車の車窓を通しても、日差しの強さを感じる。外は暑いのだろう。小学生くらいの女の子が、日傘を差したおばあさんに連れだって日陰に逃げ込みながら歩いている。自転車に乗った男の子達は顔を真っ赤にしてペダルを漕いでいた。
今が一番暑いときですものね。
ふと見た時計は、冴木さんたちと約束していた訪問の時間まではずいぶん余裕があることを示している。
「……ここからは自分で歩いていくわ。約束の時間まで余裕がありすぎるのよ」
「分かりました、ではまた後でお迎えに参りますので」
車を減速させ道端に駐車すると、吉住さんは私の為に素早くドアを開けてくれた。
「ありがとう」
外に出ると、やはりコンクリートの反射光で足元から暑かった。お土産にもってきた水菓子が怖い。やっぱり送ってもらったほうがよかったのかしら。日傘を持ってきていたらよかったのに。日差しがまぶしい。
車の排気音が後方に走り去るのを感じながら、私は神社へと向かう坂の方へゆっくりと歩を進め始めた。
冴木神社は私のお友達のお家で、山の斜面を登った所にある。高台にあるそこは、鳥居をくぐって階段を上りきると、町が一望出来る。木々の中に佇む本殿の前に 立つと、心が澄むような気持ちになるのが不思議だった。
よくお父様やお母様と何かにつけて有名な神社をお参りするけれど、雰囲気が違う。どこか不思議と親近感を抱く。冴木さんや冴木さんのお父様がいらっしゃるせいかしら。いいえ、それとも前に冴木さんが言っていた不思議な――――
勾配の上にわずかに見える赤い鳥居を見上げながら見つけた自分なりの答えは、不意にかけられた声で遮られてしまった。
「すみません!この近くに神社があるはずなんですが……」
振り向いて見た息の上がりきった声の主は、中学生くらいの男の子だった。
前髪が風に開き、細い輪郭から汗が地面に滴って音をたてた。
「冴木神社でしたら、この上に――」
「ありがとうございます!」
私が言い終わらないうちにその男の子は走り出し、その姿はすぐに見通しの悪い坂の上に消えていった。そして後から追いかけるように突風が吹き抜ける。
「……不思議な子」
そう言い例えるしかない雰囲気。華奢なその背中を思い出すけれど、ちゃんと見たはずの顔が思い出せない。
どうしてあんなに焦っていたのかしら。
そうして一時唖然としながら鳥居の赤を見つめたが、私はついに日射に歪む坂を登り始めた。
でもまた神社で会うかもしれない。神社は人と神様が、人と人が出会う場所だなんて冴木さんだったら言うかしらね。