体を離すと同時にマスクが閉じられ、サウンドウェーブは立ち上がって俺から離れた。
「オ前ハ俺ヲ仲間ダト言ッタダロウ?オ前ハ仲間全員ニ、コンナコトヲシテイルノカ?」
サウンドウェーブが珍しく感情を表に出している。エフェクト越しでも、驚いたような軽蔑したような声色を発声しているのが分かる。
しかしこの質問は俺がサウンドウェーブにキスしたことじゃなくって、俺が他の奴に同じことをやっているかどうかを問題にしてるようにも聞こえる。
お前さんはそれでいいのか?
嬉しくて、まだ困惑状態でしかないサウンドウェーブがなにやら可愛く感じてしまって、俺はつい噴き出してしまった。
自分の推測が当たって安心したってのもある。やっぱり同じ気持ちなら良いとは思うが、外していたらヤバかっただろうし。
噴き出したことに対して、またサウンドウェーブが戸惑い憤慨したらしい空気を感じる。俺は慌てて弁解した。
「俺は別に馬鹿にしてるわけじゃないぜ。あんただからするのさ。俺はお前さんに惚れちまったからな」
立ち上がり、もう一度サウンドウェーブににじみ寄ると、一歩後退される。
「理解出来ナイ。『俺がサウンドウェーブにほれるなんてことは――』トイウオ前ノ思考ガ、以前ノスキャンデータニアル。護衛ノ任ニ着イタ時モ、『無表情な奴相手じゃ勃つもんも勃たねえ』ト考エテイタダロウ」
あの時、エネルギー消費だとか範囲が狭まってるとか言ってなかったか?こいつずっと俺を探ってやがったのか。それにしてもなんつーことを口にだしてんだ、あんたは。
「それは最新のデータか?俺はあんたが好きだ。あんたが欲しい。あんたを俺のものにしてえ。行動や言葉でもわかんないのか?」
こんなことを考えればサウンドウェーブには悪いが、バイザーやマスクを割りたくなる気持ちも分からなくもねえ。バイザーの下はどうせ無表情なんだろうが。覗いてみたくなる。最初は実は端正だという意味にとっていたが、今ならメガトロン様が『あいつの顔は、情報参謀でいるのには目立ちすぎるからな』と言ったのも分かる。つんと澄ましたように感じるその表情が変わるのを見てみたい、変えてみたいと思わせるのだ。歪ませてみたいと思う輩もデストロンならザラに居るだろうしな。
逃げるサウンドウェーブの肩を掴み、顔を覗き込む。バイザーを挟んだ視線だが、センサーの焦点を逸らされたのが分かった。
「……オイ、ソンナニ見ルナ。眩暈ガスル」
「眩暈?」
「突然、オ前ノ脳波ガ受信出来ルヨウニナッテ流レ込ンデ来テ……俺ノ思考ト混ザッテブレインガ処理シキレナイ」
ブレインスキャンが出来るようになったか。
そりゃあつまりは『お前の気持ちも、俺の気持ちも理解して安心したからスパークが安定しました』ってことか?
「ドウイウコトダ?」
頭で感じ取った瞬間、間一髪入れずにサウンドウェーブが声を上げる。
しっかり読めてんじゃねえか。
「お前言っただろう?『お前の電磁波は読み取りは出来ないが、悪くない』。俺と考えていることは似てるって。俺があんたを好きなように、あんたも俺が好きなんじゃないか?無意識的だろうが、なんだろうが」
「俺ガ、オ前ヲ?」
そんな至極意外な感じで返すなよ。分かっていても、傷つくもんは傷つく。
「あんたのスパークが俺をブレインスキャンしたくなかったのは、お前が俺の気持ちを知るのが怖かったんじゃないのか?」
そう言い放つと、サウンドウェーブが黙りこむ。俺はじっとバイザーの奥を覗き込むようにして答えを待った。
今、こいつなりに自分の感情やら俺の考えてることやらを処理して検証しているのだろう。
サウンドウェーブの言うとおり、こいつのブレインの処理のキャパシティを超えているからか、だんだんと掴んでいる腕の熱が上がってきていた。この熱が俺と同じ理由なら良い。
ようやくかかって出したサウンドウェーブの答えは、暴言から始まった。
「低脳メ。ソレハオ前ノ解釈ダ。ソノ安易デ楽観的ナ性格回路ハ近イウチニ修正シタホウガイイ」
つらつらと嘲りの言葉を発しはするが、だんだんと語勢は弱まっていく。それにつれてサウンドウェーブが顔を背けていくのが、こいつが照れているらしいというのを証明しているようで俺は笑い出しそうになる。
