「気分は平気か?」
「気分モ、平気じゃナイ」
若干不機嫌気味な返事だが、どうやら返事をする元気は戻ってきたらしい。
俺も気を使ったのだが、初めてだから、まあ、痛いわな。
ここまで自分の機体が呪わしく思ったのは久しぶりだ、と横に座り込んだサウンドウェーブが腰を摩りながら小さく呟いたのが聞こえた。
そう思わせているのは他の誰でもねえ、俺なのだが。こういうメルヘンな機体とそういう行為をしたことがないし、先ほどド下手くそと殴られたショックからもまだ立ち直れていない。
ちくしょう。確かにお前さんが身が裂けるほど、いや実際裂けてはいるのだが。……痛いのは分かるが思いっきり殴りやがって。
まだ頭部ががたつく。
初物だというのは男冥利に尽きる話だ。しかし、こいつの場合は他とは違う事情があった。
サウンドウェーブには、機体の構造的にコネクタがない。ごまかしようがないのだ。本人はまったくそっちに興味が無かったようで気にしていなかったようだが、いざ事をしようとする段階になった時にその不自由さを自覚してしまったようだった。初めての接続は誰しも痛いもんだが、こいつの場合はコネクタがないからごまかしようがなく、前戯以外ではただただ中が歪み広がる痛みがあるだけだ。
「もうやめるか?」
今夜は、と一応の保険をかけて、一番言い出したくなかった言葉を搾り出す。いつかはまたチャンスがあるだろう。
しかし返ってきたのは予想外の答えだった。
「イヤ、続ける方ガイイだろウ」
「あんなに痛がったのにか?」
いや、俺としては最後までいけるならうれしいこと限りないが、こいつはどうするつもりなのか。なにか考えがあるのか。
思わず殴られたあご先を触ると、それに気づいたサウンドウェーブがすまないと溢した。
「……サウンドウェーブ頭イイ。俺にイイ考えがアル」
そういうとサウンドウェーブはおもむろに手の内から普段は端子接続に使っているコードを取り出した。
伝導コードか。
「お前と俺とで神経回路を繋いで、お互いの快感とやらを増幅しあえばいい」
「へえ」
そんなことも出来るのか。流石はインテリ。
「何回かゴマカシテ気持チヨクなれば、俺の内部の回路が接続することハ気持チのイイモノダと誤認してそのうちレセプタだけでも気持ちヨクなれる、と思ワレル」
そもそもなぜそれを先に試さなかったのかと思うが、どの程度まで痛いもんだと分かってなかったんだろう。続けられるなら御の字だが。提案者自体に自信がない案にいささか心配しないわけでもない。
「そういうものなのか?」
「……そういうモノダ」
最初は自信ありげだった語勢がだんだん弱くなってきているのも、先ほどの痛みを思い出しているようで。密かにだが、嗜虐心に少しぐっとくるものがある。
そこまで考えて、ブレインスキャンされる前に思考を切り上げる。
「繰り返しで条件反射的に、か。意外と回路って単純なんだな」
「オ前の回路と一緒にスルナ」
……いろいろな意味でやさしく出来る気がしない。
それでも、どうにかしようとサウンドウェーブの方から動いてくれているのだ。その短いコードで自分と俺を繋ぎ合わせる自発的なサウンドウェーブを見て嬉しいと思わずにはいられなかった。