尋ねる。スカイワープはそれに鼻を鳴らし、サンダークラッカーは何も言わなかった。
「知るかよ、あいつの顔になんてナノミリほどの興味もないぜ」
「古参の連中はつめてーなあ」
吐き捨てるように言うスカイワープに対して、ふざけた調子で新人はぼやく。
三機はやっと動き出したようで、その声はだんだんと遠のいていった。
――何故、このタイミングで、こんなことを思い出したのだろう?
「何故ここに来た」
ごりごりとその背に銃を押し付けながら、尋問するように問いかける。
「サウンドウェーブか?」
硝煙がなおくすぶる中、任務以外で話したことのなかったその機体は、いとも簡単にエフェクトの無い今の俺を聞き分けた。
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French Toast

お弁当サン音に『French Toast』を投下しました。話を進める閑話なので、さらっと読んでやってください。あんま話が進まなかったので、次の「肉じゃが」より前に1話挿入するかもです。こういう構想もとい構成力の低さが、話数を無駄に増やしてしまうのです。
連載始めた時点での構想では朝ごはんとしか思ってなかったのですが、自慢ですが前回更新の時にくろみさんにこっそりと真夜中コーヒーの翌日の漫画を頂いたので。まあ疲れてるだろうなあと、ダラダラした雰囲気になりました。
もう自分がTwitter消しちゃったしこのブログは閲覧者少ないので完全に壁打ちですが、「マジでくろみさんはちょこちょこ送って頂けてるお弁当サン音の漫画群を公開してくれ。」です。
それか、2015/6/28のTFKで初版で販売してたこの三次創作シリーズの元になる『サンダークラッカーがサウンドウェーブの手作り弁当を食べている小話。』の続編として売るか何かして欲しい。むしろ、前作と纏められてオフセットになったら1万円くらいなら買う。1部から印刷するのってそれくらいの値段からですっけ。
ちなみに、再録がPictBLandにあるので、是非拝見しに行ってらっしゃいませー。
原作はいいぞ。
て、もう2時ですね。今日はジム行って疲れたので寝ます。
明日は『怪談レストラン』シリーズの1−30巻セットが届くので楽しみで仕方がないです。ebookjapanにないので、ハードで買いました。ちなみに、最近、中野で展覧会やってた関係で『マカロニほうれん荘』をeBookで買ったので、電子本棚の冊数が950冊を超えました。あとちょっとで1,000冊かー。金はある!!!児童書もバンバン電子書籍で売ってくれ!!!!

決定打(クリジェ)

会議が行われているメインルームの端の壁からクリフを探すと、ミニボットたちの間で何か今日の議題について話し合っている姿が見つかった。ボディが赤い機体は多いし、誰かと一緒にいることが多いから、いつも探すのが一苦労だ。
今日の議題は作戦会議ではなく見回りの当番決めなどなのだから、そんなに誰かとくっついて熱心に話すことではないだろうとかぼんやり思う。
まったく、いつも俺のことが分からないなんて言うくせに、そっちの考えの方が分からないよ。
クリフはよく俺のことを見ているし分かってる。だから、たまに自分でも気づかない自分に気づかされて驚くよ。でも、俺にはクリフのことがあまり分からない。多分、クリフは俺のことは悪く思っていない、むしろ好きだとは思うのだけれど、確信はない。
クリフは見ていたつもりでもすぐにどこかに行って見失ってしまうし、話していてもすぐに他の誰かと話し始めてしまう。こんな会議のような一箇所にとどまるようなときでないと、ゆっくりも観察できないのだ。
「クリフをあまり振り回してやるなよ」なんてラチェットには言われるけれど、被害者はこっちだ。
元々、馬が合うタイプにも思えなかったし、野蛮なやつだって思っていたから、興味だってなかったんだ。眼中にも入らなかったのに、戦いとなればスコープの向こうの前線で赤い機体が暴れまわる。見るなと言うのが無理だったんだ。
