作業スペースに戻ると、作業は完了していたが、スカイワープとフレンジーがかなり騒がしく喧嘩をしたらしかった。せっかくチャンスをやったのに、素直にはなれなかったらしい。
その上、サウンドウェーブという監督者が居ない中での騒ぎを聞きつけたメガトロン様が直々にその二機をお叱りになっているという最悪の状況下だった。メガトロン様に怒られるというのはスカイワープには堪えるだろう。これは後でフォローが面倒くさいパターンだ。
作業予定メンバー以外のデストロンが何人もその空間に居るのは、どうせ見物のギャラリーでもしていたのだろう。傍からスカイワープたちへの説教をにやにやと見物している。
本当に帰ってくるタイミングと状況としては最悪だった。
サウンドウェーブはともかく、俺はもう護衛任務から外れている。優先すべきは共同作業の方だった。俺が作業をサボった事実には変わりない。加えて、いつもは俺が間に入って仲裁のようなことをしていた。その俺が最後に残していった波紋で騒動になっていたことが分かれば、メガトロン様もご叱責されるに違いない。言い訳しようにも、サウンドウェーブのことにしろ、スカイワープのことにしろ、ギャラリーの前で本当の理由なぞ言えるわけがない。
メガトロン様がこちらに振り向いた瞬間、俺は瞬時に覚悟を決めた。
が、そのとき、後ろからスペースに入って来たサウンドウェーブがすかさず間に分け入って来た。俺が呆気に取られる中、サウンドウェーブは妙にはっきりした音声でメガトロン様に話しかける。
その内容は俺にとっては信じがたいものだった。
「メガトロン様、サンダークラッカーハ御命令通リ、俺ノ護衛ニツイテイタ。コレデ完全ニ俺ノ顔面ヲ割ラレル失態ノ後処理ト、ソノ他ノ『周辺クリア』ガ完了シタ」
「うむ、ようやくか。サンダークラッカー、良くやったな」
メガトロン様が俺に向き合い、労いの言葉をかけてくださる。が、その時点で俺の理解はついておらず、ブレインがはてなマークで多い尽くされていた。
作業はすでに終了している。メガトロン様は俺とサウンドウェーブを待っていたらしく、すぐに部屋から出て行く。俺は無言で会釈をするだけの返答を、ようやくその背中に返した。
メガトロン様の退出を合図にぞろぞろとスペースの中からサウンドウェーブと俺を除いた全員が出て行く。中には好奇の目を動かない俺に向けてくる奴も居た。サウンドウェーブの『護衛』というキーワードから、何を連想したかはしらねえ。だが、俺とサウンドウェーブが暴漢を返り討ちにしたことに気づいた奴も少なからず居ただろう。しかし、メガトロン様直々の御命令からの任務だったことは一目瞭然で、表立って尋ねてくる奴は居なかった。
サウンドウェーブと俺だけが残り静かになったスペースで、サウンドウェーブは俺に向き直り突然勝利宣言を言い放った。
「『お前は俺がいないとだめだな』ダッタナ?」
「おい、さっきの!」
やっと失っていた言葉が発声装置に戻ってくる。面白がっているのか、大真面目なのか。サウンドウェーブは相も変わらず、平坦な声で俺が疑問に思っていることへの説明を始める。
「俺ノオ陰デ折檻ヲ免レタダロウ。感謝スルコトダナ。護衛任務ニツイテハ、俺カラノ任ハ解イタガ、メガトロン様ノ御命令ガ失効シタワケデハナイ。ソレニ、俺ニハメガトロン様ノ御命令ヲ解消スル権限ハ無イ」
そういやそうなのだが。なにか言い表しがたい脱力に襲われる。メガトロン様の前で決めた覚悟に使った気力を返して欲しい。
「だけど、みんなの前で言うことじゃねえんじゃないのか?」
デストロン郡の中で波風を立てたくなかった。
それ以上に、忘れた頃にサウンドウェーブがまた誰かに……なんてことがなくはない。今までの奴らからの報復だってないわけじゃない。徒党を組まれれば流石のサウンドウェーブだって多人数相手の戦闘はキツい。
「メガトロン様ノ御命令ダッタト分カッタ方ガ、抑止力ニナルト判断シタダケダ。心配スルナ。オ前ハ『俺ノモノ』デモアル。俺ノヤリ方デ守ッテヤル。ソレニ。何カアッタラ、」
お前を呼べば、いつでも助けてくれるんだろう?
マスクとバイザーをしてるのに、その向こうでサウンドウェーブが少しだけ笑っているとなんとなく思った。
本当に、こいつ、俺が守る必要なんてあるのか?俺のことを意外と気性が荒いなどと言っていたが、こいつも人のこと言えるほど大人しい性格してんのか?
でも、サウンドウェーブのこういうところは多分、俺しか知らない。そして俺については、サウンドウェーブしか知らないのだ。
顔を近づけると、マスクが開かれる。
俺は返事の代わりにその唇に歯を立ててやった。