「……ダガ、オ前ノ言ッテイルコトニハ整合性ガアルヨウダ」
最後はかなり小さい音声となったが、これはサウンドウェーブなりの『イエス』なのだろう。思わず、同じくらいの体格のサウンドウェーブを掴んでいたまま抱きしめて高く持ち上げてしまう。が、もう相手からの抵抗は無かった。疲れたのかはしらないが、抵抗することを諦めたらしい。
「お前も、もう少しくらいは嬉しそうにしろよ」
「俺ハソンナ風ニハプログラムサレテイナイ」
俺もあんたが言うほど楽観主義じゃねえよ。お前が俺から距離を置き始めた何ソーラーサイクル前から数メガサイクル前まで、ずっとネガティブな妄想に取り付かれてたんだからよ。俺がこんなになってるのは嬉しいって言うのもあるが、あんたに対して吹っ切れたってのが一番の理由だ。
とりあえずは持ち上げたサウンドウェーブを床に下ろす。が、俺としては抱きしめたくらいでやめるつもりはなかった。
「サウンドウェーブ、マスク開けてくれないとキスしにくいんだけど」
しっかり閉じられたマスクを指先で叩く。すると、サウンドウェーブはいやいやと首を振った。
「今ハ……嫌ダ。オ前ノ考エテルコトヤ、エラーノ原因ガ分カッタカラニハ、余計ニ見エスギテシマウ」
この『見えすぎてしまう』という台詞は前にも聞いたことがある。ある直感が芽生えて押さえ込むように抱き寄せると、腕の中でサウンドウェーブが身構えるのが分かった。ずっと抱いてきた疑問だ。
こいつがこうも頑なになるということは、多分正解なのだろう。
「あんたさっき、マスクやバイザー無しでダメージを受けた現状ならこれくらいの方が都合がいいって言ってたけどよ。もしかして、自分で感覚器だかブレインスキャンの受容器が上手くコントロール出来ねえことがあるってことか?」
「ソウダ、……ト言ッタラドウスル?」
質問を質問で返すサウンドウェーブに向かってにやりと笑いかける。
「お前さんが恥ずかしくなるくらい考えてやるよ。あんたは俺のもんだってな」
もう一度マスクを指先で叩くと、静かにマスクが開けられる。
観念したって感じだな。
しかしキスを落としながら薄目を開けると、硬直したポーズで未だ微塵も動かないサウンドウェーブが見えた。どうしていいのか手探り中と言った様子で拒絶はしないものの、されるがままになっているのがよく分かる。
慣れてねえんだろうなあ。自分の欲を差し引いても、小慣れたイメージがこいつにまるっきり結びつかない。今までで誰かと、なんて噂だとしても聞いたことがないしよ。
逆に言えば、こういう好いた惚れたやらのぐちゃぐちゃしたこいつが戸惑うような感情や思考を今までこいつが理解しなくて良かったんじゃねえかとふいに思い出す。情報としては知ってたんだろうけど、自分の情緒は育ってなかったようだし、これからは嫌でもまた『ファン』が出来た時にこういうのに触れる機会が増えるんじゃねえのか?
だけど、これであんたは俺のもんだ。困ったら俺を呼べ。俺にはそれくらいしか能がねえけど、いつだって一番速くすっ飛んで来てやる。スキャンのコントロールが利かなくなったら、俺たち以外に誰も居ない場所に連れてってやる。俺を必要として、利用しろ。
俺がぐちゃぐちゃと考えているのを察知したらしいサウンドウェーブはやっと金縛りから解けたらしい。合わせていた唇に歯を立てられる。
思わず手放すと、相変わらず無表情ながらサウンドウェーブが少し笑ったような気がした。
「……お前は意外とこういうことに関しては情動や独占欲が激しいのだな。サンダーク
ラッカー、貴様もやはりデストロンだったか」
久しぶりに、サウンドウェーブに名前を呼ばれたのが、しかも笑顔つきで呼ばれたのがこんな文脈というのがなんとも惜しい。
心配する必要がないほど『証明し続けてやる』とは言ったものの、どこまで手を出して良いのか分からない。サウンドウェーブについても、どこまで了承しているのか分からない。ダサいくらいマジになっている自分がどことなく気恥ずかしい。
「いいんだよ、お前だけ知ってれば」
俺は照れ隠しながらサウンドウェーブに笑い返した。