だからか、俺を特別視しない彼の気を引きたくて。そして、この俺があまりに振り回されすぎているような気がするのが癪で。クリフについ、ちょっかいを出してしまう。
エレクトロセルの一件から、クリフとはお互いにからかうことが出来るようになった。ちょっと無視してみたり、意地悪なことを言ってみたり、くっついてみたり。俺がそんなことをするのを、サイバトロンの他の機体は初めは珍しそうに見ていたが、クリフが俺に躊躇いなくわざとぶつかったり、くすぐってったりするのを見るとすぐに慣れてしまった。だから、俺が何をしても変な目で見られることはない。
みんなの目には俺たちがふざけ合っているふたりでしかなく、むしろエレクトロセルの一件を知っているからこそ、俺がクリフを許すかのように積極的にからかっているとさえ見ているようだ。ラチェットや司令官あたりは俺のこの微妙な気持ちに気がついているようだが。
クリフの反応は、面白いし可愛い。
ちょっと気のあるような態度を取ったり思わせぶりなことを言ったりすると、真っ赤になって怒る。
だから、やっぱり俺のことは好きなんじゃないかとは思う。
でもちょっとそういう雰囲気になっても、クリフはくるりと方向転換するのが早い。照れて逃げてるだけかとも思えるけれど、そうでもないかもしれない。
クリフには他に本気で好きな機体が居るのかもしれないとも思う。クリフは仲がいい機体も多いし、誰が特別なんか分からない。コンボイ司令官には敬愛、ミニボット達には仲間意識だとしたら、周りの親しい機体にはどうなのだろう。
クリフ、俺は?
もし、彼にとって俺が特別だったら。彼が俺を好きだったら。その時俺がどうするかは分からないけれど、もし好きだとするならば、踏み込むかどうか決める前に決定的な何かが欲しい。もし、自分のことを好きだと言うのなら。
もし踏み込むのだとしたら、自分からかけるべき言葉は分かっているけれど。今の関係は心地がいいし、俺から拗れたりなどしたくはない。
気を抜いていたら、少し変な顔になっていたらしい。
クリフがこちらに気づき、2本の指をセンサーに向けてからこちらを指差し、『見てるぞ』とサインを送ってきた。会議に集中していないのがわかったらしい。
クリフのことを考えていただけに決まりが悪い。
大げさに肩をすくめて見せると、クリフがにやっと笑った。
これだけ仲間がいるのにこの無言の会話は二人だけ。なんだか照れ臭くもあるが、嬉しい。お互い笑いそうになるのを我慢しているのが分かる。
それでも、口を押さえて我慢して位るうちに、いつもの馴れ合いの妙なしゃれっけが出てくる。
「あ い し て る よ」
声に出さずに口をぱくぱくと動かして、キスを投げてやる。
クリフには口パクは分からなかったようだが、流石に投げキッスは理解できたらしい。ボディの色と同じくらい真っ赤になって、怒ったのが、わかった。
「だ か ら、 そ う 言 う 事 や る な っ て !」
クリフも口パクをする。おそらく、そんな事を言っているんだろう。
ああ、ああ言う反応をするってことは、やっぱりクリフも俺が好きなんだろうな。嬉しいと感じないのは無理だ。
でも、また――
あまりに真っ赤になってあらぬ方向を向いていたせいか、他のミニボットがクリフの顔を振り向かせる。クリフの顔が今度は青くなって、その口元が遠くでなんでもねえよと動いているのが見えた。
つまらないと目を伏せる。
踏み込もうとしても、すぐに離れてしまう。
諦めて目を上げるとクリフがこちらを見ていた。
怒っていると言うのを示したいのだろう。スナイプを覗く真似をして、右手の鉄砲でこちらに向かって構える。スナイパーのように。
予想しなかったのは、込める弾丸にキスをしたところだ。さっきの意趣返しとはわかるが、ドキッとする。
そしてその鼓動に合わせるように、クリフは引き金を引いてみせた。
バ ー ン !
