俺の何かが欲しかった。
自分のブレインの中、自分の言葉で表す。なるほど、サウンドウェーブという全体像すら掴めない謎めいた機体でもパズルのピースが合ったかもしれない。
コアダンプというチョイスはよく分からねえが、情報形態ってことはあいつの領分だ。何か思い入れがあるってことだろ。やっこさんも、もっと違う言い方とか態度で言ってくれりゃあ良いのに。言い方ややり方を知らねえだけだろうけどよ。
前の方から歩いてくるサウンドウェーブの姿を見ながらあのぶっきらぼうな物言いを思い出していると、どうしてあいつに惹かれてるのか分からなくなる。ただ自分がラクでいたいなら、俺を振り回すこともない分かりやすい可愛げのあるやつを追っかけていればいい。誰と摩擦を起こすわけでもなく、安穏と流される方が楽なのは誰でも知っている。
しかしそんなことを考えている俺自身は、今確実に浮かれていた。
「よお」
しかし、そんな俺とは対照的に声をかけたサウンドウェーブはあからさまに不機嫌そうだった。返事もしないまま、横に並ぶ。
……返事をする気は無くっても、何かやりてえことはあるってえことだな。今度は一体なんだってんだ。さっきはほんの少し機嫌が良さそうだったのに。
こういう時は、サウンドウェーブが切り出すまで待っているというのが暗黙の了解になりつつあった。それでも俺にはスカイワープと話すことで上向いた気持ちから出来た小さな自信がる。この不安定さについてはいつ踏み込んでみようかと機会を伺っていたが、今がその時かもしれない。
足を止めると、サウンドウェーブもすぐに気づいて俺に向き合ようにして立ち止まった。そしてこちらを数ナノクリックだけ凝視したかと思うとすぐさま前を振り返り、歩き出す。その行動に唖然としながら、すぐに追いつけるその背に向かって言葉を投げる。
「お前、よく急に機嫌悪くなるけどよ。ありゃあ何が原因なんだ?」
「オ前ニハ分からナイ」
すぐに返事をするところからするに、さっきのはまたアレか。
すこし自分が不安定になったのがわかる。どういうことだと踏み込めば黙り込むだろうか。サウンドウェーブを追っかけだしてから、自分が感情的になったと思う。スカイワープの『まったく、おめえもよくあんな陰険野郎とつるんでいられるもんだぜ』という言葉がふいに記憶回路を巡る。
これは話したくねえってことらしいが、てめえで勝手に人の頭ん中覗いておいて、俺には訳の分からねえまま放っておくとは、お前は俺のなんだってもんだ。俺のもの、だろう?
頭の中でそうがなりつつも、俺はサウンドウェーブに向かって吹っかける言葉が見つからずにいる。自分が今、ひでえ顔で奴さんを見ているだろう自覚がある。なっさけねねえ。
「――ソウダナ」
少し嬉しそうにサウンドウェーブが呟いた。またブレインスキャンか。馬鹿にしている様子は無い。その嬉しそうな理由がわからず、俺は相手が喋るのを無言でもって促す。
サウンドウェーブも諦めたように、続けた。
「お前ハ、他人を通テシカ自分や他人ヲ確認出来ないカラダ」
…
18 2014.11