確認癖(サン音) - 5/8

 近くの通路の方から足音と声が聞こえてくる。そこで俺は不意に我に帰った。そういや、こんな場所でずっと話をしていたのだった。
 数メガサイクル前のことで少し浮き足立った俺が始めた会話が、ここまで発展するとは思っていなかった。あの時は自分に対して(理由と意味は分からないが、)サウンドウェーブが何かのアクションを起こしたことが嬉しかったという理由だけだった。
 俺が押し黙った静かな中、他のやつらの話し声だけが聞こえる。

「誰か、コッチに来ルナ」

 サウンドウェーブが平坦な声でそう呟く。俺が誰かがこちらにくることを知っているのを承知した上で、こう言う事によって俺に選択肢を与えてくる。この話はここではもう終わり。あとは俺次第。それが分かっているからこそ、不完全燃焼による後味の悪さが燻る。
 じゃあ、あんたはどうして欲しいんだ?簡単に『お前が求めさえすれば』なんて言ってくれる。お前さんが俺から離れたいなら、元に戻りたいなら――だけど俺は、そんなことを俺からするつもりなんて微塵もねえ。
 すぐ近くで近づいてくるそいつらの声が聞こえた時、俺はサウンドウェーブの手を取り、歩き出した。
 ここは俺の個人スペースに近い。この話は、手放しちゃいけねえ。
 俺はサウンドウェーブを引き寄せるように力ずくで引っ張る。あまりに抵抗がないことに、こいつも了承しているようだと思えて安心する。そこで、一方的に握っていた腕を離そうとすると、その手にサウンドウェーブの指が絡まった。
 驚いて振り向くと、サウンドウェーブが小さく首を振った。

「離スナ」

 どうして反応していいか分からず、俺は前に向きなおす。
 人の目があるところで、こいつが直接こういう『見た奴が俺たちの関係性に何かあると分かる』形で接近してきたのは初めてだった。サウンドウェーブと俺の関係性なんか、俺が知りたいくらいなのだが、指を絡めるなんて行為はこのデストロンの中じゃあ普通は到底しねえ。
そして、『離されたくない』と。そうはっきり行動と言葉で俺に対して示されたのも初めてだった。
 こういうこと、だよな。
 俺は先ほどまで出てこなかった表現の糸口をやっと掴むことが出来る。

「……なあ、さっきの話。お前さんが俺についてどう思ってるかってのは分かったけどよ。俺がどうしたいのかと、あんたがどうしたいのかが入ってなかった」

 サウンドウェーブの手を握っている力が強くなる。聞こえているって意思表示だろう。
 俺の個人のコンパートメントが目前に近づく。
 歩きながらだが、この話は今すぐしなくてはいけない気がする。俺は言葉を続けた。

「俺は、俺の支配欲だとかが満たされても、あんたをそう簡単に手放したくねえと思うだろうし、そう思いてえ。お前さんはどうしたいんだ?」

 個人スペースのドアが開く。俺は繋がった手を握りなおし、振り返る。
 そして、サウンドウェーブが自分のコンパートメントに足を踏み入れるかどうかの選択を待った。