クリフが撃ち終えたその瞬間、副官が大きく笑う声が室内に響いた。
「いやあ、クリフ。若いっていいねえ」
司令官の横で副官がクリフを名指しで呼びかける。
まあ、あれだけ部屋の中心で動いていたら、前に立つ副官には(もしかしたら司令官にまで)よく見えていたことだろう。
咄嗟に俺は姿を消したが、クリフにはそんなことは出来ない。その顔は先ほど以上に真っ赤になっていた。何人かが噴き出すのが聞こえたからには、今の俺たちのやり取りは結構な人数に見られていたのだろう。
クリフは見えないはずのこちらに向かって、今度はかける言葉を失って口を無意味に動かしている。
「へ た く そ」
見えないとは分かっていても、俺はそうクリフに向かって唇を動かさずにはいられなかった。
でも、さっきのスナイパーの真似はすごくよかったよ。次はもっとちゃんと決定的な一撃を打ち込んでくれたらもっといいんだけど。
本物のスナイパーっていうのは臆病だ。勝機が見えるまでは動かない。相手が焦れて撃ってきたら、それを頼りに狙い撃ちにする。
もしクリフ、お前が俺を本気で撃ち落とす気なら、決定打をくれないと。
撃ってくるならば、こちらは準備が出来ている。
バグさんからのリクエスト。某曲「スナイパー」でクリジェ。
2017/11/21にTwitterで呟いてた、「貴方はクリジェで『照れ隠しの仕草』をお題にして140文字SSを書いてください。」の140字作文を使ってみました。:
「会議中、ふと目があったリジェは眠そうだった。こっそり指をセンサーに向けて『見てるぞ』とサインを送る。リジェは決まり悪そうに肩をすくめて見せた。これだけ仲間がいるのにこの無言の会話は二人だけ。なんだか照れ臭い。リジェもそう思ったらしく、お互い笑いそうなのを我慢する変な顔をしていた」

評点(大帝と音波)

「アレは……スタースクリームは、馬鹿ダ」
「また馬鹿、か。お前にかかればデストロン軍団はみな馬鹿ばかりのようだな」
ふっと笑った拍子にずれた老眼鏡を直しつつ、少し呆れたように、そして大いに面白がるようにこちらをそのレンズの奥から赤いアイセンサーが覗いてきた。
愚か者と言う割に、このお方はあいつを何故だか気に入っている。黙っていれば、しげしげオレの握るペンの先がどう動くかをじっと見守り始める。
五段階評価で4をつけてやると、ほうとメガトロン様はまた笑った。
「あやつは馬鹿だと言ったばかりではないか」
癪ではあるが、こいつが、スタースクリームが高得点になるのは否めない。
「……優秀だと認めなくてはならナイところもある。形勢が崩れてメガトロン様が攻撃を受けている時などは、退却のタイミングを逃さなナイ」
「突かれれば逃げる臆病者のスタースクリームとは言わないのだな」
ほら、結局はやはりお気に入りなのだ。
俺は手元の書類に貼り付けられた鼻持ちならないニヤリ笑い顔の写真を、バイザーの下から睨みつけた。
「――との声もアルが。あいつはメガトロン様を良く見ているカラ、引き際を知っていると評価スル」
形は何であれ、同類ども以外の、他の部隊や機体を率いることが出来るのは才能だ。
そのモチベーションが下克上精神だとしても。
天才というよりは秀才型だからこそ努力すれば結果を出せると知っている。だから諦めないし、向上心が強い。昔、科学者をしていたとは思えない気の短さをしているくせ、そういうマインドだけは申し分なく持っている。
自分より上がいるのが気にくわない、と上へ上へとどんな手を使っても達成しようとする。尽きない探究心が誤って金属の塊になったような奴だ。そして、俺は秀才は後天的なものであるから、これだけ俺は努力したのだそうやってやり遂げたのだと自分が得たもの持っているものを激しく自己主張する。しかしあの傲慢さは元々のスペックが非常に高いからこそか……と、そこまでの賛辞はこれ以上は言ってはやらない。
メガトロン様も面倒な奴に捕まったものだ。
「だが――」
「『だが、』どうした?」
天才は超えられない。
