彼の眼差し(ラチェホイ)

振り返ると、ラチェットくんがじっとこちらを見ていた。
手に持ったレンチをちょっと振って見せてみる。それでも視線は外れない。何か考え事してるらしい。
「・・・なんか用かね?」
無意識なんだろうそれを指摘してみると、ラチェットくんはちょっと面食らった顔をして向こうに行ってしまった。
「あら。振られてもうた」
ラチェットくんと一緒にいると、時たまこんな奇妙な瞬間がやってくる。
でも、ラチェットくんは、何も言わない。
言わないけど、ふと気づくと我輩のことをじっと見ている。その刺さるように熱い視線がむずかゆくて、ついおどけてしまう。
ラチェットくんから見たら、我輩はどんなふうに見えているんだろうか。
うーん、悪い感情はなさそうだけれど。
彼は何も言わないから、どんなことを考えているかなんて想像して見ても分からない。けれど、ああいう眼差しは、我輩にだけな気がする。しかし、自意識過剰かもしれない話ではある。
それともあれかね。また何か爆発させやしないかなんて心配されてるのかね。
今度、相手が何を考えているか分かるような頭の中を覗けるような発明でもしてみようかと思う。
ふとまたラチェットくんの方に意識を向けると、また遠くからこちらを見ているようだった。
「…………」
ああ、視線が熱い。
マスクをしているから彼には見えないかもしれないが、あの目を感じると、なんだか緊張して背筋が伸びてしまうし、なんだか恥ずかしくて顔が熱くなる。
彼がどう我輩を見ているのかは分からないけれど、我輩だってラチェットくんをなんだかんだ見ているから、彼が色々な性格や表情を持っているのを知っている。
誰かを治療している時の真剣な眼差し。助けたいという思いが見える横顔。
何かうまくいかなかった時に、悔しがって自己嫌悪に歪めて伏せる時の表情。
不注意で怪我をした時に向ける優しさからの厳しい目の光。
笑った時に細くなるオプティックの奥。
……挙げ始めたら、なんだか余計に気恥ずかしくなる。どれだけ自分もラチェットくんを見ているのか、どれほどの好意を持っているのか。
だから、横にいて、近くで見ていて、飽きないんだよなあとも思う。
ラチェットくんを盗み見ると、彼は今はリペア用の器材を調整しているようだった。
ラチェットくんもそう思ってくれていたらいいのだけれど。
「……我輩、思ってたよりラチェットくんのこと好きみたいだ」
コーヒーのおかわりに気がついて来てくれたラチェットくんにそういうと、彼はひどく驚いたみたいだった。
「え」
彼の白い機体は紅潮すると、わかりやすい。
そんな発見をした瞬間に自分の顔も熱くなったのが判った。
マスク越しでもこれはラチェットくんも分かるだろうなあ。
ラチェットくんの目がまたあの眼差しになる。でも、今回は何かを言うみたいだった。
「……ホイルジャック、私は――」
シャザムさんのリクエストです。
「君の好きなとこ」を想われてるひと視点。