君しか知らない(サン音) - 20/22

 俺の質問が切り口となったらしい。サウンドウェーブがさらりと照れもせずにいつものフラットな声でそう言い放った。これまでのやりとりで気づいたが、サウンドウェーブは何かきっかけさえあれば、説明口調ではあるがつらつらと止めどなく話すことができるらしい。
 『信用しているようだ』という言葉の最後が気にならないわけじゃねえ。だけど単純かもしれないが、信用していると言われれば悪い気がしねえ。

「まあ、俺が護衛の時は真っ先に俺に個人通信繋いでいたからな。条件反射みたいなものもあるんだろ。護衛の任務を解かれてからそう長くは経っていねえしよ」

 なんだか胸がどきつくけれど、こいつは特に深い意味では言ってないんだろうと無理やり自分を落ち着けさせる。サウンドウェーブと話すときはいつもそうだ。俺ばかりが驚き、絶句する。スパークがもたない。冷静になろうとすれば、絶対に度肝を抜かれる。
 会話の中で、何度も面食らうのも無理はねえ。
 なんにしろ、俺の理性的になる努力を砕くのはいつだってサウンドウェーブだった。

「お前の護衛の任をといたのは、元々の所属部隊と確執を作るべきではないと判断したからだ。護衛任務中にウィングが傷ついた。あれはジェットロン部隊としてはかなりの屈辱だろう」

 そういえば、あの時はサウンドウェーブ手ずからリペアしてくれた。
 そんなことのために?
 そう言いかけて、自分の言おうとしたことに仰天する。存在意義である飛ぶことに直結した問題でもある。前にも一瞬だけどうでも良くなった瞬間があった。あれもこいつ関連だったか?

「スタースクリーム、スカイワープは俺と良い関係にあるとはいえない」
「言わせときゃあいいんだよ。あいつらだってあんたのこともっと知りゃあ、いつかはわだかまりも解ける。俺だって最初の頃はあんたのこと、よく知らなかったし、距離があったことには間違いないだろ。それに、あんたが思ってるほど、あいつらだってお前さんのことを嫌っちゃいねえよ」

 特にスカイワープはフレンジ―のこともあるしな。
 渦巻いた思考を駆り立て、やっとのことで反論する。しかしサウンドウェーブに納得した様子はなく、そのまま食い下がった。

「だが、ジェットロンは飛ぶことに関しては高い誇りを持っていると俺のデータにはある。お前の過去や能力、性格についての情報は護衛任務以前に調べ上げてあった。お前は飛行タイプであることに誇りと自信をもっている。だからだ」

 調べ上げたという内容に一瞬言葉を失うが、こいつに関してはその程度の調査と計算をすでにやっておきかねない。まあ、デストロンに入る時点でサウンドウェーブによるチェックは絶対に入っているんだろうな。
 理由は俺の考えていたものと違ったが、やっぱり避けられいると感じていたのは事実だったんだな。気の使い方、やっぱり分かってねえよなあ。
 愛着を伴った不思議な呆れに似た感情がわいてくる。
 あんただって情報に絶対の自信を持っているだろうが。だから分からないことだっていっぱいあるんだぜ?

「そして他者に興味の持てないお人好しで、何か特別に行動を取りたがるタイプではなかった。栄達が目標ではなく、任務は遂行はするが従順なわけではない。しかし最近はそれらの傾向さえ当てはまらない。お前の脳波はいつも安定していない。ブレイン内部と発声と行動に不一致があるのはよくあることだ。しかし、俺はお前の思考が拾えない。お前はブレインスキャンにもエラーが出ていると指摘した。それは間違いではない。お前を解析しようとすると、俺のスパークが不安定になる」

 ここで俺の頭ん中が覗けなくなったという問題に戻ってくるらしい。
 ただ、その俺にブレインスキャンをかけられない問題はサウンドウェーブの内的な部分にも原因があるという情報が付属されていた。

「なんでだ?」

 そう尋ねると、サウンドウェーブが首を振った。どうやら本人にも理由が本当に分からないらしい。
 エラーが出るのが俺だけじゃなくサウンドウェーブ側にもあるのならば、それを直せば俺のサウンドウェーブに対する好意は理解できずとも思考の電磁波を抜き取るくらいはできるんじゃねえのか?
 詳しく知りたくはあるが、まだ俺の気持ちに気づいていないのならばサウンドウェーブにそのまま聞けるわけがねえ。
 打ち明けたいが、打ち明けられないフラストレーションがたまっていく。

「原因不明。このエラーは何回か起こったが解析するにはデータ不足だ。強い拒否反応が出たのは、お前は俺が好きかは分からないと言った時。お前の脳波は揺れていたし、それ以上に俺のスパークが不安定だった。また、今回の襲撃を撃退した理由を答えた時もエラーが発生した」
「データねえ……同じ条件とすれば、あんたが俺にお前さんを――」

 言いかけて、ふと芽生えたものにすべての俺の時間が止まる。

「どうした?」
「いや、何でもない。忘れてくれ」

 いや、まさかな。条件とすれば、こいつが俺の好意を確かめようとした時ではあるが、都合の良い解釈に過ぎない。
 そしてその時を動かしたのもサウンドウェーブの言葉だった。

「お前の電磁波は読み取りは出来ないが、悪くない」

 そう言いながら、サウンドウェーブはバイザーとマスクで顔を覆った。

「多分、オ前ト俺ノ考エテイルコトハ近イノダロウ」

 追撃するように決定的な言葉が降ってきて、俺は即頭部に手を当てて撃沈した。
 かあああっと機体の熱が上昇したのがわかる。
 これはサウンドウェーブなりの『好意』と取っていいのか?まだ自信はないが、俺に対して俺がサウンドウェーブに対して抱いているような思いを持ってるとしたら、そう受け取るしかねえだろう。

「サウンドウェーブ、タンマ。一旦ストップだ!」
「ドウシタ?」
「あんま、刺激してくれんなよ?あんたといると、たまにスパークの熱でヒューズが溶けきれそうになる」

 サウンドウェーブこんな色気もない報告でしかない言葉で、ヒューズが溶けきちまいそうになる俺の驚くべき初心さに照れを超えて感動さえ感じる。
 にしても、こいつのエラーってのは何なんだ?

「何故ダ?自己完結デ話ヲ止メルナ」

 状況が読めないらしいサウンドウェーブが俺の顔を覗き込んだ。
 怪訝そうに見えるのは、俺が話してみろと言ったり急にやめろと言ったりする理由が分からないからだろう。基本的に、サウンドウェーブはこういった自分の『知らない』状態に置かれるのを嫌がる。
 ひょっとすると――

「……サウンドウェーブ、マスクを開けてくれ。俺が何考えてるのか、ブレインスキャン出来なくともお前さんがもう心配しないように、証明し続けてやるよ」

 俺の好意に対してこいつが嫌悪感を持っていないのなら。いまだネガティブな予想がブレインの片隅に発生してはいるが、押せるだけ押してみるべきなのか。
 あんまりこういうキャラじゃねえんだけどよ。俺だって我慢の限界が近えんだ。
 素直に取り除かれたマスクの下のサウンドウェーブの顔に俺はぐっと顔を寄せた。