どんな努力をした秀才も、磨かれきった天才の前では道化か狂言回しだ。
「モット相手を見て挑むベキだ」
皮肉を込めて言ったつもりの言葉だったが、驚いた顔をされる。
よく考えれば、メガトロン様を絶対者としておいている。なるほどごますりめいた台詞だ。そういえば、最近は一部の者にごますり参謀などと軽口を叩かれたばかりだ。
「それは、お前の素か?サウンドウェーブ」
このお方は俺がどれだけ心酔しているか知らないはずがないのに……
事実は事実でしかないので訂正するのも、また質問を肯定するのも面倒くさい俺は、疲れたらしい目元をグリグリと押しながら笑うメガトロン様をぼうっと見る。
デストロン軍団の内部の再編成のために、適正に能力を判断しようという試みを始めてからもう何メガサイクルも経っている。
俺は冷めてしまったコーヒーを淹れ直すのに席を立った。
にしても。
やはり天才は超えられないのだ、と俺は電子ケトルの前で改めて思った。
メガトロン様こそは大帝の名にふさわしい絶対者なのだ。
その前に立つと、自分のスペックが思考が能力がいかに矮小かを気づかされる。あるものはその力ゆえに畏れ従い、あるものは嫉妬に駆られて視野を狭める。常に周りの者に勝利する。
……認めたくはないが、コンボイもその類ではあるのだろう。
サイバトロンどもはコンボイのそのあるがままに、あるものは勇気づけられ、あるものは一緒に事を成したいと熱望する。そういうコンボイであるからこそ、メガトロン様はあいつに執着し、是が非にでもいつかは叩き潰さなくてはならないと決めているのだ。
しかし、決着がついた時に万が一でもコンボイが生き残ることがあれば、あいつも独裁者になり他から畏れられ嫉妬されて弾劾される運命にある。与える物が違うとはいえ、他人に影響を嫌にでも与えてしまう存在というものはそういう理にあるのだ。
均衡を保つかのように拮抗させる宇宙の意志とやらに俺は辟易としてきた。
同じ最後ならば、俺はメガトロン様の目指す独裁の方が良い。友愛などという曖昧さを多く残す支配における利益の再分配は難しい。ならば、優秀で強大な力によって完全に管理すればいいのだ。そこまでやらねば、平等などという言葉は空気よりも軽い。だからこそ、天才が、強力な救世主のような存在が必要なのだ。
沸き立つ俺の内側に呼応するかのように、セットいていたケトルが沸騰を知らせた。
コーヒーを二つ手にメガトロン様の元へ戻ると、その手元には評価書がまとめられてあった。俺が席を外す間に、残りの調書――俺とレーザーウェーブの評価を終えてしまったらしい。
しまった、俺とあいつの分を逃したか。
「ご苦労だった、サウンドウェーブ」
口惜しく立つ俺の手からコーヒーを取ると、メガトロン様は労いながらかけていた老眼鏡をデスクの上に滑らせた。
「やっと次の作戦が決まったからな。これを飲んだら作戦開始とするぞ」
不服はあるが、抗えない。老獪に笑ってみせる大帝に、俺は従うしかない。だが、
「了解シタ、メガトロン様」
――この人の絶対性でなら、真の平和と平等が成る。
どこかで、目の前のどんな評価でも最高点をつけねばならぬ絶対者、理想を叶える救世主という存在に無比の喜びを感じずにはいられなかった。
くろみさんからの大帝と音波のお題「評点」でのリクエスト
昔、DMで話したことを思い出したので、2018/3/10に一行加筆。

彼の眼差し(ラチェホイ)

振り返ると、ラチェットくんがじっとこちらを見ていた。
手に持ったレンチをちょっと振って見せてみる。それでも視線は外れない。何か考え事してるらしい。
「・・・なんか用かね?」
無意識なんだろうそれを指摘してみると、ラチェットくんはちょっと面食らった顔をして向こうに行ってしまった。
「あら。振られてもうた」
ラチェットくんと一緒にいると、時たまこんな奇妙な瞬間がやってくる。
でも、ラチェットくんは、何も言わない。
言わないけど、ふと気づくと我輩のことをじっと見ている。その刺さるように熱い視線がむずかゆくて、ついおどけてしまう。
