※TFADVチョップショップ×フィクシット (2)
落ちていた機能が回復したとき、ぼくはもう既に基地の中ではないどこかにいた。
よかった。ぼく、一応は生きてるわあ。
まずはそう思った。しかしそのすぐ後に、『これから』破壊されるかもしれないという可能性に気がついて泣きそうになる。ぐるぐると理不尽に与えられる恐怖に理由を求めるが、見つからない。
自分を抱きかかえている四つ目の合体兵士の様子を覗って見れば、機嫌よく歩いている。
歩いている森にしても、基地の近くの木とは少し種類が違うし、成分の違いからか土の色も違う。自分はどれくらいダウンしていたのだろう。
そのうち、ぼくの視線に気がついたのか、四つある目のうちのひとつがこちらを見た。
「坊主、起きとーと」
あまりに邪気のない声音に驚く。少なくとも首絞められて誘拐された捕虜に使うトーンではない。
ヤバい。こいつ思ってたんよりサイコなんちゃう?
返事もできないでいると、首根っこをつかまれて顔の高さまで引き上げられる。また首を絞められる!と思わずオプティックを絞るが、別に苦しくもなければビリッともこない。ただ、歩き続けてはいるらしく、そのせいで揺れはする。恐る恐る視界を開くと、至近距離から覗き込まれていた。
喉がひゅっと鳴る。
「なんね。別にとって食ったりはせん。俺らは捕虜ば取らんけん」
「はあ?なんでやねん!今まさにぼくを憂慮、いや、伴侶、いやいや、捕虜にしてるやん!」
思わず声を上げると、チョップショップはこうるさそうにしてみせる。
いや、刺激させるつもりはないけど、突っ込まずにはいられんわ!
しかし、怒りはしなかったらしい。
「きさんは、俺らんスペアパーツたい」
と、ちゃんとこちらの疑問に答えてくる。
って……いいんかーい!
「いやいや、それこそ意味わからんやん。あの時は確かに自分右腕無かったけど、今はおるし」
「お前、技術者やろ。俺らがこの星出てくんに色々必要ばい。さっきは思わずかっさらって来たばってん」
必要だから思わず……って。衝動的にぼくの首絞めて攫ってきたっちゅうことかいな。いや、確かにチョップショップの犯罪歴は盗みばかりで殺しの案件は無かったはずやけど。
こちらから目を離さない四つの黄色い光からは真意は測れない。
ぼくがスーパー技術者にしてキュートなマイクロンにしろ、衝動的にしろ何にしろ。基地から攫ってきたら、ぼくの仲間が追っかけてくるんは想像しなかったんかいな。
腕利きの盗賊っちゅう話なのに、そんな行き当たりばったりで大丈夫なんか。
「ま、オートボットから逃げるんは、ばり簡単ね」
「今迄のはそうかもしれんけど、ビーやんたちは他のとちょっと違いまっせ!あのひとなら、またすぐにポッド行きや!」
「なんやと?」
「ひっ」
ぐっと距離を詰められる。
流石にポッドという言葉にはチョップショップも激昂しかけたようだったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「……なんば言いたかこきばしようと。誰だって同じばい。同じ轍は踏まん。せからしい坊主やの。宇宙にこれから出てっても、先の思いやられるたい」
「はあ!?宇宙!?ぼくは解放されないん?」
「解放?なんばこつ言うね。きさんは俺らんスペアっち言うたやろ。俺らは必要なもんと手に入れたもんは離さんと」
運命共同体っちこつばい。
さも当然のことのように、チョップショップが不敵に笑ってみせる。
こいつら、あの時も、ぼくのことをあのまま連れてくつもりやったんか!
「……一応、確認したいんやけどな?」
「おう、言うてみんしゃい」
「ぼくの意思とかそういうんは?」
何を自分が期待してたのか、それがどれだけ無謀なのか。チョップショップが次に口を開いた時、質問の無駄さを思い知らされた。
「お前はもう俺らんもんたい。俺らと居るんが道理やろが」
チョップショップの理論に絶句する。
そんなん嫌や!
あまりに同意しかねる内容にじっとその細められた4つの黄色の光を探るが、チョップショップが『マジ』らしいことしか分からない。ぼくがまっすぐ目を逸らさないのをチョップショップは気に入ったらしい。ニヤッと笑ってくる。
「何ね坊主。今日はやけに威勢のよかな」
しかし、チョップショップが許さなくても、ぼく自身はついていくつもりなんてさらさら無いし、そして何より……
「ビーやんが助けに来てくれるから平気やもん」
チームが助けに絶対来てくれる。今はその自信がある。ぼくだってチームのメンバーやし、必要とされてんねん。
しかし、その態度がチョップショップは気に入らなかったらしい。ぼくの言葉が発せられた瞬間、空気が変わったのが分かった。
「せからしか」
「口を開けば、バンブルビー、バンブルビーっち……そげなこつば言うていられるんは、今んうちだけっと。名前しゅら呼べなかごつしてやるけん」
2015/6/24
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