ラチェットくんから見たら、我輩はどんなふうに見えているんだろうか。
うーん、悪い感情はなさそうだけれど。
彼は何も言わないから、どんなことを考えているかなんて想像して見ても分からない。けれど、ああいう眼差しは、我輩にだけな気がする。しかし、自意識過剰かもしれない話ではある。
それともあれかね。また何か爆発させやしないかなんて心配されてるのかね。
今度、相手が何を考えているか分かるような頭の中を覗けるような発明でもしてみようかと思う。
ふとまたラチェットくんの方に意識を向けると、また遠くからこちらを見ているようだった。
「…………」
ああ、視線が熱い。
マスクをしているから彼には見えないかもしれないが、あの目を感じると、なんだか緊張して背筋が伸びてしまうし、なんだか恥ずかしくて顔が熱くなる。
彼がどう我輩を見ているのかは分からないけれど、我輩だってラチェットくんをなんだかんだ見ているから、彼が色々な性格や表情を持っているのを知っている。
誰かを治療している時の真剣な眼差し。助けたいという思いが見える横顔。
何かうまくいかなかった時に、悔しがって自己嫌悪に歪めて伏せる時の表情。
不注意で怪我をした時に向ける優しさからの厳しい目の光。
笑った時に細くなるオプティックの奥。
……挙げ始めたら、なんだか余計に気恥ずかしくなる。どれだけ自分もラチェットくんを見ているのか、どれほどの好意を持っているのか。
だから、横にいて、近くで見ていて、飽きないんだよなあとも思う。
ラチェットくんを盗み見ると、彼は今はリペア用の器材を調整しているようだった。
ラチェットくんもそう思ってくれていたらいいのだけれど。
「……我輩、思ってたよりラチェットくんのこと好きみたいだ」
コーヒーのおかわりに気がついて来てくれたラチェットくんにそういうと、彼はひどく驚いたみたいだった。
「え」
彼の白い機体は紅潮すると、わかりやすい。
そんな発見をした瞬間に自分の顔も熱くなったのが判った。
マスク越しでもこれはラチェットくんも分かるだろうなあ。
ラチェットくんの目がまたあの眼差しになる。でも、今回は何かを言うみたいだった。
「……ホイルジャック、私は――」
シャザムさんのリクエストです。
「君の好きなとこ」を想われてるひと視点。

2回目のデート(サン音)

2回目のデートというのは、非常に繊細で高度な情報戦が必要なもので。2回目のデートをOKされてからがむしろ始まりで、3回目という勝利の確定した状態へ持って行くための第一歩で。そのふたりがその後どうなるかを決定づけてしまうような重大なファクターだと聞いていたのだが。
「俺たちは恋人同士で、俺らは付き合ってるんだ」の手前にある「俺たちはよく会ってるんだ」の状況は複数回はデートをしていなくてはならないわけだ。つまり、2回目のデートを了承するということは、その先に進んでもいいかなと思っていることの意思表示でもあり、自分のその選択が正しいかを確認する作業であると俺の調べでは認識されていた。
だが、一体、これは何なのだ。
隣のぼんやりとした機体をバイザーの端で見やると、エネルゴンの入ったグラスを片手に大きなあくびをしていた。
排気される呼気はやや熱を帯びている。
その露わになった口腔ユニットを無言で見つめればやっとそいつは俺の非難めいた視線に気がついたようだった。
「と、すまねえ。つい、」
「……構わん」
大口であくびをしたことを非難しているわけではない。
俺はデートという癖にいつもと変わらない――いや、いつも以上に暢気なことを咎めているだけだ。
航空兵は謝りながらも、また次のあくびをした。
こいつは、このサンダークラッカーという名の兵士は、上官に当たる俺を2度デートに誘っていながら、終始この調子なのである。
上官を恋愛対象として見ることは、まあよくはあることだろう。その上官をデートに誘ってみるとなると、前者に比べてぐっと数は減るがないことではない。2回目のデートにこぎつけることもなくはないことだろう。
では、勇気を出して誘ってみて、特に愛の情熱を語るわけでもなければ関係を懇願することもなく相手に気に入られようと行動しないとなると、どうだ。
ありえない、としか言いようがないのではないだろうか。
俺だって別に暇なわけではない。情報参謀として忙しい中でわざわざ時間を作ってこうやってデートとやらに参加してやっているのだ。それに対して、こいつの態度はどうなのか。デートの主催者であり参加者の片割れとして、この体たらくは。
サンダークラッカーが好き勝手俺に質問をし、質問の答えに何かと反応をするはするので、やれやれ会話は続いてはいるが。
エネルゴンのせいだろうか。何だかイライラと熱っぽくなってきた。
ぐいっとグラスに残っていた半分くらいを飲み干すと、横でサンダークラッカーがほうっと息を漏らした。
「あんた、意外といける口なんですね」
ささ、と空いたグラスにまたエネルゴンがなみなみと注がれる。
俺はそれに口をつけながら、こうやってただ飲んでいるだけの会合がデートと言えるのだろうか、とデートの定義について考え始めた。
まとまらなくなってきた考えを余計かき乱すように、サンダークラッカーは話しかけてくる。
「カセットロンたちとはこうやって飲んだりするのか?」
「いや、あまりないな」
「そうなのか。とは言っても、俺もそんなに誰かと飲んだりはしねえからな。そんなもんなのかね」
サンダークラッカーのグラスが空いてる。
注ごうとすると、サンダークラッカーは少しだけ会釈をして受け取った。
酔って危なくなった手元に気をつけて、ゆっくり注ぐ。
その様子をサンダークラッカーは食い入るように見つめているのが視界の端で見えた。
「……でも、こうやってあんたに酒を注いでもらうってのは、何だか悪くねえです」
「そうか」
何か深い意味があるのかとブレインスキャンをしてみると、所帯染みたこの行為が親密さを表しているようだと考えているようだった。また、その酒を注ぐ俺の所作に何か色気のようなものを感じたらしい。
こいつの方ではちゃんとデートとして認識されているのだろうか。ブレインの点検をしてやりたくなる。
「しかし、こう飲んでばかりというのも、変じゃないのか?」
聞けば、サンダークラッカーは小首を傾げてみせる。
「変?」
「何というか、一般的なデートとは違う……だろう」
「そうか?」
「そうだ」
言うつもりはなかったが、ついに変だと言ってしまった。でも、口を滑らせて話してしまえば満足感には満たされる。やはり我慢は良くない。
ふうんと唸ってサンダークラッカーはようやくグラスから手を離した。
「なんだ。じゃあ、あんた、『普通のデート』がしたいんです?」
と、熱のこもった視線を俺から離さず、顔を近づけてくる。
身をよじって後退すると、俺の手からグラスを抜き取りながらサンダークラッカーは間を詰めた。
「何逃げるんです。デート、するんでしょう。」
グラスの無くなって行き場をなくした手をサンダークラッカーが握る。顔は近いままだ。
ちょっと突き出せば、簡単に唇が触れてくるような位置。
サンダークラッカーはここぞと言うような、見たこともない甘い微笑みを浮かべている。
「サウンドウェーブ」
「なんだ」
サンダークラッカーの唇が近づいてくる。
「口開けてください」
「は」
その胸元を押しのけようとしてもがいた俺が止まると、サンダークラッカーは驚いたように目を見開いて、そのままキスをするかどうか迷うなそぶりを見せた。
「…………」
それから結局、軽く触れるだけの口づけだけをして、意地の悪い顔で吹き出して笑った。
「……なんて。2回目のデートでそこまでするほど俺はガツガツするタイプじゃないですよ」
固まっている俺をよそにサンダークラッカーはさっさと先程までの位置に座り直し、グラスを煽る。
「このままだと、あんた、全部行くとこまで許してくれちゃいそうですし」
楽しみは取っておく派なんです。
そう言って飲んだくれの航空兵は赤い頰をつらせてみせる。
「そう言うのは、3回目以降に取っておいてくださいよ」
さなぎさんからのリクエストです。